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「旅は、当たり前を壊す機会」世界一周を終えたはし かよこさんが語る“旅の魅力”

お金の学校『toi』は、参加者の「お金」にまつわる悩みや夢を、校長・井上拓美&MC・くいしんと様々なゲストを交えて本気で考えることで、それぞれに必要な“問い”を一緒に探していく学校です。このnoteでは、メンバーの一員でもあるライターが講義を聞き、感じたこと、気づきや学びについて記録していきます。

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●ライター:高城つかさ
1998年生まれ。家庭の事情で大学を中退後、2018年7月より本格的にライターとして活動開始。「言葉と人生」を掲げ、さまざまな人の人生を言葉という手段で届ける仕事をしています。海外へ行く日を夢見て、英語を猛勉強中。
●ゲスト講師:はし かよこ
1988年東京生まれ東京育ち。渋谷のIT業界を飛び出し、ウェルビーイングをテーマに夫婦で世界一周中のフリーランス。「誰もが自分の時間を生きられる世界」を目指して日々活動中。Capital Art Collective MIKKE。合同会社TSUMUGI立ち上げ参画。

「昔は、旅がきらいだった」。

これは、私がライターをはじめるきっかけとなった、すごい旅人求人サイト「SAGOJO」主催の無料ライタースクールへ応募したときのエントリーシートの一文目だ。

応募した当時、私は19歳だった。

母子家庭で育った経験から、私は、自立を夢見て高校生の頃からアルバイトに勤しんだ。高校3年生の頃、働きすぎが原因でぎっくり腰になったほどだ。

アルバイトの帰り道、SNSを開けば旅行の記録、遠出の思い出が溢れていて、「旅はお金持ちがするものだ」と羨み、自分とはまったく関係のないものだと感情を処理していた。

そんな私が、数年経たないうちにライターとして全国へ行くことになるなんて、思いもしなかった。北陸で職人さんに話を聞いたり、観光地をめぐって記事をまとめたりと、駆け出しライターで貯金もなかった私は、“仕事”を言い訳に“旅”をした。

そのうち「せっかくなら、もっと旅をしてみたい」という感情が芽生え、国内をひとりでまわったり、仲間と旅したりするようになった。

北九州で二週間のトライアルステイをしたり、畑に行ったり、現地で仲良くなった人にお店を教えてもらったりと、“生活をする”、“コミュニケーションをとる”ことに重きを置く旅をした。

新型コロナウイルスの影響で、いつの間にか外に出ることさえ難しくなってしまったなかでも、不思議と“旅”をする感覚が失われることはなかった。それはきっと、コロナ禍でも友人とコミュニケーションをとったり、ともに生活をしたりする機会があったからだと思う。

『え、旅するのってめっちゃ金かかんない?』というテーマで登場してくれたはしかよこさんは、私のように“生活をする”旅をしてきた人だ。

いったい、彼女はどのような旅をしてきたのだろう。

はしさんと私は、知り合ってまだ日は浅いけれど、近い視点で物事を受け取り、それを語り合える、大切な存在だ。なので、ここからは親しみをこめて“かよちゃん”と呼ばせていただきたい。

旅は「視点をずらすもの」

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かよちゃんは、アパレル店員を経てエンジニアになった。転職までのリフレッシュを兼ねてインドへ訪れた際に「生活すること」について考える機会をもらい、ウェルビーイングをテーマに夫婦で世界一周をすることとなる。

高校生の頃、私にとって旅は「贅沢」だった。お金持ちがすること、時間に余裕がある人がすることだと思っていた。だから、かよちゃんにとって旅がどんなものなのか、ずっと気になっていた。

すると、かよちゃんは、旅を「視点をずらすもの」だと話してくれた。

かよちゃん:
旅は、「当たり前の基準をずらす機会」だと考えています。なので私は、移動=旅ではないと考えていて。読書もそうだし、映画もそう。触れることで自分の当たり前や、何かと比べてしまう視点をずらして考えられることそのものが旅なんじゃないか、と思うんです。

「何かと比べてしまう視点をずらして考えられること」という言葉と、旅行をできない悔しさをぶつけていた私が重なった。当時は近しい生活基準のなかで、ひとつの視点しか持ち合わせていなかったからこそ、嫉妬しやすかったのかもしれない。

