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サステナビリティ体感型研修「AJINOMOTO GROUP Dialogue for the Future(ADF)」in 海士町(隠岐諸島)②

 味の素株式会社が11月10日(木)から11月12日(土)にかけて行った企業研修において15名の参加者が海士町に来島しました。隠岐ジオパーク推進機構も運営スタッフの一員として、プログラム作成から当日の運営を担当しました。( プログラムの概要を説明した前半記事はコチラから! ↓ )

後半記事では参加者の様子と具体的なアクティビティについてお伝えします!

Day1-11月10日(木)
12:40 来島(七類港から海士町・菱浦港)
 普段は研究室・本社など全国各地、配属も活動場所も異なる参加者の皆さん。朝早くの集合でしたが、無事に菱浦港まで到着してくれました。

プログラム1:山の時間(知々井)

14:30-16:30 山の時間
・チェックイン
 
着いたのは海士町の西側、知々井地区にある山。都会とは全く違う景色を山頂から見下ろします。けれどまだまだ島に来たという実感がない参加者も多いはず。
「どこで」「どうして」「なにを」したいから今ここにいるんだろう。自分の体調もじっくり観察しながら一人ずつ今の自分の気持ちを話します。

・ゆるめる
 
ここ海士町がある隠岐諸島と本土の間はフェリーで3時間ほど。多くの参加者が関東からの参加で、長旅を経てこちらに来てくれました。身体も縮こまって緊張している部位があるはず、ということで次に行うのはゆるめるためのエクササイズ。これからの2泊3日、自らの五感で思いっきり感じて楽しんでもらえるように全員で身体を動かします。

 ・循環を知る
 
ここからは外部講師としてお招きしたNPO法人 隠岐しぜんむらの福田 貴之(ふくだ たかゆき)さんと一緒に「循環」について考える時間です。山で湧き出る湧水、そのふもとで暮らす集落、海の内湾で行われている養殖。海士町がある中ノ島は面積約33.46㎢、人口は約2200人の小さな島です。この地の成り立ちが今も深く島民の暮らしに根付いていること、そしてその環境が循環に繋がっていることを、海士町が一望できる山頂で体感します。
 キーワードである「山」「海」「人の営み」という3つの言葉から「この島のサステナビリティとは何か」を考えます。「普段は規模が大きすぎて実感がないけれど、目の前に広がる景色があるから実感が湧く。」という声もあがりました。

サステナブル経営パネルディスカッション

20:00-21:30 サステナブル経営パネルディスカッション
 
夕食がおわると、夕食会場はディスカッション会場に早変わり。参加者が経営者4人を囲む形でパネルディスカッションが行われました。パネラーとして登壇したのは以下4名の方々です。


味の素株式会社 取締役 執行役専務 佐々木 達哉(ささき たつや)さん 
 「身近なものから社会に接点を」という思いで1986年に味の素株式会社に入社。営業、商品開発、経営企画など幅広い経験を活かして健康・栄養関連の通信販売の立ち上げや「Cook Do®」シリーズの商品開発などで活躍。2019年にはブラジル味の素社社長に就任。2022年より執行役専務。「食と健康の課題解決企業」としての取り組みを推進している。

株式会社風と土と 代表取締役 阿部 裕志(あべ ひろし)さん
 
海士町に移住した後の2008年に起業(株式会社 風と土と)。日本各地・世界中の人々に知恵を広げるための大切な場所として海士町を捉え、持続可能で幸せな未来を次の世代に手渡すための活動を行う。事業としては地域づくり、企業・行政の幹部向け研修や、出版事業など幅広く展開を続けている。

株式会社MATCHA 代表取締役 青木 優(あおき ゆう)さん
 
2013年に株式会社MATCHAを創業。いいものが人に伝わり、時代とともに残り続ける世界をつくることをビジョンに、世界最大のインバウンドメディアの運営や企業・自治体の観光施策のサポートを行っている。近年は日本各地のネットワークや情報蓄積を生かし研修事業の協働も行っている。ADFも味の素株式会社との協働で企画・運営を行ってる。

株式会社海士 代表取締役 青山 敦士(あおやま あつし)さん
 
2007年に海士町に移住し、海士町観光協会に就職。地方創生の離島として注目を浴び始めていた海士町の観光業に広く取り組み、2017年に株式会社海士の代表取締役に就任。2021年にはジオパーク×観光として泊まれるジオパーク拠点施設Entôがオープンした。本プログラムの実現にも代表を務める株式会社海士が手配から宿泊そして運営の部分で深く関わった。


 東京を基盤として活動するお2人と海士町を基盤に活動するお2人。活躍している場所も分野も違う4名が混ざり合う貴重なパネルディスカッションに、参加者は興味深く耳を傾けていました。そして活発な議論の中で「じぶんならどう考えるだろう」と自分事にしていくことも目的の一つ。後半は自由にざっくばらんに参加者も巻き込んでディスカッション。それぞれが「経営者」の目線で考えながら、サステナビリティについて疑問や意見をぶつけあう時間となりました。

