「手塚治虫 ブラック・ジャック展」がやっぱりすごい。
「ブラック・ジャック」は大好きな作品だが、一人でもこの展覧会に行ったかというと行かなかった。
強く行きたいと言ったのは、中二の娘だ。
彼女は半年前くらいにハードカバーの愛蔵版を読んでおり、記憶も新しい。
私の方は、大分前なので、覚えていないものも多い。
が、さすがに一人では無理なので、じゃあ、と付き合うことになった。
★チケットについて
前売りは、ローソンチケットか、東京シティビュー(六本木ヒルズ)オンラインチケットサイト(会員登録、オンライン決済要)での一時間刻みの日時指定制になっていた。
前売りが売り切れていなければ、当日券も発券される。
わたしは、当日の日曜日の朝7時すぎに六本木ヒルズのサイトから、10時から入場のチケットを購入。
その時点で、東京シティビューのチケットサイトでは、当日、どの時間帯も「◎」と余裕のある状態だった。
当日でもオンライン購入だと前売り価格である点は重要だ。
入場料は当日券か前売りか、さらに平日か土日祝かで料金が違う。
今回私たちは、以下の料金となった。
★行き方
我が家からは新宿経由になる。
大江戸線 新宿西口駅から六本木駅まで行き、そこから徒歩10分弱を歩くルートに決めた。
夫のアドバイスで、大江戸線六本木駅の三番出口から出て左を向くと、上を走る首都高に沿う形となるので、その道をまっすぐ歩くと六本木ヒルズに到着となる。
方向音痴のわたしでも間違えようのない安心ルートだった。
久しぶりの六本木ヒルズは、こんなんだったっけ?と思うサイズ感。
まわりにも高層ビルが林立していると思い込んでいたが、そうではなかった。
そしてビルを見上げながら、ここからが問題だと思う
大きなビルってのは、どこが入り口かわかりずらく、かつ複数の入り口があったりするとやる気をなくすのはわたしだけだろうか?
内部に入っても構造がよくわからず、迷った挙句、目的の場所まで最長ルートをたどることも珍しくない。
今回は時間指定もあるので、迷うのも最低限にしたいと思いつつ、ひっかかるのが六本木ヒルズ52F 東京シティビューという名称。
アート展なのに、シティビューってどういうこと?
森美術館とは違うの??と。
来る前に読んだ、ブラックジャック展の公式サイトには簡易地図と、【専用入り口 「ミュージアムコーン」以外からは入れない】との案内があったが、ミュージアムコーン?? 工事現場の赤いコーンしか浮かばんし意味わからんって感じで、流していた。
そして、六本木ヒルズ、大勢の人が来るんだし、案内は親切だよね、行けばわかるよねと。
で、取り敢えず、うろうろ、キョロキョロしていると、柱にポスター発見!
じゃあ、このあたりだよねと、辿っていく。
と、あったのは、短い通路(橋?)とその先にあるエレベーター。
結果的にそのエレベーター棟が「ミュージアムコーン」だったが、はっきりわかるような案内はなかったと思う。
だから、「これでいいんだよね?! ね?!」みたいに、確認されても困るだろう娘に言いながら乗った。
「ブラックジャック展に行くエレベーター」って大きく表示があればいいのになあ。
とにかく、そのエレベーターで3Fに行き、再び短い通路を渡ると、そこは
六本木ヒルズの3Fフロアー。
通路の先で、係が「ブラックジャック展はこちら。チケットを拝見します」と案内している。(同じ52Fフロアでやっていた北斗の拳展も案内されていた)
当日券用のチケットカウンターもある。
チケットのQRコードをもう出すのかとアタフタしつつ、娘との二人分をスマホで提示。
この後さらに二回、チケットを見せる必要があるのが小さく面倒であった。
それから誘導ラインに従いエレベーターに乗り52Fへ。
そしてわかったが、東京シティビューというのは、窓の大きな展望室のこと。
同じフロアに、今回北斗の拳展をしていた森アーツセンターギャラリーもあり、森美術館は一つ上の53Fだった。
つまり、本来、展望室であり(名前納得)、そこの外周の展望窓ガラスを含まない内側部分をパーティションで展示空間に仕立てたのが今回の開催場所だった。
★いざ、ブラックジャック展へ
さて、10時開場の現地だったが、わたしたちが入場したのは10:30。
まずは、巨大全面ガラスの展望空間部分でフォトスポットがお出迎え。
手術台に寝転んで、ピノコとブラックジャックに挟まれてみたり、丘の上の家でブラックジャックと見つめ合ったりの写真が撮れるスポットとなっていた。
ここでの写真撮影は10組も並んでいなかったため、待つことはなかった。
このブラックジャック展、私自身が、あまり宣伝や記事を見なかったため(期間が短いせいもあるのかな)、そこまでは混んでいないだろうと思っていた。
先に述べた通り、その日、東京シティビューのチケットサイトでは時間予約券は売り切れの時間帯もなかった。
のだが。
フォトスポットの先、幅の狭い入り口をくぐると、いよいよ原画展のスペース。
予備知識がなかったため、どのような空間が広がっているのか、期待しながら足を進めた。
★そして、原画展示会場へ
原画の展示スペースに入ると…。
混んでる。
めっちゃ。
なにしろ限られたスペースにたくさんの原画を展示するため、展示と動線をつくるのを兼ねたようなパーティション的柱?がたくさんあり、狭いし通路と呼べるものがない。
原画が展示されたコの字型のスペースがいくつもあり、そこに満員電車のように人だまりができる。
そのコの字同士も隣接している。
原画展なので、展示物のサイズが小さいし、それが、あまり間を置かずに並んでいる。
みんな「原画」のだいご味を味わうために来ているので、自分も含め近くでじっくり見たい人ばかり。
つまり人の流れが動かないのだ。
(何年か前に萩尾望都「ポーの一族」展を見た時を思い出した)
入口からの直線距離5mを30分以上かける感じに愕然。
これは、時間指定の意味があるのか?
