続・ ”チャレンジング" な日銀「資金繰り」 ー 「国債買取」減額を探る
”チャレンジング" な日銀「資金繰り」 ー 国債買取オペは続行不能?|損切丸 (note.com) からの続編
いつにもまして注目度の高い日銀政策決定会合。今日明日(12/18~19)開かれているが、ドル円や日経平均のトレーダーは気が気では無い。
こういうことを言うと叱られるかもしれないが「マイナス金利廃止」は日銀にとって最優先事項ではない。▼0.10%を課している当座金座残高は500兆円余りのうちたった30兆円程度。明日でも来年4月でも実質的な金融効果に変わりはない。問題は「資金繰り」≓「国債買取」のフレームワークだ。
11月末時点では▼32兆円程だった「資金吸収額」≓「政府預金」(短期国債発行による一時金)+売現先は12/10日時点で▼44兆円に膨らんでいる。「当座預金」も544兆円→530兆円と▼14兆円減っており「資金繰り」はタイト化。「損切丸」の "勝手分析" ↓ ではこの「資金吸収額」が▼30兆円を超えてくるとTONAR(無担保コールON金利、日銀の政策目標)がゼロに向かう傾向が見られる。ちなみに直近の12/15も@▼0.009%
例年決算月の3月に向かうこの時期は円資金市場自体が「お金が足りない」状態になるので "季節要因" ↓ とも言えるが「マイナス金利政策」を標榜している日銀としては気持ちの良いものではない。
「お金が足りない」最大の要因になっているのが600兆円も保有しているJGB。2021年12月時点で平均利回りが@0.214%という数字が出ていたが、それから2年程経って平均期間は6年程度まで縮小 ↓ 。
2022~2023年に「国債無制限指値オペ」で猛烈にJGBを買ったが、無理に低金利で買い込んだため平均利回りはほとんど改善されてはいまい。現在の6年JGBが@0.36%程なので時価評価で▼4.5兆円程「損」が出ている。
日銀の「資金繰り」を考える時一番 "重荷" になっているのが期日が来ないETF(株)37兆円。ただこれは 「公的マネーが大株主 8割」 ー 日銀・GPIFによる「株買い占め」。なぜ今更 ”表沙汰” にするのか?|損切丸 (note.com) のような異常な状態を形成してしまっているため、日銀保有分の売却は日本の株式市場の根幹を揺るがす懸念がある。そう簡単に手をつけられる代物ではない。
次に "重荷" になるのが長期JGB、特に10年超。発行残高の半分を買占めている日銀が売りに出れば、それこそJGB市場の崩壊を招きかねない。そうなると期日が到来して償還されるのを待つしか無い。1年や2年ならすぐ償還されるが20~40年は死ぬほど長い(苦笑)。株とほとんど一緒。出来れば保有残高を増やしたくない。
日銀もその辺は良くわかっていて徐々に「国債買取オペ」を減らしてきている。設定された「下限金額」まで買取を減らせば年間償還額▼60~70兆円と見合う所まで来てはいる。つまり「資金繰り」が安定する。
これは筆者個人の想定だが、もう1年以下のJGB(月1回×1500億円)は必要無いし、10年超の買入はゼロにしたいのが日銀の本音だろう。仮に各期間の買取下限額を▼1,000~▼1,500億円引下げれば年間買入額は50兆円以下まで減らせる ↓ 。これでようやく「資金繰り」が改善する。
前稿.気がはやる "群衆" を留めるのは大変|損切丸 (note.com) でも触れたが、ドル市場でもSOFR(Secured Overnight Financing Rate、国債担保付レポ金利)の高止まりが指摘されている。FRBも日銀もO/N金利を政策誘導金利に設定しており、まさに金融政策の一丁目一番地、"テコの支点" 。ここに気を遣うのは当然だ。
2019年には流動性逼迫でSOFRが@10%に飛んだ事があったが、日銀も巨額の「国債買取」を続けバランスシートの膨張を放置すればTONARに同じ事が起きても不思議ではない。そうなる前に「マイナス金利」を廃止し、徐々にマーケットに調整機能を戻す必要がある。
明日の記者会見で植田総裁がそういう事を明示する可能性は低いが、今会合では「資金繰り」について事務方と相当綿密に詰めているはず。一般にはなかなか理解を得られないので表向きのニュースにはならないが、これが「金融政策」のリアル(真実)。
FRBもECBも日銀も「銀行」である以上「資金繰り」からは逃れられない。もっとも一番楽な方法はバンバン紙幣を刷ること。「減税」「給付金」「補助金」のオンパレードで「お金」を出しまくれば一時的にみんなハッピーになる。だがその帰結はアルゼンチンのような「ハイパーインフレ」だ。
今その ”誘惑" に一番駆られているのは膨大な不良債権問題を抱えている中国。筆者は財務省の応援団ではないが生活が苦しいから「減税」は違う。 ”楽あれば苦あり” 「インフレ」が「ハイパーインフレ」に転嫁すれば待っているのは地獄。政治も大荒れだが我々も "甘言" には気を付けたい。