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素人がボードゲームを製作、販売する方法〜市場調査、黒字化への戦略編 Part2〜

 下記記事はボードゲームにおける製作、流通のコスト面から黒字化を模索する内容となります。本記事は販売、マーケティングといった売上面から黒字化を模索する内容となります。二つを合わせて読むことで自作ボードゲームの継続性のある黒字化への戦略が見えてくると思います。


年間何個売れればプロになれる?

 プロのボードゲームデザイナーは委託でも自作でも面白いボードゲームを製作し続けることで収入を得ているようです。では私のようにたった一つしかボードゲームを製作出来なかった素人は年間何個販売すればそれだけで生活できるでしょうか?自分のためにネットでかき集めた情報をベースに算出しています。正確ではないですが、計算根拠を記載しますので目安としてください。

前提となる数値

販売価格:3,000円
原価:1,000個を中国等で製作し、コンテナ輸送することで原価率30%程度になるらしい。
※少し情報が古く、円安、原油高の現在はそこまで落とせないかもしれません。
委託販売手数料:ネット系で20%〜30%程度、大手小売、卸で40%〜50%程度、バランス良く販売することで40%とします。
倉庫:都内23区外で1,000個を保管する倉庫の賃借料として、10坪、月の坪単価5,000円、年間600,000円とします。
運送費:中小企業である製造業者を参考に5%とします。
広告費:ボドゲーマにブランド広告を出す場合、月38,500円です。年間462,000円とします。
年間営業利益計算式:販売価格×販売個数×(1-原価率-委託販売手数料率-運送費率)-倉庫賃借料-広告費
生活費:日本の平均年収を参考に450万とします。
年間営業利益>450万となることでボードゲームのみで生活できることとします。

販売個数毎の利益

1,000個:▲312,000円
2,000個:438,000円
3,000個:1,188,000円
4,000個:1,938,000円
5,000個:2,688,000円
6,000個:3,438,000円
7,000個:4,188,000円
8,000個:4,938,000円

回答

 ということで正確には年間7,416個以上売る必要があります。しかも、ただ売れば良いのではありません。倉庫は1,000個分のキャパしかないので、コンスタントに1.5ヶ月に1,000個売りきって、年間8回転させる必要があります。む、難しい…。
 でも「無謀だからやめましょう」なんてつまらない大人みたいなことを言うつもりはありません。チャレンジしていきましょう!

自作ボードゲーム販売のターゲットとは

 ボードゲームの市場規模は70億と言われており、ボードゲーム好きは毎年大量に投下される新作の中から面白いゲームを探す傾向にあります。また、ボードゲームを保管する自宅のスペースも限られていることから、中古販売してスペースを空けたり、買わずにボードゲームカフェで遊んでいると考えられます。ネット情報ですが、インディーズ系ボードゲームにおいて、2日間しかないゲームマーケットでは販売個数100個でヒット、200個で大ヒット、次にゲームマーケットに関係なく累計販売個数では1,000個超えでヒット、4,000個超えで大ヒットとなるようです。ほとんどのインディーズ系ボードゲームは在庫が尽きた段階で市場から撤退してしまうようです。
 即ち、年間8,000個をコンスタントに売り続けるためにはボードゲーム好きにアプローチしたところで達成することはありません。特にボードゲームが好きではない層にも積極的にアプローチしていく必要があります。

コンスタントに売り続けるために必要な戦略の3つの焦点

 売れ続けるボードゲームになるための戦略を考える際、着眼すべき焦点は3つです。
認知率:その商品を知っている消費者の比率。
配荷率:その商品を買おうと思えば、物理的に買える状態にある消費者の比率。
プレファレンス:消費者のブランドに対する好み、主にブランド・エクイティ、価格、製品パフォーマンスの3つで決定する。
※ボードゲームは繰返し購入されないので、製品パフォーマンスはそこまで影響しないと思われます。
計算式:自作ボードゲーム販売個数=全ボードゲーム購入者×認知率×配荷率×プレファレンス 

