1998年と2022年の「債務不履行」。 余りに違う状況と時代背景。
「ロシアが債務不履行(デフォルト)」
1998年8月17日、忘れもしない前回の「デフォルト」。ロイタースクリーンに太い赤字でヘッドラインが出た時、何の事かわからずキョトンとしていた「損切丸」。まさかあんな大事になって自分に降りかかっているとは...。
「あれっ、何かドル円のスクリーンが変だぞ。壊れてるのか?」
当時@145円近辺で推移していたドル円が、「デフォルト」の報の直後からスクリーンプライスがあれよあれよと下落。@140円、@135円、@130円、...。たったの3日間で▼25円、@120円近辺まで下げた。
この時の経済的ダメージはかなり深刻だった。直接的にはロシア国債を大量に保有していた大手ヘッジファンドLTCM(ロングターム・キャピタル・マネージメント)が巨額損失を抱え10月に破綻。
ここで「損切丸」に大きな関わりが出てきた。
当時はヘッジファンド全盛期であり、LTCMは最大手の一角。投資銀行はプライムサービスという部門が株、デリバティブ、債券取引を一手に担い、レポ(債券を担保にお金を貸し出す取引)で数十兆円もの「お金」を融通していた。筆者の銀行も兆単位で参加していて ”引っ掛かった” と言う訳。
「この5,000億円のJGBレポ、ロールしない」
突然告げられて慌てふためいた。何しろ50億円、100億円の「お金」をかき集めて融通していたので、いきなり返すと言われても運用がままならない。当時日銀の政策金利は@0.50%だったから、日銀当座預金にそのまま残せば金利はゼロ。*1兆円なら▼0.50%で1日▼1,400万円の損が出る。
また、当時は儲かるヘッジファンドにあやかろうと、ほとんどの投資銀行が** ”コピーファンド” を運営。中には本家を上回るリスクを取っている銀行もあった。LTCMは「ドル円の雄」として有名だったため、投資銀行も「円売り」。「デフォルト」後に一気に出た「ドル円売り」は100兆円は下るまい。これでは相場が崩壊するはずである。
前置きが長くなったが(苦笑)、昨日(6/1)大手金融機関で作るクレジット・デリバティブ決定委員会が認定した2022年の「デフォルト」はまるで違う。技術的にはCDS(クレジット・デリバティブ)で「保険料」を払って買っていた銀行、投資家に売り手が元金(全額あるいは一部)を支払うために必要な手続だが、取引総額も小さく経済的ダメージは吸収可能な額だ。海外のロシア向債権の総額は18兆円程度、邦銀が5,000億円程度であり、事前に引当金を積んだり準備もなされていたため、マーケットは音無しの体。今回はドル円が▼25円も暴落したりしない(笑)。
「ルーブル高になっているから経済制裁なんて全く効いてない」
どうもトランプ大統領以降、 ”Qアノン” のような陰謀説やMMT(現代貨幣理論)のような一種のレトリックを信じる層が増えたのは時代なのかもしれないが、この「ルーブル高」も事実誤認である。
「損切丸」では何度か説明したが、本当にルーブルがマーケットで買われているなら「デフォルト」など起きようがない。2022年内の外貨建ユーロ債の元利支払額が約▼20億ドル≓2,500億円らしいが市場でルーブルをドルに換えればいいだけ。SWIFT制裁を受けているとは言え取引可能な銀行もある。
問題はルーブルをドルやユーロに換える銀行、投資家がいないこと。つまい1ドル=@61ルーブルの為替レートに実質的意味はない。例えば100億ルーブルをFX市場に持ち込んで無理矢理ドルに変えようと試みれば、一時暴落した@120か@150か、あるいはもっとレートが飛んでしまうだろう。
いみじくも暗号資産の「ルナ・ショック」が証明したように、信用をなくした「通貨」はただの「紙切れ」。原油、ガス等の購入を狙って中国やインドが人民元、ルピーで支払っているが、彼らでさえルーブルを受け取って輸出しようとはしない。その結果が 続・「ルーブル」の ”リアル” 。ー 人民元安、インドルピー安による「隠れルーブル買介入」。|損切丸|note で書いた@20~40%もの一方的な「ルーブル高・人民元+ルピー安」だ。
おそらく受け取った人民元、ルピーのほとんどをドルに換えて、武器やその部品購入のための戦費に費やしているのだろう。戦争が長期化する中、保有するドルはいわば「虎の子」。おいそれと使えない。
マーケットの動揺の大きさとは裏腹に、2022年の「デフォルト」の深刻度は1998年よりはるかに大きい。今回はIMF(国際通貨基金)も助けてはくれないし、見方によっては既に「第3次世界大戦」に突入しているとも考えられる。ややもすると「見せかけのルーブル高」で危機感が薄れそうだが、今回はもっと大きな問題を内包している。1929年「世界大恐慌」→「第2次世界大戦」の再現にならないよう切に祈るのみである。