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#32 放射線治療室に曲名が思い出せないけど絶対聞いたことのある曲が流れていました。

通いの放射線治療は土日、祝日以外は毎日ある。


受付をして、名前を呼ばれ、放射線室に入るといつもリラックス効果のある曲がいつも柔らかく流れている。
上着を脱ぎ、半裸で台に乗り、体と機械のポジションを合わせマスクを被る。


スタンバイができると技師の先生方は別室に移動し機械をコントロールし、首にあるガンに轟々しい音と共に放射線を照射。

照射時間は体感で5分ないくらいであっという間に終わる。

あっけないのだが、これを繰り返すことで岡安の中に潜むガンを倒すことができるのだ。

そんな照射のある日。
何だかいつもと雰囲気が違う放射線室。

ん?なんだろう…
先生がちがう?いや、いつもの先生
治療室?…壁紙?いや一緒だ。なんだ?

チャーラー…チャーラーチャーラーチャーチャー♪

いつもと違かったのは流れているやわらさがない室内の曲だった。

ん?なんだ?この曲は!
聞いたことあるんだけど・・・なんだっけ?


クラシカルな始まり、壮大な緑の草原を駆け抜けて、
そのまま空に羽ばたき、
やがて大きな歓喜に包まれるような感じ。

すると、突然ティンパニーが躍動し、琴のハーモニーのが入ってくる。


ここ!ここは聞いたことある!


テンションが上がるんだなぁー
だからこの曲…あんまりリラックス出来ないな…


技「マスクかぶせていきますねぇ」


えっ?えっ?えっ?

放射線技師の先生はいつも通り。
うそ。通常運行?
この曲で…

何だっけこの曲…

モヤりのまま治療スタート。


ウィーガチャン、ズオーーーーン、ガチャン。


照射終了。


技「お疲れ様でした」


あっという間に終わって会計の支度。

モヤモヤしまくった。
次の日も、そのまた次の日もその曲が流れた。

曲が気になる!!!


流石に放射線室に音楽検索アプリの【Shazam】を持ってくわけにはいかない。
そもそも携帯は着替えと共に置いてかないとダメだ。

技師の先生たちも忙しそうに次々に患者さんを治療しているのでなんか聞き辛いし、質問の仕方も難しい。


技「お疲れ様でした」



気になる気持ちを抑えて今日も家に帰る。
帰り道、ふとあの曲を鼻歌で歌う。

あれ?

体が?耳が?脳が覚えてる感覚。
どんどんメロディーが思い出される!

そうだそうだ!
なんだっけこの曲! 

チャーラー…チャーラーチャーラーチャーチャー♪


あ!わかった!
慌ててYouTubeで検索!
たしか…ワールドカップの曲のような…

ゴーーーーーーーーーーーーーール!

FIFA2002日韓ワールドカップテーマソングだ!
これが放射線室で流れてたんだ!

【anthem】

あの感動は今でも覚えている。

自国開催。
トルシエジャパン。
先輩や友達とテレビで観戦していた。
ワンプレイワンプレイに一喜一憂し、
スタジアムが割れるほどの歓声がテレビのスピーカーから響く。

ベルギー戦、小野からの一攫千金の柔らかいスルーパスに鈴木が反応してDFの寄せに体制を崩しながらも
ワンタッチシュート。


ゴーーーーーーーール!!!

懐かしい!本当に懐かしいよ!

ただ…
何でまたこの放射線の部屋で?



2002 日韓共催
2006 ドイツ
2010 南アフリカ
2014 ブラジル
2018 ロシアを経て
次回は2022はカタールだよ。

まさか2020の年の暮れにこの曲が聴けるとは!


そして、放射線の先生との面談日。
あの曲について聞いてみた!


先生「喉の痛みはないですか?」

岡安「特にないですね」

先生「皮膚は大丈夫そうですね」

岡安「はい、大丈夫です」


とスコアレスのまま面談は進む。


面談終了間際だった。

先生「では次回の面談は…」

岡安「ちょっといいですか?」


岡安は先生のお話をインターセプトし一気に前線へと質問をフィードする。

岡安「あの…質問なんですが、治療中になぜか2002
ワールドカップの曲が流れるんですが、なんでですか?」

無回転の質問はゴールと真っ直ぐ向かう!

先生「え?何の曲ですか?ワールドカップ?」

弾かれる質問。

岡安「照射中にサッカーワールドカップの公式の曲が流れるんですよ」

こぼれた質問を押し込む岡安

先生「ワールドカップ…サッカーがちょっとわかんなくて…放射線の部屋の中の曲はランダムに流れるので私もわからないですねぇ…すいません…次回は来週の木曜日ですね」


質問は無情にもサッカーを知らない先生のクロスバーを越えていった。

ピーピーピーッ!

質問はノーゴールで終了。


曲がランダムの分かったが、あのチョイスはいったい誰の選曲なんだろう。


                       つづく

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