朝の戦争
「七時やで」二十歳の次男を布団の上からゆすって起こす。
続いて隣の十八歳の三男の部屋に行ってまた起こす。返事はない。
二分間、次男と三男の部屋を行ったり来たりする。たいがい次男が、この間に起きてくれる。かけ足で台所に下りて、みそ汁を温めて、テーブルに置く。
「弁当忘れるんやないで」と声をかけつつ、二階に上がって三男の布団をたたんでゆく。いつもなら掛け布団はすぐたためるのに、今日はしっかりとつかまえて放さない。よし、そんなら、敷布団を先に取ろうとすると、大きな図体(ずうたい)でガバッと敷布団に抱きつく。
目覚まし時計は、三つもある。なんせ、ふだん聞いている音楽やテレビが、けたたましいものばかりだから、目覚ましなどは、それこそ外を歩く人の声にすぎないらしい。
九時半ごろになって、ようやく起きて「お母さん。起こしてくれへんかった。まいったなあ」「まいるのはこっちの方やで。今まで、やってくれ、というた方法は全部やったで」デブの体を生かして布団の上にとび乗る。足で踏む。ケガをしない程度にたたく。その他、赤ん坊のガラガラ。笛…
次の日は、布団からけり出す方法でやっと起こしたが、同じ方法は二日ときかない。エレキギターを録音したのをボリュームいっぱいにかけてみたが、これも近所の人がなにごとか、と集まり、赤ん坊の泣き声がするだけで効果なく、一度だけ。人形浄瑠璃からヒントを得て、操ってもみたが、一回やると、その次の日は、対抗策を考えてくる。レスリング、柔道、すもうの技も採り入れた。さて、明日はどんな新手を使おうかと、午後の一時間、黙想してアイディアを探している。