なぜ「金利」が上がると「株」は売られるのか? ー 詳述:「金利裁定取引」(アービトラージ)。
”「金利」が上がると「株」は売られる”
良く耳にするフレーズだが、漠然としていて納得のいっていない人も多いと思う。「業績が上がっているから関係ない」。それも1つの理屈。ただ「お金」、それも巨額が動くマーケットには「抗えない原理」も存在する。
ここでは株の「金利裁定取引」(アービトラージ)を具体例に「金利」が上がると一体何が起きるのか、説明してみよう。
(参照) 「お金のマニュアル」 -損をしないコツ- 其ノ13 株式編③|損切丸|note
今回は時系列に沿ってTOPIXアービトラージ ↓
①まずはTOPIX先物の6月限月を@1,900.ーで1兆円買う
②*株先物の買いポジションは限月交代(3,6,9,12月の第3金曜日)までに売りで解消しなければ「現物渡し」になる。この場合TOPIX全銘柄1兆円分を「現受け」した銀行、証券、ファンド等は「お金」が必要になるので、マネーマーケットから3ヶ月物を1兆円@0.10%で調達。
本例では9月限月を1兆円売って価格変動リスクをフルヘッジ。1兆円×(裁定金利@0.15%ー借入@0.10%)×3ヶ月=+1.25億円が "固定の儲け" 。
そしてもう一つ大事なのが株の「賃貸料」。巨額の株を在庫で抱え、これを株ショートのトレーダー等に「貸株」すれば賃貸料が入る。これが結構バカにならない。おそらく裁定利益を上回る。
③この取引を3ヶ月毎に**「ロールオーバー」(借換)↓ 。
簡単に言えば、これは「株の買占め行為」である。卑近な例ならパンデミック発生直後の「マスク」がそうだが、需要が大きい「もの」ほど「買占め」ると値段が上がる。株式市場ともなると「買占め」には膨大な「お金」が必要になるが、それを***可能にするのが「金融緩和」だ。
更に巨額の「買占め」が可能になったのが、パンデミック直後、2020年3月以降にFRBを中心に実行された「量的信用緩和」。ほぼ「ヘリコプター・マネー」(「お金」を上空からヘリコプターで撒くの例え)だ。「お金」が主に向かったのが米株式市場であり、特に人気があったのがハイテク、新興株中心のナスダック。まさに世紀の「買占め」。歴史に残るであろう米株式市場の ”暴騰” はご覧の通りだ。
この2年間は個人もウォール街を筆頭とした金融機関も「バラ色の投資」を堪能してきた。「買占め」た株を保有する証券会社などは「値上がり」とともに「貸株料」の上昇で笑いが止まらなかっただろう。
だが相場には必ず終わりが来る。
「買占め」は株式市場に留まらず、原油、金属、木材、食品などの商品市場にも波及。つまりこれが今の「インフレ」だ。財務当局は「お金」の価値下落で「借金」が目減りするため実はホクホクなのだが、この「インフレ税」を払わされる一般庶民は堪らない。不満は現政権に向き「利上げ」に向かわざるを得なくなった。
それでは「利上げ」はどういう変化をもたらすか。アービトラージでは:
④今まで「ロールオーバー」してきたが、「借入金利」が高騰し「裁定金利」を上回るようになる。つまり「逆鞘」。これではアービトラージにならないので取引は解消に向かう。
ヘッジ売りしていた先物は買い戻さずに「現物渡し」。先物決済日に▼1兆円TOPIXを売るのと同じ現象が起きる。これは他の市場参加者からはほとんど見えない ”ステルス売り” で、株価には強烈な売り圧力となる。
「マスク」の例で言えば、一時1枚@500円もしていたものが「買占め」が終わった途端に@50円に急落したようなもの。FRBによる「利上げ」、更に6月から始まる「QT」がこの「買占め解消」を加速させ、****大量の「株」がマーケットに解き放たれる。これは「値頃感」とか「押し目買い」とかの ”理屈” の枠外の「物理的現象」と捉えるのが正しい。
「何でこんなに株が下げ続けるんだ!!」
イライラしている方もいるかもしれない。だが「損切丸」は2000年8月の「ゼロ金利解除」時に目の前で起きた、”たった2ヶ月で日経平均▼4,000円(▼20%)” を彷彿してしまう。ほとんど「重力」である。
だから今回の下落局面はあまり楽観できない。本当に「インフレ」を止めたければ、NYダウ@30,000ドル割れぐらいのインパクトが必要。あとは「バイデンーパウエル」コンビがどこまで我慢できるか。「中間選挙」目当てで「QT」を止めて一時的に株価を支えても、「インフレ」を解決できなければ傷を大きくするだけ。「バイデンフレーション」の汚名はすすげない。
パウエル議長はこの理屈を十分理解しているだろうが、大統領が聞く耳を持つかどうか。筆者は70:30で嫌な予感しかしない。動きのとれない日本も対応はかなり難しくなる。
このアービトラージの教訓は:
「他の市場参加者は何をしているのか、常に気を配ること」
つまり「客観性の維持」。どうしても市場で売買していると自分の取引に固執しがちだが、マーケットでは何万人も取引しており、みな血眼で儲けようとしている。常に多勢に迎合する必要は無いが、特に「大きなお金」がどう動いているのかには留意が必要。「他人の損は自分の得」。「損」をする側に回れば、取って喰われるだけである。