素人がボードゲームを製作、販売する方法〜製作、広告編〜
はじめに
素人でありながらサッカーをテーマとしたUNOZEROというボードゲームを自作、販売することを決意し、半年間の市場調査をした結果、下記の戦略をたてました(詳細は〜市場調査、黒字化への戦略編〜をご参照ください)。
・定期的に新作を製作していき、各自作ゲームの箱やコンポーネントのサイズ、形をなるべく揃える。
・流通ルートを増やし、SNSを駆使することで、自作ゲーム合算で1000個以上売れる見込をたて、ベストな印刷会社にまとめて依頼することで収支を黒字化させる。
〜市場調査、黒字化への戦略編〜が理論上の話であったのに対し、今回は実践編となります。前回記事に比べると個別性の高い話になっていきますので、あくまで私自身のケースとして参考にしてもらえればと思います。
まずは自信のあるUNOZEROを製作、販売しつつ、毎年新作を出せるように新しいボードゲームのストックをたくさん作っていこうと思っていた矢先、素人らしい様々な問題が生じ、一方でUNOZEROの戦略ゲームとしてのポテンシャルが高いと思われたことから、結果的に当初の戦略とは全く異なる方法で収支の黒字化を目指すこととなりました。
素人らしい様々な問題点
自信のある新作が作れない
子供に面白いボードゲームを作ってほしいと言われ、アイディアを出してはExcelで試作品を作っていました。資産形成をテーマとした「ライフプラン」というゲームとサッカーをテーマとした「UNOZERO」というゲームは評判が良く、繰り返し遊ぶこととなりましたが、その後も継続的に試作品は作るものの、自信をもって面白いと思えるものが中々作れません。製作候補のストックが2個しかないまま、時間だけが過ぎていきます。
デザインの入稿ができない
初めてボードゲームを製作する方の多くが利用する萬印堂さんへ依頼するつもりで、箱、ボード、チップのサイズや形を決めていき、原価の算出まで終わらせていました。しかし、申込みしようとしたところでデザインの入稿をIllustratorかPhotoshopでしなければいけないことを初めて知ります。ゲームマーケットに出展するような方はそもそもデザインに強い方が多い印象がありますし、ボードゲーム関連のネットワークがある方であれば既に製作したことがある方からデザイナーを紹介してもらう等の解決策があるのかと思います。しかし、ド素人であることから、中々解決策が見つけることができない大きな問題になります。
面白いゲームが多すぎる
ボードゲームが好きと言っても家族で楽しむライトなファンと言え、有名ゲームを中心として遊んでいました。自作ボードゲームを製作、販売することを決めた後、市場調査の中でたくさんの面白いゲームを知ることになります。更にゲームマーケットにも初めて参加し、一般に流通すらしていないにも関わらず、たくさんの魅力的な面白いゲームが存在していることを目の当たりにし、自信を喪失します。
定期的に新作を出すために必要な能力
毎年面白い新作を作り出していくためには下記の能力が必要になることを痛感します。
・無数のゲームメカニクスを認識、理解し、テーマに合った適切なゲームメカニクスを選択できる、もしくはそれらをミックスする等にて新しいゲームメカニクスを作り出せる。
・テーマに沿った魅力的なストーリー、魅力的なプレイヤーの設定を作り出せる。
・つい遊んでみたくなるような魅力的なコンポーネントをデザインすることができる。
・上記をIllustratorかPhotoshopにて表現できる。独りですべて対応する必要ははく、チームを組んで進めても良いのだと思います。
具体的に製作を進める段階となり、当初の計画が自分にとっては難しいものであったことがわかり、無理に黒字化は目指さず、記念としてUNOZEROだけでも製作、販売しようと思うようになっていきます。
デザインの検討
デザイン等と無縁の世界で生きてきたため、デザイナーの模索は中々解決できない大問題となります。ココナラで検索をかけ5000人以上がヒットして途方に暮れていた中、大手広告代理店で勤めている高校時代の友人がいることを思い出し、デザインのイロハを教えてもらいました。デザイナーを探す前に次のことを徹底的に調べ、考えておくことで、自作ゲームのデザインに関するより具体的なイメージを固めていくことを勧められます。
・なぜこのボードゲームを製作、販売していきたいのかを考え、ストーリーにする。
