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おとなの旅 7
たくさんの客が支払いを済ませ、その場所をあとにする
私たちは1時過ぎの約束
囲炉裏を切った茅葺きに通される
女将が手づくりのちゃんちゃんこを持ってきてくださる
そして、着せてくださる
至福
初冬の献立にはきのこの鍋が加わる
とれたてのなめこと舞茸、春菊、仕上げに大根おろしで雪鍋風に
きのこのコリコリ感が頭の中までとどく
それは同時になつかしさの扉を叩く
囲炉裏の薪が時々パチンと爆ぜって笑う
薪の燃える独特の香りが、身体中に染み込んでいく
こころは古へと溶けてゆく
平和でこの上ない幸せな時が我らのうえに積もってゆく
女将から秘酒をいただき、竹の筒から注ぎ竹の器で飲み干す彼
そして、そのあと囲炉裏のそばでうたた寝している
すべて、計算し尽くされ、それでいて、あまりにも自然な設に、もう時の立つのも忘れてしまう
なつかしさの深みの中で、私と彼はすれ違いながらもお互いをパラレルワールドのように過ごし、きょうのこの日のために生きてきたのかもしれないと思った
こんな素晴らしいところを、ほかには知らないと彼は言った
僕の知らない、こんな素敵なことを知っているきみが魅力的なのだと
ただシンプルに嬉しい
秋の一日のできごと
恋するおとなの旅