No.711 ききます。聴きます。効いてきます。
「職業に貴賎はない。どんな職業に従事していても、その職業になり切っている人は美しい。」
「いいじゃないか、5年道草をくったら、5年遅く生まれて来たと思うのだ。」
「晴れた日は晴れを愛し、雨の日は雨を愛す。楽しみあるところに楽しみ、楽しみなきところに楽しむ。」
「禍はいつも、幸福の仮面をかぶって待っている。」
「登山の目標は山頂と決まっている。しかし、人生の面白さはその山頂にはなく、却って逆境の山の中腹にある。」
「今日、民衆の中に何が一番欠けているか。自分を信じ、人を信じ、自分の仕事を信じ、自分の今日の生活を信じていくというような信念が非常に弱いと思う。」
「あたたかい心で人のなかに住め。人のあたたかさは、自分の心があたたかでいなければ分かる筈もない。」
「戒めなければならないのは味方同士の猜疑である。味方の中に知らず知らず敵を作ってしまう心なき業である。」
「無心さ、純粋さ、素直さなどは人の心を打つ。その力は、こざかしい知恵をはるかに凌駕する。」
「真に生命を愛する者こそ、真の勇者である。」
「酒を飲むと、修業の妨げになる。
酒を飲むと、常の修養が乱れる。
酒を飲むと、意思が弱くなる。
酒を飲むと、立身がおぼつかない。
――などと考えてござるなら、お前さんは大したものになれない。」
吉川英治は、1892年(明治25年)から1962年(昭和37年)にかけて生きた作家です。『宮本武蔵』は、その1ページ目から匂いやかで、物語屏風でも観る思いです。格調ある文体にも「ほ」の字の私です。
上掲は、その人の格言の中から少し拾い読みしてみました。一体、いつ頃の、どんな場面での、どんな前後の文脈の中で語られたものなのか、「格言」の出所を明確にしてほしいなといつも感じている私です。
すでに下山中のわが人生です。ある意味、仕事半ばで迎えた定年退職でしたから、上り詰めた感はないのですが、それでもやはり中腹で覗いた谷底や厳しい断崖にも似た経験はありました。言わぬが花です。そのどれもこれも、私が私であるために、私が私になるために必要な出会いだったのだろうと思っています。
「山を登る時には足元しか見ないけれど、下山する時には周りを見渡せて胸のすく思いがするようですよ。」
と退職した時、畏友から言葉をかけてもらいました。人生の秋をゆるりと生きています。
それにしても、漢方の妙薬のように時を経るに従ってジワリと効いてきそうな吉川英治の言葉です。我が襟元を正させ、背筋に響き、丹田にしみこみ、心に効く格言なのです。
※画像は、クリエイター・ともたかさんの、タイトル「アントニオ猪木が亡くなった日に巌流島へ行ってた。」をかたじけなくしました。お礼を申します。