「自分をお店に喩える」田原研児さんに教わった、心地よく生きるためのマイルール
お金の学校『toi』は、参加者の「お金」にまつわる悩みや夢を、校長・井上拓美&MC・くいしんと様々なゲストを交えて本気で考えることで、それぞれに必要な“問い”を一緒に探していく学校です。このnoteでは、メンバーの一員でもあるライターが講義を聞き、感じたこと、気づきや学びについて記録していきます。
●ライター:高城つかさ
1998年生まれ。家庭の事情で大学を中退後、2018年7月より本格的にライターとして活動開始。「言葉と人生」を掲げ、さまざまな人の人生を言葉という手段で届ける仕事をしています。新年の目標は自分を整えること。
●ゲスト講師:田原研児
株式会社forx代表取締役。カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社、ap bank、BILCOM、GREE、株式会社スマイルズにて事業部長や人事部長など携わったのち、2019年に株式会社forxを設立した。人事制度の設計を始めとし、経営・組織・人事に関する問題解決のお手伝いを中心に、クライアントのマーケティング調査や会議の企画など、幅広い業務を担当している。
「意欲的」「前向き」……。仕事に限らず、学生時代にも、わたしはそう言われてきた。ライターの仕事も4年目を迎えるけれど、そういうところを評価してもらい、いただいた仕事もあると感じている。
開業届を出した19歳のとき、わたしは「新卒の倍以上稼ぐ」という目標を設定した。大学に通えている人へのコンプレックスもあったし、友人から「将来大丈夫なの?」と心配され「説得するにはお金を稼ぐほかない」と思い、掲げたものだった。
達成し続けるためにどんな仕事にも取り組んだ。魅力的な仕事をたくさん体験させてもらったし、素敵な出会いもあったけれど、いつも何かに急かされていて、疲れがとれることはなかった。歩み寄ってくれる人に牙を剥いてしまうこともあったし、自分の殻に閉じこもることもあった。体調を崩し、心も不安定になり、泣いてばかりだった。目標は達成できたのに、わたしにはお金以外何も残らなかったのだ。
そうした経験もあり、2020年、わたしは働く上である指標を設けた。それが「仲良くなりたい人や尊敬している人と向き合いながら仕事をする・生きていく」こと。お金に左右されるのではなく、まずやってみることを大切にしようと決めた。
「与えてもらった仕事を精一杯こなそう!」という気持ちは変わらないけれど、金銭面のみを目標としていたわたしにとって、これはひとつの挑戦だった。
一年を振り返っても、これまででもっとも納得感のある働き方をすることができたと思う。自分にとって本当に大切にしたいことにも気づけた、必要な取り組みだった。
“仕事仲間”、“友達”……と関係性にラベルを貼っていたわたしのなかで境界線が消え、“友達”とする“仕事”の楽しさを見出せるようになった。達成感を得られるようになった。友人から「雰囲気が柔らかくなったね」と言われることも増えた。「どうしたら相手の力になれるのだろうか」と考えながら人と接するようになったのも、いい変化だと思う。「仲良くなりたい人や尊敬している人と向き合いながら仕事をする」目標が叶った上に、「自ら動いたことでお金をいただけるようになった」ことも、ありがたい。
だけれど、すべてがそうでないのも事実だ。喜んでもらえたり、距離が縮まったりすることは嬉しいけれど、気づけば無料で何かを頼まれたり、自腹を切ったりすることも増えた。
「金銭面は気にせず、まずは自分からやれることをしよう」と無償で提案し、率先して動くこともあったので、身体は倍以上動いているはずなのに、銀行の預金口座の数字は倍にもなっていなければ、体力に限界がきて、またまた体調を崩してしまったのだ。自分が決めたことだし、充実しているはずなのに、帰り道にひとりで泣くことや、イライラが止まらず、身近な人に八つ当たりすることも増えてしまった。
「仲良くなりたい人や尊敬している人と向き合いながら“余裕を持って”仕事をし、生きていくにはどうしたらいいのだろう」。わたしに、新たな課題が生まれた。
そんなとき、田原研児さんの講義を通して、ひとつの解決方法を教えてもらった。
重要なのは、自分が正直にあること
『組織の中でもやりたいことをやる方法はある』というテーマでお話してくれた田原さんは、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社、ap bankなどで人事部長や事業部長を経験したのち、株式会社forxを設立した。
興味深かったのが、田原さんは、人事をやりながら新規事業を立ち上げたり、収益化の流れを考えたりと、ひとつの組織にいながら複数の業務をこなしていたこと。自身の会社を立ち上げたあとも、“内部に限りなく近い外部の人”として組織に入り込み、マーケティング調査から会議の企画・司会など、幅広い業務を担当している。
田原さんは、そもそもなぜそのような働き方をするに至ったのだろう?
田原:
今の業務も好きだけれど、他にもやりたいことが出てきたというときに、一般的にはそれを手放して新しい環境を選ぶことが多いよね。でも僕の場合は、社内異動や担当変更をせずに「あれもやりたい」「これもやりたい」と「動きながら、やりたいことをやり続けるためにはどうしたらいいのか」を考えていて。もともとこういう働き方を目指していたわけではなく、結果こうなったんです。
「あれもやりたい」「これもやりたい」という田原さんの言葉と、わたしが自ら動きたいと思ったときの気持ちが重なった。きっと、根本にある「やりたい」「〜したい」という気持ちは共通しているはずだ、とも思った。
では、わたしと田原さんは、いったい何がどのように違うのだろう?
