「菅・新政権」を試す「円高」 ー 元高・円高・ウォン高 > ドル安。
久しぶりにドル円が動いた。@104円台の円高水準は7月下旬以来だ。「アベノミクス」の肝でもあった「円安誘導」だが、「菅・新政権」の対応を試そうということだろう。
いくつか論点がある。
最大の懸念は「日銀の異次元緩和」であろう。「アベノミクス」のほとんどはこれに尽きると言って良い。新総裁は同政策の継続を唱えているが、どうも現状はそういう状況にない。
「損切丸」で「日本の資金繰り」をシリーズで追っているが、「量的緩和」は終焉を迎えている。9.14「謎の「政府預金」を追え!!」 ↓ で書いたが、今や日銀は財務省の短期国債発行→政府預金によって資金繰りを賄っている状況だ。ひょっとすると為替トレーダーの一部は既にこの「事実」に気付いているのかもしれない。
例えば国債やETFを+10兆円追加で買おうと思えば、これからはマーケットから▼10兆円調達してこなければならず、需給的にはプラス・マイナスゼロ。これでは「金融緩和効果」は期待できない。「アベノミクス」の7年強は1,000兆円を超える国内の「預貯金」が原動力になっていたのだが、これを見事に使い切ってしまったと言うわけだ。
残された対応は「マイナス金利の深掘り」。だが、これも大きな問題を孕んでいる。「円高」を止める効果は期待できるが「預金税」としての負の効果も大きい。仮に▼1%深掘りすれば*預貯金1,000兆円x▼1%=▼10兆円。消費税+2%増税による税収増加が+5.7兆円というのだから、その大きさは無視できない。「10万円給付金」効果を相殺してしまうインパクトだ。
*仮に銀行が顧客金利をマイナスにできないとすれば、通帳1冊は1,000円を3,000円にするとか、口座維持手数料を5万円取るとか、銀行が持ち出しになるコストの転嫁が本格化するだろう。いずれにしろ負担は国民が被る。
これは結構難しい選択だ。「円高」も「マイナス金利深掘り」も性質的に「デフレ」を助長する。今後新総裁の頭を悩ます問題になるかもしれない。
では「円売り介入」はどうか? 一時的に円を押し下げたり恐怖心理を植え付けたりはできるが、残念ながら「量的側面」から分析すると長期的には効果が無いことがわかる。「円売り」のための「お金」をマーケットから調達してくる必要があるからだ。(外国為替特別会計 ↓ ご参照)。こちらも財務省が政府短期証券(FB)を発行するため需給はトントン。
では内外の金利差はどうか。昨日当りの為替のコメントを見ていると「FRBによる金融緩和の長期化」をドル売りの理由にしている向きが多いが正確ではない。長期金利を見ると10年米国債金利は@0.70%近辺で高止まりしており、5Y5Y(5年先の5年金利)も@1%を超えたままで金利の先高感は根強い。いわゆる「日米金利差縮小」で「円高」になっている訳ではない。
ひとつ考えられるのは米国の景気回復に伴う購買力の復活だ。この所、韓国ウォンや人民元の対ドルレート上昇が明確になっていおり、これを円が追っていると捉えた方が良いだろう。何だかんだ言ってみんなアメリカに製品を輸出して稼いでいるわけで、ある意味「正常化」のプロセスだ。
「実質金利」にも明確なサインが出ている。インフレ率の上昇に伴って実はアメリカ、イギリスの「実質金利」が低下しており両通貨とも売られている。「インフレ懸念」のある通貨が売られるのは教科書的でもある。
もう一つ気になっているのが「オプション」。それも「時間的価値の喪失」=θ(セータ、Time decayとも言う)に賭けた「オプション売り」ポジションだ。先頃「ナスダック指数」急落を演じた理屈は9.9「問答無用の株式市場Ⅱ」 ↓ をご参照頂きたいが、長らく動かなかった相場も危ない。ドル円も動き出すと3~5円急に動いたりすることがある。
長いこと相場が動かないと、トレーダーは収益を上げるためにこの「時間的価値」を狙いに行く。例えば@110円コール(ドル円を@110円で買う権利)や@100円プット(売る権利)の「売り」に回ってオプション料を受け取ろうとする。前提は**「相場が動かないこと」。そうするとオプション価格はドンドン下がり「オプション・スマイル」の形が潰れていく。↓
**仮に2か月前に3か月物@103円プット(売る権利)を@50銭で売ったとしよう。あと残り1か月、ドル円が@103円を下回らなければ@50銭丸々貰えて儲け、@102.50でゼロ、それを下回って円高が進めば@103円との差額が損になってしまう。つまりこういうポジションが溜まっているのが「オプション・スマイル」が潰れている状態で有り、このケースで言うと@102.50を切ると大量にドル円売りが出ることがある。
「ドル円オプション」は「ナスダック」に比べると市場が成熟しており、それほどの急変動は起きないかもしれないが、何しろ投資銀行業界は縮小が続いており、「首」の懸かっているトレーダーは儲けを出すことに必至だ。一か八かをする輩もいるだろう。
しかし「金利市場」が動き出して「ヒント」が増えたお陰で、随分マーケットが見え易くなった。市場では横断的に「お金」が駆け巡るので様々なマーケットの連関性を想定しながら考えるのが有効。新総裁は官僚組織など「国内」の目配せは凄そうだが、果たして「国外」はどうか。早速マーケットが試しに来ているようである。