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「資金繰り」担当者の ”気持ち” - 「ゼロ金利」の ”魔法”
"「0」→「1」は大変だが「1」→ 以降はさほどでも無い"
前々稿.「お金」の値段 ≓「金利」が安過ぎる!Ⅲ ー 日銀「利上げ」に "2匹目のドジョウ" はいるのか?|損切丸 の中でこういう言い方をしたが、???となった方もいるかもしれない。もっと具体的に「資金繰り」担当者の ”気持ち” を解説してみよう
(参照) なぜ「金利」が上がると「株」は売られるのか? ー 詳述:「金利裁定取引」(アービトラージ)。|損切丸
「お金のマニュアル」 -損をしないコツ- 其ノ13 株式編③|損切丸
奴らに儲けさせるな!Ⅲ|損切丸
筆者がよく例示する「アービトラージ」(金利裁定取引)。大手の投資銀行が取り組んだ金額は兆円単位になるが、そのための「お金」を調達する義務を負うのが「資金繰り」担当者だ。そしてこの取引が有効だったのが「円」。理由は「ゼロ金利」の ”魔法” だ。巨額の「お金」を安く調達出来るのは市場で余りまくっている「円」だけ
例えば「ゼロ金利」と+0.25%の差はただ25BP金利が違うだけではない。「市場流動性」という点では雲泥の差がある。どういうことか
「お金」を運用する銀行の「資金繰り」担当者の立場で考えてみよう
「量的緩和」で日銀が市場に「お金」を余らせ「ゼロ金利」にすれば市場での運用は困難になる。そこに仮に@0.03%とか@0.05%で調達する外銀が現れれば、我先にと「金利」を取りに来る。外銀でも大手行なら1,000億円程度の「信用枠」一杯運用しようとするはずで、そうなると仮に1兆円でも1,000億円×10行ですぐ集められる
ところが政策金利が「+0.25%」に引上げられると状況が一変する
特に付利政策を布いている現状では余った「お金」を日銀当座預金に置いておくだけで+0.25%「金利」が得られる。「金利」を取りっぱぐれるリスクは大幅に軽減し、「資金繰り」担当者は無理に運用する必要がなくなる。こうなると1,000億円の「信用枠」一杯は使わず、@0.28~0.30%程度なら100億円程度運用すれば事足りる。そうなると1兆円調達するには100億円×100行(!!)も取らなければならない
ここで「資金繰り」担当者の ”気持ち” が大事になる
マネーマーケットで100回も取りに行けば当然 ”噂” になるし、回を追う毎に「上乗せ金利」が求められる。それでも取れている内はいいが「あの銀行資金繰りヤバいのでは?」なんてことになればもう大変。市場から閉め出されてしまう。結構気を遣う仕事なのである(苦笑)
だがそんな事も知らない株の担当者はちょっとの「上乗せ金利」で "You are too Greedy!" (お前はなんて欲が深いんだ!)と罵ったりする。現場を知らないというのは怖いことである
↓ は新入行員向けに筆者が「資金繰り」について説明した言葉だが:
” 「資金繰り」というのは断崖絶壁を背にゴールキーパーをしているようなもの。後ろに下がればまっさかさま”
同じ言葉を贈ってやりたい。企業で財務をされている方はお判りだろうが「資金繰り」はデフォルトリスク=倒産・破綻と背中合わせ。簡単に後ろには下がれないのである
ある日銀担当者:” 「お金」は金利のある世界では「ジョーカー」だが、ゼロ金利では「エース」になる”
市場金利が4%とか5%とか高い時、「お金」を運用せずに持ったままだと「金利」が得られないため「ジョーカー」= ”ババ” になる。だが「ゼロ金利」だと持ったままでも構わないので「資金繰り」上は「エース」=最も有効な札になる。なかなか機知に富んだ面白い例えだと感心した覚えがある
このように「0」と「1」の間にはまさにクラック(崖)が存在する
7月の+0.25%「利上げ」=「ゼロ金利解除」で「日経平均」が▼8,000円近く急落した件については 「ドル建日経平均」戦略の崩壊 ー 巻き込まれた「新NISA」|損切丸 をご参照願いたいが、その衝撃は筆者も実体験した、e.g.、2ヶ月で▼4,000円急落@1990年代後半。100兆円単位で積み上がった「円キャリートレード」解消で同じような事が起きたのは想像に難くない
だが+0.25% → +0.50%は事情が全く違う。単にコストが25BP上がるだけで市場流動性のクラックは起きない。これはFRBが+5%も急速に「利上げ」する課程でも同じだった。だから今日(1/17)も 「お金」の値段 ≓「金利」が安過ぎる!Ⅲ② ー 執拗な「日経平均」(先物)売り|損切丸 を続けていたが "2匹目のドジョウ" はいない可能性が高い
厳しい事を言うようだが、「日銀は金利を上げるべきではない!」「住宅ローンの変動金利が大変」「中小企業がバタバタ潰れる」とか叫んでいる人は「お金」はいつでもタダ同然で借りられるものと勘違いしている。いわば「ゼロ金利脳」に犯されており、早急に頭を切り替える必要があろう
上述したが「資金繰り」は常に崖っぷち。その緊張感がイノベーションを生むのであり、「失われた30年」=「デフレ」は余りに長く続いた「ゼロ金利」の弊害とも言える。増して「インフレ」で価値が下がっている「お金」には然るべく「金利」が付くのが当たり前。「円安」は市場のサインでもあり、早くFRBとECBを追うべきなのである
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