・類似したボードゲームを含めて、3つ程度の売れているボードゲームの過去経緯を調べる。
・上記を勘案し、今後10年間の販売、広告戦略をたてる。
デザインには1mmたりとも意味のない箇所はなく、例え余白に見える部分があったとしてもそこには必ず意味があることを知ります。そしてデザインに対し情熱をもって拘り抜いていくために、そもそもなぜ製作したいのかを自分自身へ徹底的に問いかけ続ける必要がある、ということですね。記念にと思っていた自分が恥ずかしくなり、デザインに関する書籍を読み漁り、何とか「自分の思い」をプロのデザイナーに伝えることはできるようになれたと思います。ちなみにUNOZEROは、まずは大人が楽しみ、将来的に「大人から子供への知の承継に資するボードゲームにしたい」という私の考えを反映させ、大人がカフェで楽しむことをイメージしたデザインとしています。デザインは本当に奥が深く、情熱的な世界であることを知るとても良い機会となりました。
自作ボードゲームの特徴を分析
上記のステップを踏まえると自作ボードゲームの強みや弱みを客観的に見ることもできるようになり、UNOZEROについて分析し、改めて次の認識をしました。
・運の要素がないアブストラクトゲームというジャンル。万人受けするジャンルではないが、一定のファンがいる。
・オセロのように置く場所が無くなると必ず収束するものとは異なり、将棋や囲碁のようにゲームの収束性が低く、難易度が高い。
・ユーザーが増えていくことがそのままゲームの付加価値となる。
・魅力的な公式戦をしっかり整えていくことでユーザーに主役になってもらえる。
さらに「ボードゲーム デザイナー ガイドブック」というボードゲーム製作において唯一と言われるノウハウ本には「スピード感を表現できないボードゲームのテーマとしてスポーツは適切ではない」という主旨のことが書かれておりました。そう言えばスポーツをテーマとしたボードゲームはあまり見かけません。
「サッカーをテーマとした難易度の高いアブストラクトゲーム」ということで、他ゲームとの差別化は十分過ぎるくらい図れていることがわかった一方、ゲームの魅力を認識してもらうのに相当な時間を要するだろうということも認識できました。「もの珍しさから見てもらえる可能性はあるが、ゲームメカニクスを真に理解してもらえない限り購入やファン獲得には結びつかない。」このような仮説をたてて、次の計画に活かしています。このような仮説に基づき目標販売個数を定めていくと、想定より売れたとしても、売れなかったとしても、次に向けて冷静に要因分析することができると思います。
以上のような状況から、毎年新作を製作することを諦め、UNOZEROのみを製作、販売することとし、新作を製作する代わりに、どのようなゲームなのかを認識してもらうための普及活動にのみ注力していくことへと計画を修正しました。
修正後の5年計画
毎年新作を出すという自分にとっては難しかった当初計画を修正し、引続き趣味としてボードゲームを楽しみつつ、残った全ての体力をUNOZEROの普及活動にのみ使うこととして次のような5年計画をたてます。
1年目
・UNOZEROを完成させる。
・ゲームマーケットに出展する。以降、年に一度試遊ありで出展する。
・Twitterを始める。
2年目
・ボドゲーマにて販売を開始する。
・動画を作成し、youtubeに載せる。
・noteを始め、「UNOZEROの勝ち方」を連載する。
3年目
・「UNOZEROの勝ち方」を電子書籍化し、Amazonで販売する。
・イエローサブマリンで販売を開始する。
・boothにて販売を開始する。
4年目
・公式戦のルール、大会要項を整える。
・Amazonにて販売を開始する。
5年目
・公式大会を開催する。
そもそもド素人であり怖いものなどなく、子供達と一緒に作り上げた私達にとって最高に面白いと思えたゲームを広めるために、失敗を恐れず、どんなに時間がかかったとしても出来そうなことは全て実行していくこととしました。アブストラクトゲームが得意とは言えない私にとってはとてもチャレンジングな計画ですが、私達が遊びながら模索した「UNOZEROの勝ち方」についての理論をしっかり構築できれば、実質的に難易度を落とすことが可能となり、子供にも楽しんでもらえるボードゲームになるだろうと考えています。
