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私は何者か、324


桜を見たのか、さよならしたのか、苦しくなかったか、好きなものは食べたのか。
ひとりこの世にさよならするのは、普通のことである。なのに、少しだけ、外野の私が未練がましく思ってしまうなんて。許して欲しい。

今年の桜は、例年通りであろうが、けれども、やはり美しいのである。年々、思いは深まる。桜の夜が明けなければいいと願った日もあった。
花びらは翔び、漂い、いつ果てるとも知らぬ、長くて短い旅をする。かと言って、恨み言など、拗ねごとなど、ひとつもこぼすことなく、すっとして、凛と。ここにあることの証のように、美しい姿を貫く。

己の姿を振り返れば、恥ずかしいばかりの刻の日めくり。いつもいつも、その気持ちの行き着く先を探している。沈めよう、花びらとともにその静かな流れへ。誇るのではなく、自然と。溶けてゆこう。

野の花なら、何がいい。れんげ、たんぽぽ、踊子草、カラスノエンドウ、しろつめぐさ、オオイヌフグリ、ほとけのざ、きゅうりぐさ、ハルジオン、ヒメウズ。

少しずつ束ねてその手に携えよう。眠れば、麦の若葉がチクチクするよ。蟻の行列も見える。小さな文字のように集まっては、散らばって、やがて消えてゆく。

さよならは告げたか。告げていないなら、それもまたいい。昨日のことは忘れても、誰しも明日が来ることを疑ったりはしないのだから。

流れはつづく。

誰かが行った後も。

それは、悲しいことではなく、また、楽しいことでもない。


私は何者か。


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