全部見るのに何時間かかるのか?!
正直、人を入れ過ぎじゃないかと思わざるを得なかった。
「見る順番はないので、空いているところから見て下さい」との声掛けがあるも、この込み具合、人の流れ、展示方法だと、メリットは少ないように思え多くの人が順番で流れていた。
可能なら平日をおすすめしたい。
★圧巻の原画たち
さて展示内容だが、原画500点以上が、200以上のそれぞれのエピソード紹介文と共に展示をされている。
それぞれのエピソードの紹介文を読みつつ、お連れの人と「この話は、最後は~」とか「この話、好き」などと、話している人も多かった。(基本的にエピソード一つにつき一枚の原画が展示されている)
わたしも娘と「この話、覚えてる!」などと短く話をしつつ進んだが、最後の方はそれぞれのペースで別々に見る流れとなった。
原画は圧巻という他ない。
セリフの吹き出しに残るえんぴつ。
ホワイトやベタの跡。
絵のタッチは、単純というかわかりやすいのだけど、でも、表情も、雰囲気もセリフも、豊かなのだ。
そして、リズムがある(と思う)。
一枚一枚に画と話の立体感があるし、流し見なんてできない。
そりゃもう、ここにいる人みな、一枚一枚、自分が読んだときの気持ちを思い出しながら、あるいは、感動を新たにしながら見ちゃうよなあと思った。
デジタルで書かれた漫画も多い現在、(同じく手書き原稿がなくなりつつある文章作家もそうだけど)生原稿というものは廃れていく一方なのだと思う。
すごく切ない。
大倉集古館でインドの古布を見た記事にも書いたが、デジタルは、保存性と言うことでは利便性も高く、アナログより長く残っていくと思う。
でも、でも、生原稿には思いをはせる余地がある。
生原稿、それを前に悩み、それに手を触れながら握ったペンで自分を刻み付けていった手塚治虫という偉大な漫画家がいたという事実、それを手渡され、最初に読んだ人がいて、それを取り囲んでいた人がいる事実。
一体何人の人がその原稿に触れ、どこでどんな時を重ねて今自分の前にあるのか、それを思うだけで、ワクワクする。
その「余地」は、それを見る「わたし」が入ることもできる余地なのだ。
★手塚治虫という生き方に裏打ちされた作品
医師免許を持った手塚治虫が切り開いた、医療まんがという分野。
今回の展示には、医学生時代のノートの複写も展示されている。
小さな展示だが、とても印象に残っている。
その絵の細かさ、丁寧さ正確さにため息が漏れると同時に、ブラックジャックの原点を垣間見た興奮と感動を味わった。
どの話にも、命や人間を見つめる厳しくも優しい目があり、書きたい思いに突き動かされて出来上がった作品なのだと思う。
これだけのものに裏打ちされたブラックジャックが名作にならないわけがない。
展示は、様々なテーマごとにエピソードを集めた構成になっている。
色々あったが、特に印象的だったのは、「母」をテーマにした名作群や、動物を扱ったもの、キュートなピノコや、ブラックジャックの「モテ」エピソードなど。
とにかくじっくり見ているといくら時間があっても足りない。
終わりが見えないので、途中、係の人に「展示はあとどれくらいか」聞いて、次のコーナーで終わりですと言われてほっとしたくらいだ。
で、わたしが展示会場を出たのが14:40。
自分でもびっくり。
途中、時計を見ることもほとんどなかったのだが、そりゃ、お腹がぐーぐー鳴るのも納得の4時間越えだ…。
たぶん多くの人がそのくらい見ていたのではないか?
娘は遅れて、15時に出てきた。
その後ショップをみて帰路についたが、ランチには遅いし、翌日は月曜日なので、遅くなるのは避けたい。
紆余曲折し、結局、何も食べずにビアードパパのシュークリーム買って帰りるの巻…。
都心って、お茶空間、常に混んでません?
★連載時の話
ブラックジャックは、1973年に秋田書店の週刊少年漫画雑誌「チャンピオン」で連載が始まっている。
ちなみに、同時期に「チャンピオン」に連載していた水島新司「ドカベン」もわたしが好きな作品だ。
先日のNHK番組「アナザーストーリーズ」でもやっていたが、当時、手塚治虫はスランプで、時代遅れと言われつつあった。
劇画が出てきたせいもあるだろう。
担当編集者いわく、「手塚の死に水を取ってやるという気持ち」でブラックジャックの連載が始まったらしい。
連載スタート後の人気投票も下位だったが、一度、新作が載らなかったことで、抗議や問合せ電話が出版社にじゃんじゃんきたのだそうだ。
そこで、人気投票に反映されない大人や女子高校生の読者層がいることがわかってきて、人気も上がったとのことだった。
★「職業:手塚治虫」の稀有な人
ということで、予想外の長丁場を終えての思い。
手塚治虫のすごさに圧倒された一日だった。
才能と努力とそれらが突出する人がいる。
職業:手塚治虫
職業が自分と一致するような特別な一人なのだ。
自分のやるべきこと、やりたいことに邁進し続け、困難にもぶつかり、周りも巻き込んでの様々なことがあっただろうけど、でも、すばらしい作品を残し、今も感動を与え続ける。
世代を超えるもの、その事実に、それを作り出した人に、胸が熱くなる。
名だたる漫画家が言う「手塚先生は神様」という表現は、決して大げさではないと体感した一日。
娘の希望だったが、行って良かった!
会場展示には、忘れていたり、読んだことのない作品もあったので、完全版の全話が読みたいなあ。
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