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私は何者か、517


バスのなかからわたしは空ばかり見ていた。ずっと遠くで台風が発生したとか、そのせいか空には何層も何層も、ミルフィーユみたいに雲が重なる。すらすらと流れてゆく薄い雲。頑丈な岩場みたいに動かない雲。いつのまにか消えてしまう雲。今朝つけた頬紅みたいな微かな淡い雲もみえる。

いつの間にか、わたしは、こことはちがう、別の場所にいる。


水琴窟。
竹の筒に耳を当てる。その途端、わたしは今とは違う世界に行ってしまうのである。不思議である。目を瞑り、耳へ注ぐ。足下の石の虚淵に落ちる水滴が、なにを打つのか。呼んでいるようにも、独言ているようにも。ほおっておいてと。いや、放っておけない。いつまでも聴いている。

水琴窟


冷たい水のなかの硝子玉は、一斉にこちらを見る。いや、こちらではなく、わたしを通り越して、さらにその奥まで見ているような。生命の宿らぬ、が、その、反映で、どきりとするような融合か。いや、ひとつになるだけよ。

硝子玉



蝙蝠はどんなふうに逝ったのか。逆さの世界はどうだった。かえって、良かったって。すべて逆さなら、なるほど、そうかもしれない。まだ、少し早かったんじゃないの。そんなふうな、あなたに手向けるよ、待宵草

待宵草


休むことにしたが、そうそう、休まってはいまい。そんなもの。そういうふうにできている。お昼に冷房効かせて、熱々のおうどんを頂く。大きなお揚げをドンと入れて。岐阜で買った七味唐辛子、尖っていない辛さ。そして、ビール。眠くなってきたな〜。ウンベラータの木の下でお昼寝。えっ、休まっていないって、休まってますけどー。まぁまぁ。いいことにする。

フィカスウンベラータ


樹下微人



わたしは何者か。


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