No.1380 茄子のあれこれ
二十代の後半に大分に戻り仕事に就きました。
兄は他県で下命を拝し、妹は嫁いだので、当時五十代半ばの母と私の二人生活でした。家の斜め前にちょっとした畑があり、お蔭で夏野菜(トマト、キュウリ、ピーマン、ナス、ニガウリ、オクラ、ミョウガ、アスパラガスなど)には事欠きませんでした。
特に母のナス料理はどれも美味く、思い出すだけでも涎が…。
「茄子の夜一」はナスを縦半分に切って、皮の面に斜め網状の切込みを少し入れ、油で素揚げします。それに麵つゆとみりん(風味)のだし汁をヒタヒタにかけ、すりおろした生姜をトッピングすると、もうたまらない逸品です。
「ナスのはさみ揚げ」は、まずナスを縦半分に切り、片方ずつにナスのへたギリギリまで横に包丁を入れておきます。次に、刻んだ玉ねぎと合い挽きミンチを酒・醬油・塩・コショウで味付けし、片栗粉でよくまぶしてこねた「たね」をナスに挟みます。小麦粉を溶いてたねを挟んだナスにコーティングし、そのまま油の中にダイブ!カラリと揚がったナス半分型のはさみ揚げは、お好みで醤油やお好みソースをかけて食べます。油の沁みたトロリとしたナスと、甘みの増した玉ねぎと合い挽き肉のうまさと、ソース(醤油)の味との相乗コラボで、もうお口の中は、やみつきパラダイス!やめられない、止まらない!私は3~4個必ずいただきました。
ところがです。あのナイスバディーなナスをつかまえて、「ボケナス」「おたんこナス」とは、何たる罵詈雑言!「麻婆ナス」や「ナスのみそ田楽」等々、あの禁断症状が出そうになる料理に、舌も胃も心も魅せられ、麻痺したことはないのでしょうか?
ナスには、
○ 高血圧の予防やむくみの解消になる
○ 夏バテ症状を予防・緩和にもなる
○ 抗酸化作用があり、免疫力の向上やアンチエイジングにも効果がある
○ 皮の紫はアントシアニン色素なので、視力や眼精疲労の改善にも効果的
○ 食物繊維であり便秘の予防・改善、血糖値の上昇を緩やかにしたり、血中コレステロール値を低下させたりする働きがある
等々、多くの効能が紹介されていました。生活習慣病に役立つ野菜の一つなのです。ただ、カリウムが多いのが玉に瑕。今や、私は、ナスのはさみ揚げを1個押し頂く身の上です。
そんな有益な「ナス」なのに、何ゆえに「ぼけなす」と言うのかと思ったら、暑さや水不足のために栄養不足となり「外皮の色つやのあせ(ぼやけ)たナス」の意味だそうで、「ぼんやりした人、反応の鈍い人」への悪口として「ボケナス」というようになったといいます。恩を仇で返す造語です。
また、オタンコナスは、「おたんちん」という語が変化して出来た言葉だそうです。「おたんちん」とは、江戸時代後期の寛政~享和(1789年~1804年)の頃に新吉原の遊廓で生まれた言葉で、遊女たちが嫌な客をそう呼んでいたそうです。「おたんちん」は、「御」お+「短」たん+「珍」ちん=(おたん・小ナス)で、想像力の豊かな方なら放送禁止用語のPらしいということがおわかりでしょう。これまた、恩を仇で返す造語PARTⅡです。
「ナス」が日本に伝わったのは奈良時代だとか。当時は「奈須比(なすび)」と呼ばれており、高級品だったそうです。その名前の由来は、
○ 夏に実をつけるので「夏実」と呼ばれていたという説
○ 当時のなすには酸味があったので「中酸実(なかすみ)」の名がついたという説
のほかにも、「為す」「成す」につながるという説があるそうです。
その火つけ役となったのは、当時の将軍・徳川家康だと言われています。売れ行きがよくなかった「なすび」を知らしめるために、「物事を成す」の意味を掛けて「なす」として売り出したところ、縁起が良いとたいそうな人気が出たそうです。
茄子は瓜科の植物です。ウリの花は咲いても実のならない「無駄花」があるそうですが、茄子の花には本当にそれがないそうです。つまり茄子の花は実を成すということです。
「親の小言(意見)とナスビの花は千に一つも仇(無駄)はない」
こちらは恩に繋がる諺です。私は両親が亡くなり、叱ってくれる人がいなくなりました。
※画像は、クリエイター・ひらばやしふさこさんの「夏の朝。茄子の花。夏の朝陽の強い光がよくわかる。」と説明のあった1葉をかたじけなくしました。スポットライトが当てられたようですね!お礼を申し上げます。