中国の資金繰り研究Ⅱ - 上昇を続ける中国国債金利。
中国の国債金利の上昇基調が続いている。10年債(標題添付)は昨年(2019)の9月に付けた高値@3.17%台に達し、まだ上がっていきそうだ。
考えられる要因は2つ:
①アメリカとの対立が激化する中、海外資金を集めるためにあえて金利を高めに誘導している。
②国内の借入需要が強く、資金供給が追いつかない。
どちらのケースだろうか。筆者は両方と考える。①に関しては、実際中国はドル建、ユーロ建の大型起債を行ったり、人民元建債券市場を海外金融機関に解放したりしている( ↓ ご参照)。
確かにこの数ヶ月人民元の対ドルの為替レートや上海株は上げている。金利収入に困った投資家の一部は参戦しているかもしれないが、コアになる投資資金がどの程度流入しているかどうかについては何ともいえない。ファンドやトレーダー等 Fast Money による短期の投機的仕掛けもあろう。
②に関しては、4月以降の景気持ち直し時の資金需要増大に対応できていない。そもそも中央銀行である*中国人民銀行は「景気回復」を建前として、資金供給どころか引締めともとれる政策スタンスを維持している。
*日本の~20代以下は「金利のついた市場」を国内で見たことがないのでピンとこないかもしれないが、「金利のついた市場」で中央銀行が金利を安定させるにはかなりの技術が要る。今の日米欧のように圧倒的資金供給で金利をゼロ以下に押し下げてしまえば金利の変動はなくなるが、それとは全く次元の異なる金融調節が必要。当然相場変動も大きくなる。
そして中国に関しては圧倒的債務残高の高さが目立つ( ↓ ご参照)。今判っているだけでも特に家計、企業債務が大きく、これにまだ表に出ていない地方政府の”隠れ”債務もあるという。
ある意味バブル期の日本以上だろう。株や不動産が上がっている時は余り目立たないが、**資産価格が下がり始めると借金の返済は滞る。もともと信用創造でお金がパンパンに膨らんでいるので、恒常的に資金が足りないように見受けられる(正確な客観的データが得られないので把握が難しい)。
**中国の大手不動産会社が保有物件を▼30%割り引いてたたき売っている、と言うニュースを見た。何でも発行している社債金利が@11%にもなっており、コストに堪えきれなくなったらしい。おそらく他の不動産会社も同じような状況であることも考えられ、「お金の事情」は外から見ているよりも厳しいのかもしれない。
「人民元はドルに裏付けされている」という議論があったが( ↓ ご参照)、もしそれが真実ならいくら中国が財政出動や金融緩和を繰り出したくても「お金がない」ということも考えられる。
信用のない「法定通貨」ほど恐ろしいものはない。***要は中国人がどれだけ人民元を信じているかにかかっている。「裏付け」がないまま無秩序に通貨を発行すれば、通貨安等を通じてインフレをもたらす。ドルが「裏付け」なのはアルゼンチン・ペソやトルコ・リラも同様。自国通貨発行だけで危機が凌げるなら彼らもデフォルトの縁には追い込まれなかっただろう。
***中国人の「金」(Gold)好きは有名。筆者が香港で住んだ高層コンドミニアムのオーナーは中国人だったが、装飾は派手なキンキラキン。内ゲバの影響で海外に逃亡した華僑も多く、彼らが頼りにしたのが「金」だったというわけ。「中華思想」では何でも中国が一番、と考えるそうだが、果たして心の底から「人民元」を信じているのか? 試されそうだ。
何だか最近やたらと中国人民銀行が「景気回復」を強調しているが、内容が日銀のそれと被っており、気持ちが悪い。中国人の本心はわからないが、今の状況を「景気回復」と言われて納得する日本人がいるだろうか。甚だ疑問である。筆者には両中央銀行が「これ以上金融緩和できません」と言っているようにしか聞こえない。
「日本の資金繰り研究」を読んで下さってる方には分り易いかもしれないが、ひょっとしてどちらも「お金がない」のでは(?!)。
答えは「金利市場」が示すことになるだろう。しばらくは要注意。