しかし、そんな情熱的な計画とは裏腹に、時間のかかるこの修正計画を実現していくためには、少なくとも5年以上、安定して流通させ続ける必要があるという現実的な課題を解決しておく必要があります。簡単そうに思えて、原価の高いボードゲームで実現するのは中々難しいことであることは〜市場調査、黒字化への戦略編〜で理解頂けるかと思います。
印刷会社の検討
印刷会社の模索
小ロットでの製作にフォーカスしている萬印堂さんだと、一定水準を超えたコスト削減は難しく、修正した長期計画に適した印刷会社の模索を続けていました。また、同時並行でデザイナーの模索も続けます。ネットで検索し続け、たまたま読んだネット記事で江戸クリエートさんの存在を知ります。
江戸クリエートさんは、各メディアのデザイン制作もしていることから、印刷を依頼することを条件にデザインについても対応してくれました。更に自分の計画を話したところ、色々な工夫を検討し、長期計画に最適な方法を提案してくれることとなります。
箱、コンポーネントの形、サイズを揃えた方がコストが低くなる理由
まずはボードゲームが出来上がるまでの過程を分解したいと思います。
①箱、コンポーネントを印刷する紙を仕入れる。
②コンポーネントを型抜きするための金型を作成する。
③①にデザインを印刷する。
④③を②の金型で型抜く。
⑤型抜き完了後、コンポーネントを切り取る。
⑥⑤を袋詰めする。
⑦全てのコンポーネントを箱詰めする。
各社毎に状況は異なるとは思いますが、一般的に印刷会社にとっても追加的にコストがかかる(仕入、外注)と思われるのが①②⑤⑥⑦で、①は紙代、②は金型代、⑤⑥⑦は人件費となります。ここを双方で工夫していくことで、印刷会社とwin-winの関係を築くことができます。例えば各工程で次のような工夫をすることでコスト削減できる可能性があります。
①:なるべく同じサイズのものを大量に発注する。
②:なるべく同じ金型で型抜く。
⑤:コンポーネントを自分で切り取る、もしくはユーザーに切り取ってもらう。
⑥⑦:袋詰め、箱詰めを自分で対応する。
生産方法の検討
今回、江戸クリエートさんは次のような提案をしてくれました。
・UNOZERO専用の金型を作成する。アブストラクトゲームでコンポーネントが少ないこともあり、1枚の金型で全てを賄うことができました。
・印刷し、コンポーネントの型抜きをするが、切り取りはユーザーにお願いする。
コンポーネントの切り取りや袋詰めも不要となり、箱詰めまでの工程も最低限となりました。初版はデザイン、金型のコストが上乗せされるため高くなりますが、第二版以降はコストを抑えられ、少なくとも短期的に生産、流通が難しくなるような状況は回避できる見込がたち、普及活動へ専念できる環境を整えることができました。
江戸クリエートさんのおかげで、デザインの入稿、長期的に流通させ続けるという二つの大きな課題をまとめて解決することができ、また素人を相手に大変丁寧に対応頂き感謝しかございません。
今後二度と新作を製作しないという私のような選択は珍しいかもしれませんが、定期的に新作を製作していく場合でも、箱、コンポーネントのサイズ、形を合わせることを意識して、萬印堂さんで小ロットで製作し、ゲームマーケットさん等で販売を開始しつつ、各自作ゲーム全体のコスト削減に関する工夫について一緒に考えてくれるような印刷会社を同時並行的に探していくのが良いかと思います。
ついに販売
色々な困難を乗り越え、2023春のゲームマーケットでついに販売することができました。事前調査の結果、購入頂くのは難しいと思われたことから、土曜のみ参加し、ゲームマーケットの発信力を借りることでまずは存在だけでも知ってもらいたいと思っていました。結果的に想定を上回る販売数となりましたが、要因分析としては、ゲームマーケット来場者のゲームメカニクスへの理解度が自分の想像を大きく超えていたことにあります。何の実績もない私の自作ゲームをご購入頂いた方々は本当に特別な存在であり、次のステップに向けての大きな勇気をもらえました。本当にありがとうございます。また、ブースに寄り試遊してくれた方々とお話するだけでもとても勉強になり、大変有意義な機会でした。
販売開始後に広がる輪