 その後は各自解散して、自由時間となりました。港近くのスナックを訪れる様子や焚き火を皆で囲んで仲を深める様子もあり、あっという間に1日目の夜は過ぎていきました。

Day2-11月11日(金)
8:30 出発

プログラム2:海の時間(風呂屋海岸)

9:00-11:00 海の時間
・漂着ゴミを知る
 
2日目は海岸清掃から始まりました。海士町がある島前地域では島民が清掃を心掛けても拾いきれないほどの漂着ゴミが日々やってきます。あっという間に山積みのゴミ袋が並び、各々が印象に残ったゴミについて共有します。外国語のラベルが貼られたペットボトルや注射器など、漂着ゴミは世界規模の社会課題であると感じられたようです。

・私たちの生活と海の問題を知る。
 次に取り上げる課題はマイクロプラスチックについて。朝から綺麗にした海岸の砂が入ったトレーとピンセット、水槽で実験が始まりました。手順は①自然の海藻や木くずは取らず、人工で出来た欠片だけをとって砂をきれいにする→②水槽に①で綺麗にした砂を入れるという順番です。
 すると取り切れなかった小さなプラスチック片が次々に上澄みに浮かびました。マイクロプラスチックとは海中の波や紫外線で分解された、5㎜以下の微細なプラスチック片のことを指します。自然に分解されずに長期間海中で漂うことで、海洋生態系ひいては人体へ悪い影響を及ぼすことが懸念されています。一見きれいにみえる隠岐の海にも私達の普段の生活様式が着実に、影響を及ぼしていることが分かる実験でした。

・今の海で生きる生き物の目線で考える。
 
さて、ここまで外部講師を担当して頂いた福田 貴之(ふくだ たかゆき)さんが最後のプログラムとして取り出したものは「ウミガメになれるグッズ」でした。これは2020年に隠岐諸島・隠岐の島で漁網に絡まって弱っていたアカウミガメが発見されたことに由来します。英語で"生きる"を意味する「リブ」と名付けられ、懸命な保護活動の後に今は再び海へ戻っています。
 この実話にちなんで、人間とは違う身体の構造をしている海洋生物が漁網などの人工物に絡まった時の大変さを体験できるのがこのグッズなのです。人間だけでなく共に生きている動植物まで目線を広げて「サステナビリティ」を繋げるプログラムとなったのではないでしょうか。

プログラム3:問いの時間(風呂屋海岸)

11:00-12:00 問いの時間
 
午前中最後のプログラムを担当するのはメンタルコーチの藤代 圭一(ふじしろ けいいち)さん。ここ海士町と沖縄の二拠点生活をしながら、「問い」を通して一人ひとりの自分らしさと考える力を育む活動を日本そして世界にもフィールドを広げて行っている方です。今回は「山の時間」そして「海の時間」を過ごして気づいた課題や離島から過ごす中で生まれた自己の葛藤を取りこぼさないように、「問い」を持って参加者と共に向き合ってくれました。

・改めてかんがえる・問いをする・相手を知る
 
まずは「なぜ自分が海士町にいるのか」「どんな問いをもって時間を過ごすのか」、1日目のチェックインでも答えたことを改めてかんがえます。そして藤代さんから良い「問い」の立て方について話された後は、滞在中に持つ自分の問いを立てることに。
 そのために行ったのが「問いのプレゼント」でした。グループに分かれて、「今までのこと」「今のこと」「これからのこと」を話します。仲間と一つ踏み込んだ話をすることで仲も深まり、新たな気づきがあった参加者も。対話がおわった後にメンバーからもらうのが「問い」というプレゼントでした。今後も定期的に見直すプレゼントとなり、そしてまた自分に贈りたい問いを考えてくれればうれしい限りです。

12:00 昼食 
 お弁当を食べる間にしたことは、午後から行う事業所訪問でお世話になる事業者の方への「問い」を考えることでした。
 今回訪ねた3人の方はいずれも島の循環の第一線で向き合っている方々。その深みを敬意と「問い」を持って捉えられるように、と話しながら移動に向かうことになりました。

プログラム4:「島の事業所を訪問する」

13:00-15:30 「島の事業所を訪問する」
・崎みかん再生プロジェクト
 
海士町の最南端、崎地区では昭和30年頃からみかん栽培をしてきた歴史があります。しかし後継者不足とみかん農家の高齢化によって徐々に栽培量が減少していた中、持ち上がった案が「崎みかん再生プロジェクト」。今回お話を伺った白石 宗久(しらいし むねひさ)さんは海士町に移住し、「みかん農家」という職業に挑戦しました。

 冬を迎えると商店から聞こえてくる「もう崎みかんは出てるのか?」という会話。昔からずっと親しまれてきた「地元のみかん」を守るために行う日々の地道な活動や白石さん自身の思いについて、実際に収穫活動を体験しながら対話を深めていきました。

