オカヤイヅミ

漫画家・イラストレーターです。「雨がしないこと」「ものするひと」「いのまま」「おあとがよろしいようで」など。趣味は自炊です。

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最近の記事

『不確定日記2024春-秋』のおしらせ

「文学フリマ東京39」 にて今年の日記と日々のイラストをまとめた本『不確定日記2024春-秋』(本文152ページ・1500円)を発売します。 日記もしくは短いエッセイが約46本、イラストが77点入っています。 日記の大部分はnoteに書き付けていたものですが、加筆、修正もそこそこしています。 表紙は日光に行った時の記念写真をスケッチしたもので、日光旅行の日記も収録しました。 以下はそのまえがきです。 文学フリマに行く予定のある方で、気になったらお寄りください。 (文学フリ

    • 不確定日記(正体は晴れ)

       もずくや黒酢やトマトしか食べたくない、という時点では、まだこの暑さじゃあしょうがない、という気持ちだったが、左瞼の内側にものもらいができたあたりで、ああ、これは抵抗力が下がっているなあ、という実感は湧いた。  生理が予定日になっても来ず、体がごわつき、ちょっとした取材に出かけただけでぐったり疲れた。とくに仕事が切羽詰まっていることもなく、運動量が多いわけでも(まさか)ない。風邪の症状かというとそうでもない。  生理に伴う偏頭痛がいつもよりひどく、鎮痛剤が効かないので週末は二

      • 不確定日記(湿度の底)

         梅雨の屋外は、降っててもそうでなくても空気が限界まで水分を含んでいる。 日記を書いていない間にグループ展に参加したり、浴衣を着たり、雨に降られたり、ベランダーのプランターになったプチトマトを鳥に食べられたり、「出来事」は多くあり、書いておけばよかったと思うが、全体的には「蒸し暑かった」という感覚にすべて覆われている。 夢をふたつだけ書き留めていた。 「起きたときに、あ、怖い、と思ったが、悪夢を見たわけでも何かを忘れているのでもなくて、ただ寒くて足が縮こまっているのだった

        • 不確定日記(クミンの幽霊)

           もう夕方なのに、友人たちはみんな消耗した顔で玄関を入ってくる。まだ外気がだいぶ蒸し暑い。我が家が駅から遠くてごめん、と思う。一番早く着いて、まだ料理を並べる前のテーブルで仕事をしていたTちゃんが、「クミンのにおいがする」という。クミンはこれから使うつもりだが、まだ棚から出してもいなかった。  ぽつぽつと皆が集まり、手土産を受け取って冷蔵庫に入れたり、氷がないからすぐそばのコンビニで買ってきてもらったりする。パートナーのいる人たちの話には、それぞれ越しにぼんやりと像を結ぶ各

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        • 不確定日記
          137本
        • お焚き上げ
          7本
        • 不確定旅日記(台湾)
          3本

        記事

          不確定日記(夏の細切れ)

           夢で確かに大笑いしていたが、私が実際声を出していたかどうかはわからない。  することは多かった。ここ数日、グループ展の搬入や、家で料理をする仕事をして出たり入ったり荷物を運んだりが多く、とにかくものが散らかっている。すべてを片付けるのは無理なので、することを選ばねばならない。昨日は大雨だったが今日は晴れていたので、まずシーツを洗い、寝床に迫る勢いで積み上がった衣類の整理とだいぶ遅い衣替えをすることにした。私の夏の衣類は黄色や紫や水色、緑、ピンク。冬物はおおむねモノトーンで

          不確定日記(夏の細切れ)

          不確定日記(水無月)

           オリーブオイルが高い。こういうことはあとで読み返したときに絶対忘れているから日記に書くべきだ、と思ったので書いた。  昼から電話で打ち合わせ。すぐ脱線する私の話をやんわりまとめようとしてくれる編集氏。まとまらなかったので明日また話すことになる。  午後、梅干し用の梅も届いて追熟していたののヘタを取り洗って塩に漬ける。コロコロと容器の中に重ねていく景色は、最近隙があるとやってしまう「スイカゲーム」に似ている。  そのあと画材店に額縁を買いに行く。小さいのをいくつか買って、

          不確定日記(水無月)

          不確定日記(到来)

           どうも髪の毛がまとまらない、と思っていた。一昨日シルクスクリーンの工房から帰ってきて朝ぶりに鏡を見た時、だいぶ乱れていたが、作業に没頭していたせいかと思っていた。今朝はいつもよりヘアオイルを多めにつけた。しかしどうも不穏だ。小蝿が多い。  昨日、ただじっとして体力を回復したので、今日は食材を買いに出かけた。道沿いの民家の庭木の影と日向の境があまりにくっきりしていたので「デッサンでは形の境目を意識しろ」と言われたことを思い出す。影の内側にだけ、赤褐色の実が落ちて潰れていた。私

          不確定日記(到来)

          不確定日記(二度会う)

           グループ展に出す作品を作るために、シルクスクリーン版画を自分で刷ることのできる工房に行った。バス停を降りてから、急で細い坂道を降りる。午前十時はもう暑くて、見晴らしのいい坂道は祖父と父の墓のある霊園を思い起こさせるからか、お盆のような気持ちになった。まだ梅雨前で、梅干しも漬けていない。  工房に着いて、PCを借りて版を作るためのデータを修正していると、Kさんが入って来た。「運命?」と言われる。  ここ1ヶ月でKさんと偶然会ったのは二度目だ。前は時間が空いて新宿のデパートの地

