万象森羅シェアワールド〜狸人族タルト編〜第一章:養子、九死一生
第一章:養子 八節:九死一生
「坊ちゃん、坊ちゃん。」
野営中に竜巻に襲われた曼珠商会調査団。15名の団員は、避難していた穴蔵から引きづり出され、ある者は岩肌に打ち付けられ、またある者は行方が知れずにいた。タルトに至っては竜巻に跳ね飛ばされながらも、奇跡的に沼地に落ち、衣服の下、体に巻き付けるように資料を抱えていたおかげで、即死にはならなかった。
「ん、ここは。あがっ。」
「鉱山近くの沼地のようです。他の団員は見当たりません。」
「そっか。僕、助かったんだね。みんなを探しに行かないと。」
「まだ無理です。いや、このままだと坊ちゃん自身も危ない。もうしばらく寝て、救助を待つしかありません。」
タルトは鉱夫の声を聞きながら、何を言ってるんだろうと思っているうちに、再度気を失ってしまった。
シジカは商会を出て、調査地へと戻って行った。追加で命じられていた規模の調査は、タルトの報告書で完了していた。調査団の撤収が出向く理由であるが、連絡員を使わずに、自ら向かうのはアザミの懸念を四々花も感じていたからであった。
宝石亀の採掘団は、シジカよりも遅れて1週間後に出発した。二百名を超える大所帯であった。大量の資材機材を運ぶ必要があったため、首都から暗闇市場まで専用列車で移動していた。私的に敷設した線路であるため他の乗客はおらず、暗闇市場まではわずか5日であった。しかし、暗闇市場から鉱山までさほど離れてはいなかったが、採掘団の大きさが故に移動速度は遅く、宝石亀は騎獣車内で鉱物の活用法について黙考していた。
シジカは調査地へと戻って来ていた。だが、鉱山を間近にしたその時から、生まれて初めての焦りと動悸で混乱が収まらずにいた。
「タルト。どこじゃ、返事をせい。」
あらん限り叫びながら、鉱山周辺や試掘跡、現場一帯を隈無く探し回り、見つけた物はテントの一部であろう残骸のみであった。
狼狽、不安、目眩がシジカを襲い続け、闇夜の中ただ一人になった時、空を見上げるも、星は霞んで見えなくなっていた。
一夜を野営地跡で明かしたシジカは、後ろ髪を引かれる思いを断ち切れず、首都へ帰る道すがら、何度も引き返しては調査団の行方を追っていた。帰路も半ばに差し掛かったところ、供に諭され、ようやく覚悟を決めることができた。
遅々として進まない採掘団。鉱山まであと半日ほどの場所、日が暮れる前に宝石亀は、最後の休憩を取るよう指示した。
騎獣車から降りた宝石亀は、遠く鉱山の見える荒野に佇み、採掘団の様子を眺めていた。
「やれやれ、長旅とまではいかんが、座りっぱなしは甲羅が傷みそうじゃわい。」
そう呟いた宝石亀は、食事の準備が整うまでの数分の間、周囲を見て回ろうと歩きはじめた。鉱山が近づくにつれ、平地だったところに点々と、大小様々な岩が転がっていた。普段であれば特に気に留めない景色であったが、ここは鉱山近く、小さめの岩をまじまじと宝石亀は観察しながら、再び鉱山の方へ目をやった。
「何か、どこか不自然な岩が多いの。ふむ、あの岩はどこか。」
宝石亀は持ち前の観察眼を最大にして、あるひとつの岩に注目していた。その岩はまるで空から落ちてきたように地面をえぐり、半分に割れ、一際存在感を示しているようであった。
「救護班。ここへ。」
宝石亀はそう叫び、割れた岩に駆け寄った。
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