「仁義なき戦い」デジタル通貨編 ー 「デジタル$」「デジタル€」に「中央銀行リブラ」?(苦笑) 。
「この映画を見れば日本の社会の事が良く判るよ!」
日本好きのイギリス人にお勧めの日本映画を聞かれて真っ先に挙げたのが深作欣二監督の「仁義なき戦い」。「ドス」を「ペン」や「ハンコ」に置き換えればまさに日本の会社などの「内部抗争」にそっくり置き換わる。自分で鉄砲玉を指示しておいて「わしゃぁ知らんけんのう。お前らが勝手にやったことじゃけぇ」ととぼける金子信夫さんが演じた親分など、まさに日本の会社内の「あるある」上司。最近だと「N産自動車」なんかがそうだろう。
さて「リブラ」を巡ってはますます話が大きくなってきており、日本に限らず世界規模の「仁義なき戦い」になってきた。反対する側の攻撃が凄まじくなってきているが、あまりに言いがかりが過ぎて、不謹慎ながら「損切丸」、ちょっと笑ってしまった。「リブラ潰し」なら何でもありの様相を呈しており、ちょっとヒステリックな感じさえする。
まずマネーロンダリングや個人情報保護の話であるが、これはザッカーバーグ氏も公聴会で反論していたが、データ管理技術は現在の金融機関より、高度なクラウド技術を有するフェイスブック(FB)などのIT関連企業の方が上だろう。*日本の銀行でも個人データを盗んでドロンする行員などが相次ぎ問題化しているのに、自分の事は棚に上げ、である。
*おそらく個人情報を売る目的。銀行は詳細な個人属性に加えて、保有資産、借金など機微情報を多く含んでいるので、1件@5,000円~10,000円の高値で売れるらしい。3,000件のデータで1,500万円になる。もっと高いと言われているのが健康情報を含む医療関係の個人情報。薬品会社の車が狙われ、名簿などが盗まれる犯例が相次いでいる。
マネーロンダリングについては、本人確認手続にあたるKYC(Know Your Custmer)がポイントになる。皆さんも経験がお有りになると思うが、運転免許証のコピーを取ったりする、あれである。ただやたらと手間はかかる割に実質的にデータ管理が行き届いているかといえば、否であろう。
*「形式主義」の日本の銀行では、決められた手続さえ踏んでいればあとはほとんど素通り。まあ、手続を煩雑にすることで、一種の嫌がらせにはなっているが、何の罪もない一般の利用者にも膨大な手間を強いている。その非効率な事務負担をお金に換算すれば、かなりの額の経済的損失だろう。
その点優秀なIT企業なら、例えばオートスキャンで免許証やパスポートの登録ナンバーを読み取ることで偽造などは瞬時に見破れるだろうし、「科捜研の女」ではないが「顔認証」技術などを用いれば、犯罪人の特定なども今より容易になる。はっきり言ってこの分野は「デジタル通貨」に軍配が上がる。今の金融界、特に日本の銀行などは周回遅れなのが実状だろうし、仮に導入の検討を進めても「会議」に「ハンコ」で何年もかかったりする。
そこで今度は「中央銀行デジタル通貨」構想 -「デジタル$」「デジタル€」に「中央銀行リブラ」?? 本気で言っているのだろうか?
