漂流するこころ 4
四、手紙のゆくえ
叔母の猫脚の鏡の前で
髪を一つに纏め
眠りに落ちた一瞬に流した涙を拭う。
すべてが
悲しすぎたし
すべてが
愛おしかった。
エクリュのカットソーに、私が押し潰した蟻たちが、まるでふられたルビのように散らばっている。
ルビはあの手紙の行間を彷徨う漂流者のようでもあった。
叔母のこころは
もう、ずっと前から
すでに
きまっていた。
じぶんの
歩く道は
いつも
自分との
たたかい
伯母の家の裏庭
大手毬の木立
ジャーマンアイリスの咲くあたり。
木漏れ日が手紙を持つわたしに降り注ぐ。
叔母が
何度も読み返したのか
封筒の角がまるくなっている。
その角に
燐寸の火を近づける。
手紙は
すこしの後悔と
理由のないうしろめたさと共に
スローモーション映像のような炎に包まれた。
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