色々な対応事項があるなかで、ゲームマーケットの直前に何とかTwitterを始めることができました。ゲームマーケットに出展すると数日で1000件のアクセスを超えてきます。何者でもない私が始めたところで、何年かけても超えられないようなアクセスを超えてきます。#️⃣ゲームマーケットの威力は絶大です。更にゲームマーケットで販売開始後に、Twitterで「面白い」とつぶやいて頂くことができ、それだけでも2年半の苦労が十分に報われたと思いました。その後、ボドゲーマさんにアップさせて頂いたのですが、そのおかげでボードゲームカフェのアジトベル恵比寿さんに置いてくれていることがわかり、驚きと嬉しさで知った翌日の会社帰りにお伺いしてお礼しました。遅い時間だったため、短い時間しか滞在できませんでしたが、これが記念すべきボードゲームカフェデビューとなりました。数百種類のボードゲームが並び、ボードゲーム一個分にも満たないような金額で遊び放題ということなので、たくさんの種類を遊びたいユーザーには最高ですね。有名ゲームだけではないとのことなので、新作を知ってもらえる場としてもありがたい存在です。その後、説明動画をyoutubeにアップまでしてくれて感謝しかございません。
大企業並の検討事項の多さ
実際に検討してきたことを全て羅列すると、「市場調査、企画、試作、テストプレイ、改善、素材の検討、デザインの検討、デザイナーの検討、印刷会社の検討、生産方法の検討、流通方法の検討、マーケティング、広告媒体の検討」ということになり、これだけを見るとどこの大企業かと錯覚してしまいます。更に、ここまでですらかなり苦労して辿り着いたにも関わらず、5年計画の4割程度を実行したに過ぎず、普及活動はこれからが本番という状況です。
素人の強みは納期がないことと、他者から結果を求められないことだと思います。納期があり、結果を求められるプロや企業と違い、一つ一つについて納得がいくまで時間をかけて検討することができますし、いくつかのプロセスを端折っても他者から問題視されることはありません。途中で趣味と割り切り、製作のみに専念する方針に切り替えても何の問題もありません。楽しみながら、できる範囲で色々と検討していけば良いのだと思います。
最後に
紆余曲折ありましたが、家族、ボードゲーム関係者の書籍や記事、製作経験者のブログ、高校時代の友人、江戸クリエートさん、ゲームマーケットさん、アジトベル恵比寿さん、たくさんの方々の多大なる協力のおかげで何とか、製作、販売までの2年半もの長い道のりを完走することができました。2年半におよぶ貴重な経験により、自作ボードゲームの収支を黒字化させて継続していくためには、ビジネスにおけるとても高い総合力と粘り強さが必要になることを身をもって体感することができました。ゲームマーケットには、大学サークルの方々も参加していると思われ、ボードゲーム製作、販売における様々なパートを検討、実行してみるのはビジネスの世界に入る前の準備として、とても良い経験になるのだろうと思いました。色々なパートを経験してみることで、好きなパート、得意なパート、を自己分析できる貴重な機会になるのではないかと思います。ちなみに自分の得意なものは分析でしたが、noteに記事を書くのが実は好きだったという新たな発見がありました。
総括すると、私のようなド素人でもボードゲームを製作、販売、広告できる下地は整っており、参入は誰でもできます。しかし、収支を黒字化させ、長期的に継続していくためにはビジネスにおけるとても高い総合力が必要になり、相当難易度が高いという印象です。
しかし、難易度の高い山は他者にとっても高く、もし登りきることができれば、それが自作ゲームの目に見えない付加価値となり、他者への参入障壁になります。日本のボードゲームの下地は整いつつあり、魅力的な国産ボードゲームがマグマのようにたまり、いつ爆発してもおかしくない状況だと思いました。多くの国産ボードゲームが面白いけど少し高い、面白いけど少し買いづらい、面白いけど少し広めづらい、という何らかの課題を抱えていると思います。皆でアイディアを出し合い、日本独自の生産システム、流通システム、広告システムを確立することができれば、そう遠くない未来でドイツの市場規模を凌駕できると思います。そしてそれは同時に他国の参入を阻む強いビジネスモデルの確立を意味しています。
引続き、楽しみながらも情熱をもって取り組んでいきたいと思います。共に頑張りましょう。
苦労して始めたyoutube等です。
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