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漂流するこころ 5


五、彼に、会いに

まっすぐに伸びる
商店街のアーケード

遠くから見ても
よくわかる
左手
M画廊の
ショーウィンドウに熊の剥製

その大きなカラダをこの世を生きるための仮の器として
あなたは誰のこころを宿していたの

こころとは
とっくに
さよならね

艶々した毛並みはかつて愛した人にどれほどやさしく撫でられたことか

あなたの謙虚で律儀な睫毛は二度と再びまみえることはない

虚な硝子の眼玉は遠い異国を見つめたまま
瞬きすら忘れている


手紙はもうない

叔母は戻らぬ眠りに落ちた

旅するように

夫に、会いに


次の朝

わたしは
彼には何も告げず

部屋を出た

ふたりでいることの寂しさがコーヒーカップの中にまで溢れてくる

彼は信じないかもしれないけれど、その寂しさに私は何度も溺れかけた

息苦しさで
何度も目覚め

そのたびに
傍で
寝息をたてる
彼の端正な横顔を
どこか異国の出来事のように眺めた


私は思う

その頬には
見覚えがあると

あの、ギリシアの戦士のような
そう
確か
あの嵐の海を往く航海士

鋭利な頬の影は
やがては
暗闇に溶け、死海へと注ぐ

彼は
夢の中を航海し

わたしは
遠い海で
こころを硝子瓶に詰め込む

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