まずいよ、彼女が来ている!!
早朝に、化石のような過去が蘇った。 30年も前の過去の場面。まだ切れていないと(別れてはいないんだ)と思っていた恋人が休暇でインド旅行から帰国した時に、わざわざ空港まで迎えに行ったバカな私。
インド旅行といってもツアーで、それもその頃頻繁に会社生活に疲れたらインドに逃避旅を1週間ほどしていた私に感化されてのこと。私のインド旅といっても現地で友人でもありガイドでもあるインド人に守られながらの贅沢OL旅。大したことなどないもない。
話戻って、多分あの頃もう二人はダメだったのだ。表面上は彼が浮気をしてそれでもスッパリ!!と別れ切れない私達がいただけ。それでも私は何かにすがっていた。それはもうこの恋が終われば結婚なんぞもう無理だと思っていたから。当時の世間体での婚期を逃しつつ在る焦り状態中であった為に、彼をほな!さいなら!!と出来ずにいたのだ。
あわよくば、インド旅行がキッカケに元の鞘に収まるのでは?と、海外から戻る恋人をお迎えにくる健気な彼女を演じようと頑張った。
関空の出国ゲートで待っていた。定刻より到着は遅れていた。ようやく馴染みのある姿が出て来た。そして私をみて笑った!!と思った。でもそれは私の錯覚だった。
「けいちゃん、まずいよ。彼女が来ている。」
咄嗟に「あっ、ごめん、帰るわ」それだけ言って空港内を早歩きした。そしてようやく知った。私はもう振られていたんだ。浮気やなんやと騒いでいた彼女が彼女になっていた。自分のバカさ加減に笑いが出たけど、その時何故が泣けなかった。悔しいとか情けないとかそんな感情を押し殺して堂々と歩いているふりした気がする。9月頃だった。秋風がこれ以上私を惨めにしないようにと願った。
あれから一年もしない内に彼は結婚した。
相手はその彼女ではなかった。その時インドツアーで一緒になった人。結婚の報告を少し申し訳なさそうに、でも相手が例の彼女ではない安心感を含んだ声で彼のお母さんからされた時、口では「おめでとうございます。よかったですね。」と言いながら心の中では「なんでやねん!!」と呟いていた。
あの時の感情を私はまだ出し切っていないのだ。それを今朝思い出した。「けいちゃん、まずいよ。彼女来ている」その言葉と共に。