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私は何者か、465



回転木馬には子供の頃から怖くて乗れなかった。それに、家族はだれも乗りなさいとは言わなかった。家族もみんな、同じような気持ちだったのかもしれない。うんと、大人になってから、そう、つい、この間、初めて乗ったような気がするが、いや、乗ったのか、乗らなかったのか、それすら覚えていない。彼は乗ってみれば、って、外から見守ってくれたような気がするのだが。それは、あくまでも、私の希望的観測であったのか。私の理想の画であったのか。回転木馬と言えば、映画「スティング」に出てくる、サンフランシスコだったか、海に突き出した桟橋の付け根の辺りにある、あの古ぼけたカルーセルよ。内からなにやら怪しげなものが、どんどん放たれ、また、内へと吸い込まれてゆく。実際に、やはり、怖いのである。同心円のその真ん中に、得も言われぬ怖さがある。あちらとこちら、みたいな、不思議な感覚に陥るのである。ほら、無事、こちらに帰って来れたのは本当のあなたでしょうか。その場から離れ、回転木馬を振り返っても、その、場所は時間が止まっているように見える。放射状に設置してある馬は、生きているのか、いないのか、目を見開き、鼻息荒く、駆ける。

なにをかける。

なにがかける。


何も、欠けない。


わたしは何者か。






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