私は何者か、番外編 a dozen 短歌 37
弄ぶなかれ死という生者にのみ語りえぬもの一度きりの
日についで戻らないもの体力も知力もまして放った嘘も
かたちなどあるやなしやじゃあるまいにすぐに消えゆくなにも残さず
花野ゆく歩く速度の追いつかぬはるかに遠い枯野芭蕉布
春はそこ知っていること知らぬこと蕾の開く音だけ聞こゆ
地球儀が転がっていてそれなのにだれも拾わぬそんな週末
春空の願いを込めて見たきもの真昼の星よ眼凝らして
名のみとか春告鳥とかなごり雪君の脱ぎ散らかした人生
かいつぶり水のうえ駆け滑稽なそれほどまでに好きと言うのか
麦踏んでいまどのあたり流星よ包帯取れぬゴッホの耳の
枯野ゆく古い自転車漕ぎながらベートーヴェンの耳になりけり
塵拭い理科室の窓開け放つ人体模型の恋するままに