・隠岐神社
 
こちらのグループが訪問したのは後鳥羽院が御祭神として祀られる隠岐神社の禰宜として活動する村尾 茂樹(むらお しげき)さん。隠岐は昔、「遠流の地」として多くの流人が流され、後鳥羽院も承久の乱によって御遷幸されたお一人。約19年間という時をこの海士町で過ごされ、仮御所として使われていた源福寺跡に1939年に建設されたのが現在の隠岐神社です。

 2021年が後鳥羽院御遷幸から800年だったことを記念する顕彰事業の運営にも精力的に活動されている村尾さん。島民と共に伝統を紡ぎながら、一つの神社を経営していくことの難しさとやりがいについて率直な対話が続きました。

・潮風ファーム
島を代表する企業として
 
最後のグループが訪問したのは隠岐のブランド牛である隠岐牛を生育する隠岐潮風ファームさん。上長を務める安田 勝(やすだ まさる)さんに出迎えて頂き、施設を見学しながら「問い」を深めていきました。ここでは仔牛を生み育てる繫殖部門とその牛を肥育して肉牛として育てる肥育部門の2つに牛舎は分かれています。繁殖部門の牛舎にいるのはお腹が大きくなった牛や生まれたての仔牛と共にいる母牛。母性本能で警戒心が強いため我々が入ると一斉に立ち上がります。肥育部門の牛舎との雰囲気の違い驚く一同でした。

 そして穀物などの原材料の高騰によって上がるエサ代やコロナ禍における肉牛消費の落ち込みなど食を扱う企業としての課題が対話の中で上がると、参加者の興味も高まったのを感じました。同じ「食」を扱う企業として共感もありながら、これからの畜産業について共に考える時間となりました。

16:00 事業所訪問に関しての振り返り
 事業所訪問から帰ってきた参加者はグループごとにわかれて収穫があったことを付箋に張って整理していきます。その後はグループごとに発表を行い、まとめていきました。普段も食に関わる仕事をしている参加者たちですが、事業者を通してみたもの感じたことは普段の意識と異なる部分もあり良い刺激となったようでした。

プログラム5:「高校生と対話し、問いを持つ」

17:30-19:30 プログラム5「高校生と対話し、問いを持つ」
 
2日目最後のプログラムは島前高校の生徒との対話です。島前高校は「島留学」という取り組みで全国各地から生徒を募集しており、ユニークで新しい活動に取り組む生徒が在籍しています。「高校生に普段関わることがない。上手くできるだろうか・・」と不安に思う参加者もいましたが、普段関わりが少ないからこそ今の等身大の自分をさらけ出せるのではないだろうか。そして彼らが話す言葉に10年前の自分を重ねて、彼らが語る未来から10年後の自分を考えてみてほしいとこの場を設けました。島前高校生にとっても社会に出てキャリアを歩んでいる参加者との会話が将来のヒントになってくれれば嬉しいです。

20:00 夕食

Day3-11月12日(土)
 あっという間に最終日を迎えたサステナビリティ体感型研修。朝ヨガを行ったり、窓一面に広がる大自然をじっくり眺めてみたり、それぞれの朝を過ごします。

プログラム6:「モヤモヤの時間」

9:00-12:00 プログラム6 「モヤモヤの時間」
 
2日目でコーチングをしてくれた藤代さんや運営スタッフとして関わった本機構職員の石原 紗和子(いしはら さわこ)さんから隠岐やジオパークのことについて改めて話を聞き、この3日間の島の時間をまとめる準備に入ります。一人になって考えながら、未来に向けて持って帰りたい問いを作るのです。

13:30-14:30 まとめ
 一人で考えた後は参加者全員で円になり、同じ時間を過ごした仲間と問いを共有します。普段は部署や拠点も違い、ADF研修で初めて知り合った参加者同士ですが2泊3日で大事にしたことがありました。
・肯定ファースト(beingは常に肯定しよう)
・Connect before Correct(正すことよりも繋がろう)
・Try to be honest(ありのままに正直でいよう)
 「サステナビリティ」という大きな課題に明確な答えと問いを持ち帰ることを目指したのではなく、むしろ言葉にならない気持ちを仲間と共に抱えて帰ってほしかったのです。

15:15-17:55 離島(菱浦港-七類港)


プログラム全体の企画・運営を行う株式会社MATCHAの代表取締役・青木さんが綴った記事もありますので、是非ご覧くださいね。



運営スタッフからのひとこと
 
隠岐は常に新しい人が来て、去っていく還流の町。その中でも短い2泊3日という期間で参加者の方々に残せたものはどんなものだったのでしょうか。離れてる島で過ごすと少し非日常体験のような体感があるかもしれないですが、参加者の道のりは研修も含めこれからも続いていきます。
 普段とは全く違う場所で過ごしたからこそ考えられた環境のこと・自分自身のことを日常に戻ってもずっと考え続ける種になり、いつかその種が花開いたお話をまたこの島で聞けることを願っています。遠い中お越しいただきありがとうございました!