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不確定日記(聞こえやすい)

ベランダの洗濯機は最近やたらと暴れがちで、その最中に窓を開けているとちょっと心配になるほどの音がする。どうにか洗濯終了を知らせる音が鳴って見に行くと、洗濯機はベランダに対して三十度ほどは斜めに移動していた。あれだけの音を立てて、角度が変わるだけか、とも思う。道まで落ちた洗濯機が水と私の部屋着を撒き散らしながらジタバタする想像すらしていた。ガタついている脚に雑巾を噛ませる。人質に、静かにしてろ、という誘拐犯の気分。

窓際を通ったのでそこにある鉢植えが気になり、拭いたり植え替えたりし始める。床に土が落ち、拭いた。ちょっと拭いたら思ったよりも汚れているので、どんどん拭く範囲は広がり、敷物や本を退けては拭くとさらにその周りが気になって、泥縄式の拭き掃除をした。
毎日掃除をするという人もいるのだから、1日経てば埃は溜まっているのだろう。
ついでにまだ三和土の隅に吹き溜まっていたソメイヨシノの花弁を全部掃除機で吸い取る。

掃除と洗濯の流れでずっと窓は開いていて、部屋は道路沿いの二階なので人の話し声がわりとそのまま入ってくる。距離は取れているはずなのに、買い物の際のレジの透明なシート越しの会話よりも生々しい。「寄らない寄らない。学校には寄らないよー」、「俺の携帯鳴らしてください」、水道工事の音、「これ、ごはん炊くとき混ぜればいいから、ね?」あとは鼻歌や、どうしても夕方の放送に反応して遠吠えしてしまう犬。
ずっと窓を開けていると肌寒くなったが、上着を着てしばらくそのままにしていた。

たけのこごはんを炊くことにして、米を浸水させる。合間にさらに窓に寄って折り畳み椅子に座る。そろそろ少し静かだった。短編集の中の短いのくらい読めるかな、と座ったままでギリギリ届く本の山に手を伸ばすと、ふいにメールの着信音が一度だけ聞こえた。


そんな奇特な