「ルーブル」の ”リアル” Ⅳ。ー こんなに高くなった「ルーブル」を引き受けているのは誰?
「ルーブル」の ”リアル” Ⅲ。ー 全力で繕ってきた「プロパンダ」も限界? ガスプロムの「無配転落」が示唆する事。|損切丸|note の続編。少し思い当たる節があるので付記として。
↑ 標題の ”ルーブルの避難回廊” が現在のおおよその「ルーブル」管理スキームだが、様々な事象を考え合わせれば合わせるほど ”金融リテラシー” が高いことが判る。彼らはとても聡明なのに「戦争」などで無駄使いしている。これだけアイデアがあれば金融で一時代築けそうなものを。
「ルーブル高」演出は確かに一種の "プロパガンダ" だが、それだけではない。このスキームは緻密に練られている。現状を整理してみよう。
「ルーブル売りを抑えるためにルーブル買いを抑える」
「ルーブル安」を止めようとすれば、気持ちとして「ルーブル売り」を抑え込もうとしがちだが、まさに "逆転の発想" 。確かに通貨は最後母国に戻るのだから*国内銀行が買取を拒否すれば他国はルーブルを売れなくなる。
これで「ルーブル売り」が止まる理屈はわかった。では何故「ルーブル高」になるのだろう。実はここにも緻密な戦略が存在する。
↑ 1.SWIFTから排除されてもズベルバンクやガスプロムバンクはSWIFTに残っており、ヨーロッパから入ってくるガス・原油代金のユーロや中国、インドからの人民元、ルピーを受け入れている。受け取った外貨は中銀に売る事が強制されており、対価で売るルーブルの値は中銀が決めている。FXの画面を見ると判るが、@137.10-137.11のように売買のターン=価格差表示がある他の取引と違い、ドル・ルーブルだけが常に一本値だ。
結局「不当に高いルーブル」を引き受けさせられているのは国内の銀行や企業。もし国際会計基準を用いていれば大赤字になってしまうだろうが、そこはああいう政治形態の国。あくまで国内基準の「ルーブル建」で決算していれば、どんなに「ルーブル高」でも会計上の齟齬は出ない。厳しいことを言えば「国ぐるみの会計操作」だ。
だがせっかくエネルギーや穀物を売って得た外貨を国にもぎ取られては、企業には「不当に高いルーブル」が負債に積上がるだけで利益はでない。その状況を端的に現したのがガスプロムの「無配転落」であり株価の急落だ。これこそ「無理は通っても無理」、「お金」はごまかせない。
肝心の企業が潰れてはどうしようもないので、先頃「ルーブル売り介入」≓ 実際は「ルーブル価格操作」に乗り出したというのが実情。企業の儲けはこう言う形で強制的に吸上げられ「戦費」に充てられる。一体どれ程ミサイルを持っているのかと訝しくなるが、打てば打つほど国内企業が弱っていく構図だ。国が ”戦費支出” を節約するための「ルーブル高」でもあり、このケースでは「通貨高」が国の繁栄を示すものでない。
そして「ルーブル高」の "もう一つの隠れた目的" が、国内に流通するルーブルを抑制し「インフレ」を抑え込むこと。「ルーブル高」に価格調整すれば中銀が民間に払い出す「法定通貨」は減るので「お金」の減価=「インフレ」を防ぐ効果がある。(発表指標を信じるとすれば)6月のCPIは+15.9%と前月の+17.1%より鈍化しており、一定の効果はあるようだ。
かつては科学や宇宙開発でアメリカと覇権を競った国だ。地力はある。この為替操作1つとっても ”賢い” のが判るが、頭が良過ぎるのも考えもの。高過ぎるプライドがいつも「戦争」に駆り立てる。「自分たちより劣る他国などに負けるはずがない」と。
「戦争」は勝つことによって莫大なリターンが得られる「大バクチ」。
だが2014年のクリミア侵攻以降の「バクチ」はあまり実入りがいいとはいえない。これだけ計算高いのに今回「大バクチ」に出たのは未だに不可解。アメリカの罠にハマった、というのも何か違う気がする。
”通貨価格調整” は「人民元」についても同じ様な仕組みが維持されており、中国躍進の原動力になったのは間違いない。だがここに来ての100年前の「毛沢東」回帰も解せない動きだ。「大借金」(約7,000兆円)をして性急に事を進めた結果が「不良債権問題」であり、「ゼロコロナ」固執が「中国離れ」を加速させている。お世辞にも上手くいっているとはいえない。
中国では大卒者の就職が困難になっているらしいが、まるで日本の「氷河期世代」のよう。単純比較で言えば「円安」でコスト面の日本の優位性が高まっており、労働力の「逆輸入」が起きつつある。職がなければ優秀な学生が欧米や日本に流れることもあるだろう。 "変化" は着実に起きつつある。
「ガスを止められたらヨーロッパは大変なことになる」
いかにも ”大変” 好きのメディアらしいが "FACT"(事実)はどうだろう。中国の「レアメタル」然り、我が国の「半導体用フッ素」然り。一時的に優位に立てても "敵" は当然代替策を立ててくるので、最終的に不利益は自分に返ってくる。 ”賢い” 彼らはわかっているはずなのだが…。所詮人のやることは究極の部分で「感情」が「理性」を凌駕するのかもしれない。
"不測の事態" が起きるのはマーケットも同様。原油価格が@50ドルまで下がったらどうなるのだろう。嫌な予感しかない。