          不確定日記(二度会う)

          不確定日記(潰して煮る)

           誰かの怒鳴り声で目が覚めた。マンションの共用部で誰かが怒っていた。怒号の内容までは聞こえなかったが「帰れ」という言葉だけが何度も聞こえた。その後、いなすような優しい声が聞こえ、怒号はおさまり、優しい声を出せる人はすごいな、と思う。私はといえば、足がすくんでいた。高所と、地震と、怒鳴り声が怖い。怖いと、足首のあたりが震える。  恐ろしさで目覚めたことを引きずりたくなくて、再度少し眠った。  昨日干し忘れた洗濯物を洗い直し、植物に水をやる。青紫蘇とバジルは、先日少し食べたが、

          不確定日記(潰して煮る)

          不確定日記(夜の梅)

           梅があるのがわかる。ずっと匂いがしている。Yさんが庭の木になったのを送ってくれた。大きな梅の木を想像して嬉しくなる。熟れた梅のにおいはこの時期しか嗅げなくて、一年で一番好きなにおいだ。仕事をしているときも、キッチンでも、私は壁のほうを向いているから梅の匂いは常に背後にある。見えないけれど、少しの緑から濃い黄色、しっとりした黄赤までのグラデーションが、あるなあ、と思う。  匂いを嗅いでいたいから、梅仕事をまだしたくないが、匂いに急かされて早くしなきゃ、とも思って、しかしどちら

          不確定日記(夜の梅)

          不確定日記(ピンク色のこと)

           歯列矯正用のリテーナーを入れるためにもらったケースが、派手なピンク色だった。  わたしが子供の頃は1980年代で、世間的にはまあまああった色とジェンダーを紐づける偏見は、我が家に関してはなく、というか、「ピンクは女の子の色、というような刷り込みも、女が過剰に女の役割を演じるのも大変によろしくない」という明確な教育方針のもと、母はわたしに「女児向け」のものを買うのが嫌そうだった。そのため、ちょっとピンク地にキャラクターの絵が描いてあるビニールの靴が欲しいなと思ってもあんまり

          不確定日記(ピンク色のこと)

          不確定日記(同じ箱に入れない)

           朝、ドアのチャイムで起きた。下半身はレギンスだけだったので、その上にズボンを履いたが、寝癖もむくみもそのままで、そうやって出ると、宅配便の人はいつも少し困った顔で、でも明るく、「すいませんねー!」と言ってくれる。本当に申し訳ない、と思うがわたしは本当に寝起きが悪い。  ところで、先日、はじめて会った人が、同じ年頃の同じ職種の人とそっくりだ、と思った。髪型も、背格好も、服装も。思い出してみると、他にもそっくりな人が何人かいる。そう思い始めると、誰がどのひとだか、わからなくな

          不確定日記(同じ箱に入れない)

          不確定日記(さっと惜しむ)

           「かるかや」に並びにいきましょう、と近所の同業の友人と待ち合わせた。やっぱり朝は浮腫んでいて、顔がぼんやりしている、と思いながら出かけたら10分歩いたところで携帯電話を忘れたことに気づく。さっき通り過ぎた工事現場の警備員の前を再度通るのが恥ずかしい。取りに帰って、また今度は別の道を通った。合計25分歩いて池袋西武の屋上に着くと、もうだいぶ行列ができていた。並んでいる時は曇っていて雨が降りそうだったが、注文して席に着くと晴れた。列には傘をさしている人がちらほらいたが、日差しと

          不確定日記(さっと惜しむ)

          不確定日記(味覚の情緒)

           ここ最近、あれ、なんかすごい美味しいな、と思うことが多く、それはタコだったりケイジャンチキンサンドだったり干し椎茸だったり、元々好物ではあるが、毎回しばらくジーンとしてしまうような感激があるので、ちょうど大雨だったりもして気候や体調による情緒不安定を疑っていた。わたしは自分の気分の上下を基本的にあまり信用していない。どこか他人事なのは、子供の頃からの癖だ。同級生に無視された時などに役に立ったようにも思うし、相談相手として冷めすぎている、と言われたこともある。  ともあれ、

          不確定日記(味覚の情緒)

          不確定日記(残り香探し)

           西武が買収されて改装するのは知っていたし、屋上の飲食店や、地下に入っていたスーパーが徐々に閉店していたから、そろそろかな、と思っていたらやっぱり池袋西武の屋上の老舗うどん屋「かるかや」も閉店するらしい。惜しむ人たちで連日行列だと聞いていたので、見るだけでも、と上ってみると、昼食どきも過ぎた頃だったのでもはや品切れで誰も並んでいなかった。景色を描いておこうと、資料用に写真を撮りながら歩く。鶴仙園で多肉植物を眺め、小さいものを一つ買おうか、とも思うが、私は植物を野放図にしがちで

          不確定日記(残り香探し)

          不確定日記(足のつる人)

           目覚ましのアラームを早めにかけると、無理やり目が覚まされるので、びっくりした拍子に直前に見ていた夢を忘れてしまう。いつもより少し遅めの時間に設定して眠ったが、早朝に地震があり、警報が鳴ったので結局飛び起きた。私の住んでいる場所はその後なにも起きなかったが、遠くで大きく揺れたようだった。二度寝に入りそうな頃、今度は足がつった上に猛烈に尿意があった。悶絶し、足を揉みながらトイレに行き、それでもどうしてももう一度眠りたかった。  警報の時点でアラームは止めてしまったので、だいぶ遅

          不確定日記(足のつる人)