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"上" が詰まっている相場。ー 上がりきらない「金利」と「株価」。
どうも米国債の「金利」が上がりきらない。
技術的には「利上げ局面」の「金利市場」 ー 「キャリー収益」と「MTM」(時価評価)のせめぎ合い。↓ (11/5)が大きい。
金利や国債トレーダーは専門用語として「イールドが下ってくる」「ロールダウン効果」という言い方をするが、現在の「利上げ局面」のような "順イールド" (期間の長い金利>短い金利)の状態だと、日が経つ毎に国債や金利スワップの「MTM」(時価評価)の金利が下がってくる。
例えば米国債1年は@0.15%、2年は@0.50%なので:
(2年@0.50%-1年@0.15%)÷365日 ≓ 0.00096%/1日
仮に今のイールドカーブが維持されるとすると、1日当り▼0.00096%、1ヶ月なら約▼0.03%MTM金利が低下する。*2年@0.50%を買って1年間何もなければMTMが@0.15%になるので丸儲け、という寸法。凌ぎを削って戦っている金利トレーダー達は、全員こればかり考えている。
*2年米国債@0.50%を100億円買って1年後に得られる利益は:MTM 100億円×(@0.50%-@0.15%)=+3,500万円。更に1年間(@0.50%-O/N@0.10%)のキャリー収益+4,000万円で、最大利益+7,500万円。悪くない儲けだ。
「金利」上昇を阻む壁はシミュレーション上にも現れる。現状では:
今の2年@0.50%、5年@1.22%を "成立" させるには、FRBが①2022年に+0.50%、②2023年に更に+0.50%、③2023年末から2024年初にかけて+0.75% "駆け足" で「利上げ」、その後④2025年まで政策金利を@1.75%で維持、⑤5~10年後の政策金利は@2.0%に届かない、事が必要。
随分無理のあるシナリオ設定であり、この金利水準をずっと維持できるとは考えにくい、つまり米国債市場は今後も荒れる、ということ。
端的に言えば、FRBによる「利上げ」が実行されなければ現状のイールドカーブを維持するのは困難で「ロールダウン効果」による金利低下圧力はかかり続ける。いくら「実質金利が低過ぎる」とトレーダーが主張しても「金利」を決めるのはFRB。「はき違えてはいけないポイント」だ。
そして同様に "上" が詰まっている「株価」。筆者はそちらは専門ではないが、もしこの「超低金利」でも上がらないとすると、それはそれで不気味だ。これはビットコインやWTI(NY原油価格)にも言えるが、「金余り」による上昇が限界を迎えた可能性を示唆する。
そうは言いながら今までもこういう「調整」を繰り返しながら上がって来た相場なので、今回が "天井" とまでは言い切れない。だが**「イールドスプレッド」による理論値等「割高」を示すベンチマークには事欠かないので、警戒している市場参加者は多い。
**そもそも「バブル」というのは厄介なもので、過ぎた後はそれと認識できるが、進行中ははっきりとは判らない。ただ、今までの経験則で言うと「バブル」「バブル」と騒いでいる内は上がり続けるのが "相場" であり、誰も気付かないうちに "ひっそり" 終わっている場合がほとんどだ。
この "上" が詰まっている相場に最も神経質になっているのがFRBでありECB、日銀。特に***FRBとECBにとって「日本化阻止」が一種の合い言葉になっており、制御不能な「デフレ」だけは避けたいのが本音。国家の都合だけ言えば、「借金」を減らせる「インフレ」はむしろ歓迎な訳で、「利上げ」を遅らせるのはある意味自然。現状のマーケットがこんな状態になっているのは、いわば "確信犯" で有り、当然日銀も加わっている。
***筆者はFRBもECBも本店(NY、フランクフルト)に訪問して、現場の人達と話をする機会を得たが、まあ日銀の「ゼロ金利政策」に関する質問の多かったこと。当時は後に自分達もやる羽目になるとまでは考えていなかったようだが、なぜ「デフレ」に陥ったのか、という点は興味津々。 ”Japanization” という造語を用いて説明した。
そして今「日本化」という言葉がピッタリくるのが不動産の不良債権問題を抱えた「中国」。「株価」に関して言えば、明確に「下落」(=「バブル」崩壊?)が進んでおり「今、ここにある危機」。「中国礼賛」のウォール街があれだけ ”買い推奨” しても上がらない「株価」を見ると、困っている人は結構多そう。まさに「笛吹けど踊らず」。影響の大きい日本や韓国を含め、それだけ状況が悪いのだろう。
当面は上がりきらない「金利」と「株価」のせめぎ合いになるだろうが、ここは油断せず、 "人知れず" 訪れるであろう「バブル」崩壊には備えておきたい。「投資」も「相場」も上下動を100%捉えるのはどんな天才でも不可能。 ”腹八分目” が肝要である。