「インフレ」は成長する - イギリス、アメリカの経済史に学ぶ
現在こう呼ばれているのはドイツだが、1960~1970年代にはイギリスの呼称だった。歴史を振り返ってみるとかなり悲惨
1973〜1974年の第1次オイルショックをきっかけにイギリスは経済の停滞と物価の上昇が共存する「スタグフレーション」に陥った。失業率は増大、原材料費と賃金の高騰が原因となって生産性が低下し通貨ポンドの価値は下落。にもかかわらず、国際収支は改善しなかった
何だかどこかの国で今起きている事のような…
ちなみに1970年代は所得税の最高税率が83%(!!)、不労所得の最高税率が15%の付加税を加算して98%、という異常に高率な累進課税。「五公五民」どころの騒ぎではない。戦後の「預金税」に匹敵する過酷さだ
そして現れたのがサッチャー。1979年の総選挙で保守党が勝利し「サッチャリズム」と呼ばれた①国有企業の民営化②金融引締めによる「インフレ」抑制③財政支出の削減: "ゆりかごから墓場まで" はもう無理。ー 「お金」の事ははっきりさせよう。|損切丸 (note.com) ④税制改革⑤規制緩和⑥労働組合の弱体化などの政策を推し進めた
これに現在の「円安」「財政危機」「国民皆保険」「インフレ」を重ね合わせるとこの国で起きている事象と一致する項目が多い。金融政策で言うとこの時期BoE(英国中銀)は強烈な「利上げ」を行って政策金利は10%超え。日銀がそこまでするとは想定できないが、世の中何が起きるか判らない
これに10年遅れて「インフレ」≓「スタグフレーション」「高金利」に悩んだのがアメリカ。ここで登場したのがレーガン大統領であり「レーガノミクス」の主軸は①軍事費の増大を通じて政府支出を拡大②減税・規制緩和③金融引締め。「XXノミクス」などと名前だけは真似てみたものの、やった政策は①増税②異次元緩和とまるで逆。規制緩和に至っては掛け声だけで実際は何もしていない。 ”痛み止め” を打ち続けただけ
筆者がディーリングルームに配属になった1980年代後半、日本はまさに「バブル」絶頂で ” Japan as No1." " Rising Sun" の時代。国際資金部にいた筆者から見たアメリカは瀕死の重症で、国際審査部からは米銀向けのクレジットライン(信用枠)を削る指示が頻繁に来ていた
この時期の政策が典型的「インフレ税」であり、国の「借金」を「税収」で返すよりも逆にもっと「借金」して支出を拡大、「通貨価値の下落」=「インフレ」で解消しようとした。これが現在のアメリカに繋がっている
「NYダウは30年で10倍になった」↓ が、それはドルの減価と密接に関係している。実際1985年の「プラザ合意」では1ドル=@360円に固定されていたのが@80円割れまで走ったのだから、これだけで▼80%の減価。理屈上名目株価は5倍になる訳で年+3%「インフレ」×30年=+90%とほぼ見合う。それに金利に見合う付加価値が加算、e.g., 5%×30年=+150%(1.5倍)
この「インフレ税」の犠牲になったのが一般庶民で、不動産や株等「インフレ」資産を持つことが出来た「お金持ち」だけが生き残り。こうして「100人の村」の不都合な真実が出来上がった
日本もこの「インフレ成長」路線に転換したのでないか。GDP650兆円の国に1,200兆円の「借金」は重すぎる。企業で言えば年間売上の2倍も「借金」がある会社で、審査部から融資の承認はとても下りない(筆者もそういう担当先があって良く文句を言われた。苦笑)
やたらと「コストプッシュだから消費税を廃止しろ!」と叫ぶ一団があるが、本当にそれでいいのか? まず「人手不足」で物価が上がる中「コストプッシュ」の認識そのものが間違っている。現政権を支持してはいないが、そんな事をすれば間違いなく「インフレ税」の洗礼を浴びる。経済規模は違うがトルコやレバノンなど「通貨安」に苦しむ国々を見れば判る
(参考) ”コストプッシュ” ? -「インフレ」に「減税」は御法度|損切丸 (note.com)
アルゼンチンが示唆する「日本の未来」|損切丸 (note.com)
「投資」というと何だか危なくて難しいものに聞こえるが、簡単に言えば「お金持ち」の真似をしろ、という事。日本が米英の経済モデルを参照している以上訪れる結果は似通ってくる。主要通貨「ドル」を抱えたアメリカの「ドル安政策」 は無理なので、選択肢は自ずと ”イギリス型" になる。もう「1億総中流」は見果てぬ夢。多かれ少なかれ「100人の村」に向かう
個人ではそのダメージをどれだけ凌げるかの勝負。好むと好まざるに関わらず まるで ”モグラ叩きゲーム” - 苦しむファンド・トレーダー|損切丸 (note.com) に巻き込まれている。「インフレ税」は払いたくないが、マーケットでもしばらく "潰し合い" が続く。心してかかりたい