事例:ゲームマーケットで売れるゲーム

 ゲームマーケットには2日で約20,000人が来場します。その2日間どちらも出展することでその20,000人に対する配荷率は100%になります。
計算式:販売個数=20,000人(来場者)×認知率×100%(配荷率)×プレファレンス
販売個数を決定する変数として認知率とプレファレンスが残ります。しかし、新作が多く、皆一様に自作ゲームのプレファレンスを高めるような時間的な余裕もないことから、プレファレンスでの差別化は難しくなります。よって、ゲームマーケットでたくさん売るためには認知率の向上が最重要戦略となります。素人でありながらゲームマーケットで完売している方の多くが当日までに認知率をあげておくことの重要性について説いています。
 ただし、この戦略の問題は配荷率とプレファレンスでの差別化が難しいゲームマーケットでしか通用しないことです。多くのインディーズ系ボードゲームが在庫が尽き次第市場から撤退してしまうのは、ネット店舗、リアル店舗といったイベント系以外の販売チャネルで売れ続ける見込みがたたないからだと思われます。

売れ続けるボードゲームの戦略とは

 3つの焦点から戦略を考えていきます。

認知率

 自作ボードゲームにおいては、コストをかけずにSNSで広告するのが主流だと思います。より効果が高い広告をコストをかけてうつことでも高めることが可能になります。よって、お金を工面することも含めて、頑張れば解決出来そうです。

配荷率

 ボードゲームが好きではない層も含めて幅広い層にアプローチしていくため、出品が容易なネット店舗のみならず、難しいリアル店舗への販売チャネルを増やしていく必要があります。しかし、販売スペースに限りがあるリアル店舗で販売してもらうためには、既にネット店舗でコンスタントに売れ続けている実績が必要になります。よって、まずはネット店舗で実績を残すために、ボードゲームをネット購入する層の配荷率を高める戦略が必要になります。ネット店舗における配荷率はボドゲーマ、booth、Amazon、楽天といった先への出品を増やしていけば良いので、頑張れば解決できそうです。

プレファレンス

 プレファレンスを高めることで、認知率、配荷率が向上するたびに販売個数が伸びていくこととなります。ボードゲームの数だけ戦略がありますし、戦略が誤っていればどんなに頑張っても高まりません。よって、自作ボードゲームのターゲットを具体的にイメージしながら、ターゲットのプレファレンスがあがる戦略を考え抜く必要があります。いくつかの売れ続けているボードゲームの共通する戦略として、有名な賞を獲得し、面白いゲームであるというお墨付きを得ることで幅広い層のプレファレンスを高めているケースがあります。大手メーカーが認知率、配荷率の向上を代わりに担ってくれる委託販売契約のために、有名な賞の獲得のみを目指して新作を製作し続けるというのも戦略として理にかなっています。

ボードゲーム好きではない層がボードゲームをネット購入するタイミングとは

 UNOZEROの普及戦略を検討する際、私の勝手な想像でターゲットを考えました。子供が二人いる40歳夫婦の会話です。
ママ「あ、明後日ママ友が子供2人連れてくるんだった。忘れてた。」
パパ「退屈しないようにボードゲームとか買っておこうか?」
ママ「そうね、明日届くように予算1万円でAmazonで適当に3、4個買っておいて。」
 さて、この時パパは何をチョイスするでしょうか。PCを起動させながら何を買うか考え始め、下記のように異なるジャンルのゲームをバランスよく買うことを検討し始めました。
時間かかる系:人生ゲーム、モノポリー、カタン
戦略系:オセロ、将棋、チェス
カード系:トランプ、UNO
パーティ系:ジェンガ、ツイスター
 この検討に残った商品のことをエボークト・セットと言います。結果的にパパはモノポリー、オセロ、トランプ、ジェンガを買いました。このエボークト・セットの中からパパの好みを反映し実際に選択される確率のことをプレファレンスと言います。このようなターゲットをイメージした場合必要になる戦略は、Amazonに出品すること、広告を打って認知してもらうこと、40歳男性の好みになること、の3つが必要になります。
 売れ続けるボードゲームになるためには、認知率、配荷率を頑張って解決しながら、ターゲットを具体的にイメージしてプレファレンスを高める戦略を検討、実行していく必要があります。プレファレンスに関する戦略を検討する際、更に二つの方向性があります。
水平拡大:ファンを増やす
垂直拡大:各ファンのファン度を高める
 ボードゲームは一回購入されて終わりですので、基本的には水平拡大の戦略を進めることが重要になります。カタンのように拡張版を増やしていくのが垂直拡大の戦略となります。

