"マネーシフト" -「お金」の行き先
(参照) 続・「本物の危機」の時、金利は上昇する。ー 「逃げ惑うお金」の帰結は?|損切丸
最近「損切丸」がよく使う "マネーシフト" 。投資銀行で「資金繰り」を司った経験から培ったノウハウだが、大きな経験が2つ程あった ↓
1.LTCM(ロングターム・キャピタルマネージメント)への資金供給
邦銀から英銀に転職して2年目、某投資銀行から首脳陣が乗り込んできて大量の "首切り" など会社は大規模なリストラを敢行。もはや「乗っ取り」に近く、筆者のチームも7人中5人が切られた。その時に東京のトップになったアメリカ人に面と向かって言われたのが ↑ の言葉。ほとんど "脅迫" に近かったが(苦笑)要は何兆円も「お金」を集めてこい、という事
こっちも意地があったので市場レートより安く大量に「お金」を融通したが、何に使うかは全く知らされず。後で判ったのが今で言う「プライムブローカレッジ」業務でヘッジファンド(HF)に貸し込んでいた。その額2兆円余り。その最大顧客がLTCMだった
この取引が暗転したのが忘れもしない1998年「ロシアのデフォルト」。それまで5,000億円×4 ≓ 2兆円をロールオーバーしていたのに "事件" 後次々と返済。せっかく苦労して集めた「お金」は2兆円も手元に余ってしまった
ただその時に起きた円短期金利市場の動きが印象的。こちらは急に「お金」が余って困ったいたが、逆に円短期金利は急騰。同様の理由で外銀全体で一気に20兆円も抱え込む事になり、逆に邦銀は▼20兆円不足に陥った。日銀から見れば一目瞭然で、彼らは「売出手形」を発行してその20兆円を外銀から吸上げ邦銀に回した。当時の政策金利は@0.25%だったが「売出手形」の入札金利は@0.80~1.00%に急上昇
これで破綻したLTCMは100兆円近く積み上げた「円キャリートレード」をレパトリ(損失穴埋めのための取引)で売る必要に迫られ、3日間でドル円は▼25円も急落した
2.TOPIXアービトラージ(金利裁定取引)
2006年6月、それまで3ヶ月でロールオーバーしていた1兆円もの借入。全てTOPIXアービトラージ ↓ に使っていたわけだが期待収益は+0.20%×1兆円で年間+20億円。彼らの重要な "飯の種" だった
それが当時の福井総裁が「ゼロ金利解除」方針を打ち出し状況が激変。「お金」がジャブジャブなら@0.10%で1兆円でも2兆円でも調達可能だが「利上げ」となれば状況は大きく変わる。実際筆者は+0.20%程度金利を「上乗せ」しなければならなかった訳だが、収益を持って行かれるアービトラージの担当者は "You are too Greedy!! " (お前はなんて欲深いんだ!)などと激怒。*自動販売機のように押せばいつでも「お金」が出て来ると思ったのだろうが理解不足も甚だしい。結局取引は終了せざるを得なかった
こういう話をしてくると、7月にたった+0.25%の「利上げ」でドル円が@160円 → @140円に▼20円も急落したのも日経平均が@31,000円台まで落ちたのも少し腑に落ちよう。全ては "マネーシフト" が原因。FXや株のトレーダーが「金利」にこれだけ敏感なのはそういう事情がある
これで「年内再利上げ」の可能性が浮上したが、マーケットが▼1円以上「円高」方向に振れ、今日(11/1)も▼900円以上日経平均が急落するのはやや過剰反応に映る。だが ↑ のような「流動性」≓ "マネーシフト" に理解があるプロならある程度予測して動く事はできる。全ての市場は「お金」がどう動くかに支配されるからだ
実際にどれだけの「お金」が余っているか、あるいは足りないかは銀行の「資金繰り」担当者でないと把握しにくい。だから 銀行は知っている。|損切丸 という事になるのだが、我々一般人は米国債やJGB(日本国債)の動きでしか情報を得られない。特に「新NISA」等で "マネーシフト" を実行した個人投資家は最低限これらの「金利」の動きは追う必要があろう
続・「過剰流動性」の総本山は日本 ー 気になる「円キャリートレード」の行方|損切丸 という視点に立てば、重要なのはJGB>米国債。財務省・日銀による「ドル売円買介入」も効くとか効かないとか空疎な議論より兆円単位の大きな "マネーシフト" と捉える方が正しい。その方が誤った判断をせずに済む。少し視点を変えてみよう