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私は何者か、620
温かいお布団のなかで、くっついて眠る。そんな、ごく普通の(たぶん)ことが、かつて、味わったことのないものであって、あゝ、これこそが愛なのね。と、何も知らない子は思う。のであるが、これがまた、本当のことのようであるから、面倒である。この手、腕枕とかいう。そのうち、血が通わなくなって、痺れて、冷たくなったらどうするのか。などと、考え始める。その腕こそが愛なのかと。それにしても、寝苦しいものではある。しかし、そうは言うものの、この腕枕こそが最強であるかもしれないとも思う。その愛は本物か。そうしたいから、している。その、かたちを倣って、慣らし、馴らされて。いや、慣れではなかろう。同じかたちをもう一度試してみたとして、まったく同じことをしているわけではない。昨日のわたしは今日のわたしではない。同じことをしてみたとしても、同じことなど一欠片もないのである。その生命のある限り、留まるということは、あり得ないのである。だから、その腕枕は日々新たに作られるその愛とかいうものではないかと、疑念、いや、期待か、どんな意図か。与えることの、真に無垢の。昨日も今日も、今日思う明日のことさえ、作り出される新しいなにか愛のようなものなのか。などと、もう、ビールは最後の一杯である。ほんの、ひと巡り、足の先からまた、足の先までぐるっとまわって、ひと巡り。そんな、わずか、数分の。そのような、微かな思いを、ひとまずは記しておこう。
もう、終わりにするか、そもそも始まってもいないのか。とか。
ここしばらく見ないものに、他人の顔。他人の顔を見ずに暮らす。それでも、春はそこまで。
週末の家は寒さのために青ざめている。
目高は何処へ行った。
戯言。
戯言。なんて、洒落た物言い。
わたしは何者か。