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#5 付き纏うネガティブとコタツ

一睡も出来ない。
検索で【下咽頭癌】の次に出てくるワードは、、ステージ4余命、生存率、死亡率、ガン患者の最後、ガン転移。
全てが簡単に『死んじゃう』に繋がっていく。

調べれば調べるほど死の恐怖に苛まれ、急に男が泣きじゃくる。
その度に寄り添ってくれるゆうちゃん。

ゆ「大丈夫だよ、泣きたい時泣いていいよ」

泣きながら思う事はいつも一緒だった。


なんでだ?なんでだよー!?なんで?
生きたいよ!まだ生きたいよ!
やりたい事も沢山あるのに悔しい!悔しいよ!
なんで俺がこんな目に合わなきゃならないんだ!
なんで俺がガンになったんだ?
何か悪いことしたから罰が当たったのか?

そんな事を考えても考えても答えは出なければ、
恐怖からも逃れられない。

そして、朝は普通にやって来る

朝ご飯はまったく食べられない。
美味しそうにも見えなし食べる気すら起きない。


ゆうちゃんといつもの公園に愛犬モハの散歩に出てみる。
遊具で遊ぶ子供達、ストレッチをしてる人、ランニングする人、大きい道路にむかって管楽器の練習をする人。各々が楽しそうな変わらない日常の光景。




岡安は違った。
晴れているけど自分の周りだけ薄暗く見える公園。

ゆっくりゆっくり気持ちを誤魔化すように歩くが、靴の裏に付いた吐き捨てられたガムのように粘っこくネガティブな思考が付き纏う。

俺がいなくなったらゆうちゃんとモハだけで散歩するのか…


ボーっと歩く岡安を気遣うゆうちゃん

ゆ「まだ歩く?」

岡「うん…」


そのまま用はないが駅まで無駄にただただ歩いた。
駅の近くでお洒落なスペインバル系キッチンカーを見つける。


ゆ「これ食べよう!おかちゃん」

岡「うん…」

まったくお腹が減ってないが何か食べた方がいいからと
ゆうちゃんがパエリアとクラムチャウダーのセットを
買ってくれた。

ゆ「クラムチャウダーは帰り道揺れてごぼれそうだから今飲んじゃお」

と近くの駐輪場のちょっとしたスペースで飲んだ。

ゆ「熱いけど美味しいね、おかちゃん」

岡「うん、うんまいね、あついね」

ゆ「寒いからちょうどいいね」

岡「…そうだね…」

美味しかった、でも
…生きてたらまた食べれるかな…


家に帰り、手洗いうがい。
テーブルにある彩り豊かなパエリアを食べてみる。

鼻から抜ける海鮮の香りと食べ応えのある大きい具、
少し芯の残ったお米を噛むと魚介の旨味が口に広がった。
でも段々とスプーンの進む速度は遅くなり半分で
止まった。

ゆ「もういらないの?」

岡「うん…明日食べるよ」

スプーンを置いてまた考え込んでしまう。
これが最後のパエリアになっちゃうのかな…

ネガティブマインドがやって来る。

拭っても拭っても『ネガティブ』は取れなくて、
段々自分が弱って行く感じがした。


ネガティブな時間の中にもたまに休憩みたいなのがある。
少しだけ気分が落ち着いた時にふと思い出した。
そういえば寒くなってきたから、そろそろコタツを出そうと何日か前に言ってたなと

岡安はクローゼットの上の段の奥から掛け布団を出し、コンセントを繋げ、コタツをセッティングした。


岡「出来たよー、コタツ暖かいよー」


コタツに入る前になぜかゆうちゃんが目をうるうるして岡安の胸にくっついてくる



ゆ「おかちゃん死んじゃやだよー」


泣いている。すごく泣いている。


ただコタツを出しただけなのに、
なんでこんなに胸が苦しくなっちゃうんだろ。


岡安がいなくなったら、このコタツはゆうちゃん一人で出さなきゃならないんだ。


春、片付ける時は掛け布団をクローゼットの上の段にしまうのはやめよう。
ゆうちゃん1人でも出せるように
下の段に片付けてあげよう…

いや、片付ける前にいなくなっちゃうかも…

自分も辛いし怖いけど
それよりもそばにいる家族もこんなに辛い思いをしているのか…

ごめんよ。ゆうちゃん。

これが逆だったら自分はどうなっちゃってただろう…
想像したらそれもまた怖くて怖くて…


おい!ガンよ…どっか行ってくれ…
潰れちゃいそうだよ

                       つづく

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