自作ボードゲームのプレファレンスの高め方

 プレファレンスを高める戦略はボードゲームの数だけありますので、私の事例を紹介させてください。

ボードゲームを製作した理由

 ゲームマーケットすら知らなかった私がUNOZEROを製作したのは、オセロ並の簡単なルールと将棋並の奥深さを兼ねたボードゲームがたまたま完成し、時間をかけて適切な戦略を実行していけば40歳パパの戦略系ゲームのエボークト・セットに残れるのでは!と独りで盛り上がってしまったからなんです…。おそらく、一般的な入り方ではないと思います。その後、戦略を練るためにオセロや将棋の過去経緯を調査し、将棋が平安時代から1000年以上かけて発展してきたことを知り卒倒しました(笑。

自作ボードゲームの特徴

 一般的なボードゲームは初心者でも楽しめて30分程度で終わるような工夫がなされています。UNOZEROはとても奥が深いが故に勝ち方を知らない初心者同士では終わらない可能性があります。とても説明が難しく売りにくいボードゲームであるため、認知率、配荷率よりもプレファレンスの向上を優先して戦略を考えています。プレファレンスを高める戦略を考える際の中々面白い練習材料だと思います。
UNOZEROの特徴について整理します。
長所:オセロ並のシンプルなルールでありながら将棋並に奥が深い。
短所:将棋並に奥が深いことから、勝ち方(終わらせ方)を知らないと終わらない可能性がある。
解決策:遊び方(持ち時間制)と勝ち方(終わらせ方)を広める。
 将棋は1,000年以上かけて、この勝ち方(終わらせ方)を積み上げ続け、さらにその勝ち方(終わらせ方)を書籍や将棋教室で積極的に広めてきました。「とても奥が深い」という同一の形容詞であっても、勝ち方(終わらせ方)が広まっていないUNOZEROにとっては「中々終わらない」というマイナスに働き、勝ち方(終わらせ方)が広まっている将棋には「やり応えがある」というプラスに働きます。1,000年以上かけて積み上げ続けてきた勝ち方(終わらせ方)が広い層に広まっている状況こそが目に見えない将棋のブランド・エクイティであり、幅広い層のプレファレンスを高める効果を発揮しています。

自作ボードゲームのターゲット

 日本において、オセロ、将棋、囲碁、チェスをやったことがある人口は約6,000万人と試算されており、十分なマーケットが存在しています。更に調査を進めていくと、「オセロは短時間で終わるけど少し物足りない」、「将棋はやり応えがあるけど少し時間がかかり過ぎる」と感じている消費者がいることがわかりました。オセロ、将棋に不満がある消費者をターゲットにして「短時間でやり応えがあるゲーム」というブランド・アイデンティティを確立していくことで、6,000万人存在するマーケットのシェアを奪取できる可能性が出てきます。

自作ボードゲームの中長期的戦略

 自作ボードゲームの特徴を正確に理解し、ターゲットを具体的にイメージしながら、そのプレファレンスを高めるために今年から実行するのが下記です。

この戦略を分解します。
・賞金を出すことで競技志向の高いプレイヤーへUNOZEROを垂直拡大させていく。
・競技志向の高いプレイヤーによるUNOZEROの勝ち方(終わらせ方)を動画に記録する。
・その公式戦動画をSNSへ配信することで幅広い層へ遊び方(持ち時間制)と勝ち方(終わらせ方)を広めていく。
・公式戦にてアイテム持込可とすることで将棋が1000年以上かけて積み上げた勝ち方(終わらせ方)を10年で積み上げる。
・「わずか30分の知能頂上決戦」をキャッチコピーとすることで、短時間でやり応えがあるボードゲームであることを認知してもらう。
 もしこの戦略がうまくいき、幅広い層のプレファレンスを高めることに成功した場合、10年後から認知率をあげるための広告投資を始めつつ、リアル店舗に営業して配荷率を高めていく予定です。また、ボードゲームの販売に拘らず、中々面白いコンセプトに仕上がった公式戦自体の認知率、配荷率、プレファレンスを高めていくことで動画コンテンツとしての価値を高めていくことにも同時並行で取り組んでいく予定です。どちらもうまくいかなければ、オセロ、将棋に挑んで儚く散った男の記録を電子書籍で出版させて頂きます(笑。

