実生活での指導(6)”書く”理論の指導「現代人物論 池田大作」小林正巳著(昭和44年9月25日)第32回
「人間革命」と会員
「小説 人間革命」 の第五巻が連載されると報道されてから、私は毎日胸をときめかせて十三日のその日を待っていた。新聞受けの口金がカタッと音を立てたとき、思わず飛び上って、新聞をとりにいった。無我夢中で読んだ。そしていいようのない懐しさをおぼえた。昨年七月から数えて約九ヵ月である。私はなんだかその九ヵ月の間、空白のような物足りない思いであったように感じた。それがいま満ちてくるような気持だ。私はこれからの指針をこの小説に求めていかなければならないと、心に誓ったのである」(大阪・五十四歳の会社員)
これは、四十四年四月、法悟空のペンネームによる小説「人間革命」が創価学会機関紙「聖教新聞」で執筆再開されて間もないころの同紙投書欄の一コマである。池田をうけとめる平均的学会員の感覚を端的に表わしたものとして紹介した。
「人間革命」は、戦後戸田を中心とする創価学会の再建の過程を、事実にそくしながら、時代的背景、論評をまじえて書かれた大河小説である。
池田自身、小説のなかに山本伸一の仮名で登場している。これまで書かれたものすでに五巻、池田はあと五年ないし七年かけて、自分が会長に就任した三十五年五月三日までを十数巻にまとめるという 。
「何百万の人たちが私の胸の鼓動に傾注しているのを感じます。学会の真実を後世に残したいという、使命感と期待感で書いています。これが平和革命の指針となることを信じるし、思想家の役割もそこにあると思う。大きな建設をする場合は根が深くなくてはいけない。七百年前の指導をいまの人たちに見える部分に映して現代に生き、未来に生きる思想となさなければならない。それが『 人間革命』です」
膨大な執筆の量
ただし、「人間革命」は池田の著作の一部に過ぎない。このほか、「立正安国論講義」「御義口伝講義」など多くの教学講義「家庭革命」「政治と宗教」「科学と宗教」それに雑誌、新聞などに寄稿した随箪も数多い。さらには、内部の機関紙(誌)に書いた指導、それに 大きな会合における講演の原稿など、彼がこれまでに書いた原稿は大変な分量にのぼる。それらの書は、いずれも創価学会員の人間革命の指針となるのである。そのエッセンスを抜粋したものが、「 指導要言集」としてまとめられている。
これも投書の一コマ。
「指導要言集を一語一語読み始めました。するといつしか、目頭が熱くなり喜びが胸に 溢れてきました。この一冊がどれだけの力があるか、また重ねて池田会長の指導の偉大さを深く反省したのです。今後一歩でも二歩でも 、実践を重ねて、『 指導要言集』を読み返し、信心のかてにしていく決意をした次第です」(北海道、十九歳の女性)
清書は自分で
池田は「三十七歳ぐらいまでは一日四十枚書けたこともあった。現在は九枚から十枚です」というが、彼の忙しさから、これだけ書くことはおそるべきエネルギーである。「この正月は調子がよくて一か月間で約三百枚書けました」と嬉しそうに話したこともある。
私自身、十数年間も字を書き続けてきた経験から、失礼ながらはじめはにわかに信じがたい気がした。だが、いろいろな機会に雑誌などに寄稿する元の原稿をみても、筆跡、直しの具合から池田が書いたものに間違いない 。
「若き日の日記」は三十一年までの分を三巻にまとめられているが、この先まだ三十五年までの分が、大学ノートにビッシリ綴られている。学会内部の強い要望で、引き続き本にまとめられていくそうだが、原稿用紙で千数百枚に 及ぶ分量。池田は書き写したかなりの量の原稿用紙を私に示しながら「結局、私がやらなければならないんですと笑ってみせたが、まったく多忙である。
書くための読書
大阪へ行く車中、講演用の原稿に手を入れている池田をみたこともある。ただやたらに書くだけでなく、文章もかなり苦労して練っているようだ。
私はこの書をかくのに彼の著作、講演からかなり引用したが、正直なところ、どの部分を選択するかに最も苦労させられたものだ。というのも無駄なセンテンスが少ないからである 。
池田は二十代の日記に原稿がまとまらなくて苦しんだ模様を綴っているが、いまの筆力を養ったのは、やはり書く訓練と読書量のたまものかも知れない。某大学会の席上「文章が思うように書けません。どうすればよいでしょう」との問いに池田は、
「文章がそんなに思うように書けたら苦労はしない。トルストイだってたった一枚の原稿を書くのに何十枚も破り捨てている。書くためには読んで読んで読み抜くことだ 」と答えた。書くことの苦しみを体験したものの言策である。
理論武装のかなめ
「これからはしゃべるだけではいけない。書けることが近代の武器です」という池田は、その武器をフルに発揮してきた。
「書かない人は忘れっぽいし、勉強もしない。戸田先生も 書いたものの話は空回りがないとおっしゃっていましたが、書かないことには英知の人間は作れない。これが訓練のポイントの一つです」
そこで、彼は幹部に対しても、書くことを指導する。
公明党議員は党の機関紙にどんどん書くよう仕向けられ,幹部たちには内部の様々な機関紙に書かせる。
言論部,教学部、文芸部、現代マスコミ研究会、近代思想同志会など様々な内部機関の会員たちも、それぞれ勉強し、思索を凝らして書く。大学会などでは二 、三人で一冊の本を書くようにすすめる。いうまでもなく書くためには読まなければならない。したがって力がつくというわけだ。というのも今後いっそう激烈となる言論戦に備えて、理論武装した人材の育成、そこに池田の狙いがあることは間違いない。