確かに中国が人民銀行による「デジタル通貨」=CBDC(Central Bank Degital Currency)の準備を進めていることは事実で、FB側が主張するように「リブラ」の発行が遅れれば中国に「通貨覇権」を握られてしまう懸念はある。しかし半ば強権的に進めることが出来る中国に対し、自由主義陣営は利害調整が膨大になることが予想され、技術的な準備も進んでいない。多国間にまたがるユーロなど今でも揉めているのに、実務的にどうしようというのか。まず「間に合わない」。
確かにFBなどに任せると、その便利さ故にハッキングなどに狙われやすいという恐れはある。現状の金融システムも同じ問題は抱えているはずだが、*金融界の「非効率で前時代的なシステム」が、現代の最先端ハッカーから偶然身を守っている、というのも事実らしい。古すぎて侵入できないのだ。それを最新の技術を使って「デジタル通貨」を発行するとなれば、ハッカーに狙われるリスクは「リブラ」と何ら変わりはない。
*筆者も「日銀ネット」と呼ばれるシステムを使って日銀オペや日本国債の取引を行っていたが、まあこのシステムの使い勝手ときたら...。おまけに入力間違えをすると「始末書」を持って謝りに行かなければならない。会社のIT担当者も日銀システムについては「全くの謎」と言っていた。(FORTLANとかBASICのレベルらしい)例えるなら、速度の出ない昔のプロペラ機が最新のレーダーでは捕捉できず撃墜が難しいのと一緒か(苦笑)。
それから仮に「デジタル円」が出来たりすると、実際の決済はどうなるのだろう。カード決済や自動引落し口座を別の「デジタル口座」に移行するのだろうか?そして、その「デジタル円」は付利されるのか?
①付利されるなら - 今の円口座と同じになり、単に現在の決済システムを最新のデジタル技術に更新すれば良く、別口座はいらないのでは? 中国のCBDCはこのパターンらしい。←→ ハッキングの懸念は増す恐れ。
②付利されないなら - マイナス金利政策下、旧口座からデジタル口座に一斉に資金が移動するし、「リブラ」同様、金融政策、特に金利政策が及ばない。銀行にとっても手間が増すだけで、マイナス金利も顧客転嫁できず収益的にはむしろマイナス。また付利のない「デジタル円」は預金保険や日銀の準備預金の対象にするのか、etc. etc。疑問が山のように湧いてくる。
それからもう一つ重大な問題。1デジタル円=1円は本当に維持されるのか。片方が付利なし=金利ゼロでもう一方がマイナス金利の場合、デジタル円>旧円(法定通貨)になるのでは? 更に今の法定通貨がマイナス金利政策下にある影響で日本国債も10年までマイナス金利になっているが、市場で裁定取引が活発化し、金利が少なくともゼロまで押し戻される=*国債が暴落する(=金利の急上昇)リスクもある。
*「(旧)法定通貨の減価」が達成されるのは歓迎かもしれないが、金利の上昇という形でしっぺ返しを食らう可能性があるという事。もっとも預金者、銀行ユーザーにとっては、価格下落リスクとは背中合わせにはなるが、高金利を選ぶ選択肢にはなるかもしれない。今でいえば、トルコリラや南アフリカランドなどの高金利投資に為替リスクを負っているのと似た構図だ。
そして「中央銀行リブラ」。通貨バスケットを設定して?(苦笑) それこそ「通貨覇権」の争いで比率の設定で揉めるのは目に見えており調整は不可能だ。とにかく出て来る話が拙速で不合理なものが多く、それだけ中央銀行も含む銀行業界の焦燥感が強い証と言える。西側陣営には中国の影もちらついており、正直どうしてよいか判らないのではないか。少なくとも何年もかけて検討している時間的余裕はない。
ユーザー視点や技術的側面から見ると「リブラ」発行に軍配が上がると筆者は見ている。さもなければ「デジタル元」に世界を席巻される恐れすらある。日本の企業ではないが、揉めているうちに事態が変わり取り返しがつかないことになるかも。金融、経済界は明らかな変革の時を迎えている。
ブロックチェーン技術などについては10年以上前から取り沙汰されていたのに、然るべく対応して来なかったのは金融界の怠慢だろう。こうなれば先進的なIT企業が発行する「リブラ」のような「デジタル通貨」を各国がきちんと規制管理をしていくこと、これに尽きる。
「わしゃぁ知らんけんのう。お前らが勝手にリブラに反対しよったけぇ」なんてことになりませんように。