まとめ

 では、ボードゲームUNOZEROを年間8,000個以上売り続けるための戦略をまとめます。
ターゲット:老若男女、オセロは物足りない、将棋は時間がかかり過ぎると感じている方
ブランド・アイデンティティ:オセロ並の短時間で将棋並にやり応えのあるボードゲームである
キャッチコピー:わずか30分の知能頂上決戦
ブランド・エクイティ:UNOZEROの遊び方(持ち時間制)、勝ち方(終わらせ方)が幅広い層に広まっている状況
戦略:公式戦をSNSで配信し、遊び方(持ち時間制)、勝ち方(終わらせ方)を広めたうえで、認知率、配荷率を高めるための投資を実行する。
問題点:遊び方(持ち時間制)、勝ち方(終わらせ方)が広まるまでに時間がかかり、その時間はコントロールできない。
 10年で遊び方(持ち時間制)、勝ち方(終わらせ方)を広めたいと考えていますが、時間のコントロールはできません。時間に追われていない素人だからこそ製作、販売にチャレンジできるボードゲームです。

ボードゲーム界最強のブランド

 私見ですが日本においてはオセロだと思います。オセロは実家にもありましたし、現在我が家にもあります。ただ、いつ、何のために、いくらで購入したか全く思い出せません。しかし、現実として購入しているのです。これがオセロブランドの魔力です。わざわざ遠出してまでオセロを買いに行くことはないと思います。しかし、スーパー等で見かけた際、「そこまで高くないし、いつか誰か利用するだろうから、とりあえず買っておくか」、そんな居酒屋の生ビールみたいな存在がオセロです。
 オセロのキャッチコピーは「覚えるのに一分、極めるのに一生」です。発売開始時、シンプルなルールで誰でもプレイが可能な水平拡大が容易なゲームをデパート等で実演販売しつつ、発売と同時に日本選手権を実行することで競技志向の高いプレイヤーへの垂直拡大も同時並行的に実現しています。キャッチコピーを認知してもらうための戦略にかなりの資金を投じて確実に短時間で実行しています。
 認知率、配荷率、プレファレンス全てにおいて最強のボードゲームです。自作ボードゲームをこれまで以上に売っていきたいと考えている方にとって、最強ブランドであるオセロの過去経緯は参考になるかもしれません。

最後に

 ボードゲーム好きが講じて製作する方も多いため、ターゲットをボードゲーム好きやゲームマーケット来場者に無意識に狭めてしまっているケースが多いのではないかと思います。ターゲットを狭めてしまえばどんなに努力してもすぐに上限に達してしまいます。
 販売個数を増やしていくためにはより広いターゲットを想定し、そのターゲットのプレファレンスを高めていくしかありません。言葉にすると簡単ですが、とても難しいです。自作ボードゲームにしか使えない戦略なので答えはネットにも本屋にもどこにもなく、独りで考え抜くしかありません。私自身も「オセロ、将棋に挑む!」という話をして周りをドン引きさせてからはほとんど他人に話していません(笑。
 しかし、もし考え抜いて実行した戦略がうまくいけば自作ボードゲームのブランド・エクイティとなり、長年売り続けることを可能にする目に見えない資産になります。長年に渡り、当たり前のように売れ続けているモノポリー、カタン、人生ゲーム等の目に見えないブランド・エクイティは何でしょうか?自作ゲームに類似する人気ゲームのブランド・エクイティを探ってみると次のステップに向けたヒントになるかもしれないです。
 「面白いゲーム=売れるゲーム」ではありません。あなたが面白いと思っているならば、間違いなく面白いゲームなのです。20,000人しか来場しないゲームマーケットであまり売れなかったからと言って落ち込んでいる場合じゃありません。地球には80億人いて、そのうちインターネットが利用できる人口は50億人います。購入してくれた一人一人に感謝し、彼らの意見を真摯に聞き入れ、次の一歩を勇気をもって踏み出していきましょう。時間に追われていない素人だからこそ製作できるエッジの効いたボードゲームを楽しみにしています。共に頑張りましょう。
 

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