講義中、疑問をぶつけてみた。自分がやりたい、向き合いたいと始めたことなのに疲弊してしまっていること、金銭面でも体力面でも余裕がなくなってしまっていること……。どうしたらいいのか困っています、と。
田原:
大切なのは、自分が正直にあることだと思っていて。生きていくためにはお金と、それを稼ぐための時間も必要だからこそ、それを配慮した上で「今ならここまでできますよ」と提示したらいいと思います。
井上:
僕は無償でおせっかいをやることもあるんだけど……。「月に1回、1時間だけ打ち合わせする」と提示したとして、ある日2時間打ち合わせをしたらとても喜んでもらえるんだよね。最低ラインを設定することでプラスになることもあるから、先に提示するのもいいんじゃないかな。
田原さんは「自分が正直にあれる姿」を前提に考えている。その話を受けて、わたしにとって「向き合うこと」は、自分が無理することを前提にしていたのかもしれない、と気づいた。きっと、ここが大きな違いだ。
わたしがしたいのは、ずっと変わらず「仲良くなりたい人や尊敬している人と向き合いながら仕事をする・生きていく」こと。自分が無理をせずに相手と向き合い続けるには、どうしたらいいのだろう?
心地よい状態で相手と向き合うために大切にしていること
田原さんには、自分が無理をしないために大切にしていることがある。
そのひとつが「今できる範囲を提示すること」。そして、もうひとつが「距離感を考えること」だ。その姿勢は、さまざまな企業でやりたいことを形にしてきた田原さんに、井上さんがこんな質問を投げかけたときの回答にもあらわれていた。
井上:
僕は、“人”や“こと”、“組織”も出会い方が重要だと思っているんです。田原さんは出会い方について、どう考えていますか?
田原:
“やりたいこと”や“心地よいこと”のアンテナがあって、引っかかった瞬間に飛び込めるからいい出会いに恵まれているんだと思う。でも、直感的に「今は違う」と思うものとは距離を置いているかなあ。
突き放すわけではないけれど、一定の距離感を保つんだよね。それで「今なら大丈夫」と思ったらドアを開ける。そうすると、自然と心地よい状態になっていく。
井上さんが田原さんを「おせっかい精神の人」と喩えるように、田原さんは自身のことを「自分から入っていくタイプ」だと話す。それは“自分の状態を見ながら「今なら大丈夫」と思えるまで距離感をとり、向き合えるときを待つ”というステップを踏んだ上で成り立っているのかもしれないと思った。
距離をとるというのは「自分が不快だから」「嫌だから」と排除する行為ではない。自分が無理をせずに相手と向き合うために、大切にしていることのひとつだ。
楽しくて、やりたくて始めたことも、距離感を考えずに進めたり、無理をすることを前提にしてしまったりしては何も残らない。生きていくにはお金が必要だし、時間は有限だ。その事実を見つめ直さなければ疲弊してしまうし、向き合うこともできなくなる。かといって、かつてのわたしのように目先のお金のことだけを考えて生きたくもない。
自分をお店に喩える大切さ
もしかするとわたしは「新卒の倍以上稼ぐ」という目標を掲げた結果、体調を崩した経験から、今度はお金について考えることはよくないと感じてしまっているのかもしれない、と気づいた。お金について考えることから逃げていたことにも。
そんなわたしを救ってくれたのが、田原さんの「自分をお店に喩える」という言葉だ。
田原:
自分をお店に喩えたときに「メニューは何があるのか?」「先払いか後払いか?」と決める必要があると思っていて。それは仕事をする上でも大切なところだし、“マイルール”を決めておくといいよね。
井上:
お店を営業するにはお金が必要だからこそ、無償で提供するのはどこまでかを決めたり、時間をかけられるようにお金をもらったりすることも大事だよね。
以前は“お金”基準で動いていたわたしが、“人”と向き合いながら仕事をしようとした2020年。そこでぶつかったのが、体力面でも、金銭面でも、限界を超えて無理をしてしまうという問題だった。
お店を営業するためにも、生きていくためにも、最低限のお金と、それを稼ぐための時間が必要だ。経費ばかり落としていては店がつぶれてしまう。体調を崩し、働けなくなってしまっては意味がない。
“マイルール”は、自分を大切にするためにもあるけれど、それ以上に「向き合いたい人と向き合う」ためにも必要なものなのだと、講義を通して教えてもらった。
とはいえ、“仕事仲間”・“友達”の境界線が曖昧になっている今、いきなりメニューを決めるのは、心のどこかで「お金について考えるのは悪いことなのではないか」と感じていたわたしにとってはハードルが高い。
すると田原さんは「最初からお金をとるのではなく、1回目はお試し、次は仕事として受ける……みたいに決てみてもいいかもしれない」と話してくれた。
もし1回目の段階でまだ仕事として受けられるかわからないと思ったら、“2回目まではお試し”と臨機応変に変えてみる。マイルールを設けたからと言って、必ずしもその通りにしなければならないわけではという決まりはないし、“自分が正直にあれる”状態を守った上で、自分のスケジュールや体調とも相談しながら仕事をしよう、と思った。
田原さんは、講義でも参加者と向き合ってくれた。わたしの質問に「僕は仕事を依頼する側・してもらう側、どちらも経験があるけれど、高城さんはきっと依頼される側だから……」とわたしの立場になって“お店に喩える話”をしてくれたように。
2021年は「自分が無理をせずに、目の前にいる人と向き合いながら仕事をする・生きていく」ことを目標に、まずは自分をどのようなお店にしたいのか、マイルールを考えたい。
テキスト:
高城つかさ
イラスト:
あさぬー
編集:
くいしん