東京生まれ、東京育ちのかよちゃんは、地方で生まれた人が上京を志すように、視点が海外に向いたのだと言う。

かよちゃんが初めて旅をしたのは、筆者がライターをはじめたのと同じ年齢である19歳のときだ。好きな映画の影響で、ひとり、パリへと向かった。その経験が、かよちゃんに旅の楽しさを教えてくれた。

かよちゃん:
空港からパリ市内に行くために地下鉄に乗るのですが、階段で地上に出たら「パリだ〜!」と興奮しちゃって。そのときに「好きな人と世界一周したい」という目標ができたんです。その後、寝台列車に乗って国境を越える経験もしたのですが、そのときに話しかけてくれた人がいたのに英語が話せなくて悔しい思いをして、英語を勉強することにしました。

「英語を話せたほうが、旅はより豊かになる」。そう感じていたときに、偶然、セブ島で英語とエンジニアになるための勉強するプログラムと出会ったかよちゃんは、エンジニアに転職することを決意。会社員をしながら個人で仕事をすることも増え、独立することになった。

「自分がいる環境で、意思は変わることを身をもって体感した」

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「この人と世界一周をしたい!」と思える人と出会ったかよちゃんは、2019年から世界一周をはじめ、新型コロナウイルスの影響で予定より早い2020年3月に帰国した。

合計406日間、世界を旅しながら仕事をしたり、生活を体験したりしたかよちゃんの旅のなかでもっとも視点が変わった瞬間は、いつだったのだろう? 話を聴きながら、そんな疑問が浮かんだ。

すると、かよちゃんは、ネパールからドバイへ飛んだ日のことを話してくれた。

ネパールは、世界でも最貧困レベルと言われている国だ。水道が引けていないぶん、貴重な水を汲んでおり、それを丁寧に使いながら洗い物や入浴をする生活を1ヶ月経験した。

ネパールからドバイまでは、飛行機でおよそ4時間。そのときの出来事を、かよちゃんはこう振り返る。

かよちゃん:
ネパールからトランジットでドバイに寄ったときに、お店や物が溢れていることに驚いたんです。ネパールにいたときは必要十分なもので生活していたけれど、数時間飛行機に乗っただけでこんなにも世界が変わるのかと思ったし、「溢れている物のなかにほしいものってあったんだっけ」と自分に問いかけるきっかけになりました

旅を経て変わったことはたくさんあったと話していたけれど、かよちゃんの変化のひとつにある「物欲」は、きっとこの日の経験がきっかけだろう。

かよちゃん:
「○○がほしい」と“思う”こともあるけど、そのほとんどは優れたマーケティングや広告によってほしいと“思わされている”だけなのかもしれないと、ドバイで感じました。自分がいる環境で、意思は変わることを身をもって体感した、というか。ドバイに飛んだ日のことは、よく覚えています。

夫婦で世界一周をするときのルール

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かよちゃんが世界一周の出発を決めた理由のひとつに「旅に出る前に200万円の案件が決まったから」というものがある。それはきっと、エンジニアという職業柄だろう。

井上拓美:
いきなり200万円が入るなんて、一般的にはなかなかないよね。エンジニアの仕事は単価がいいから、それもあって世界一周できたんだろうなあ。

かよちゃん:
そう思う。200万円の案件の締め切りが3ヶ月後だったから、働くことと旅を組み合わせながら1年間旅に専念できるようにしたんだよね。半年で300万円くらいを稼いで、後半はずっと旅をする生活を送ったんだ。

夫婦で世界一周する際のルールは「自分が使う分は自分で稼ぐこと」。世界一周期間中、ふたりで600万円ほどを使ったと言う。

かよちゃんのパートナーは会社を経営しており、仕事をセーブしながらも最低限の役員報酬を出すことで補ったそう。かよちゃんはエンジニアの仕事を受けながら旅をして生活費を稼いだあと、後半は旅に専念した。

そんな経験もあり「仕事をしながら旅をするのと、旅をするのは違う」と、かよちゃんは話す。

もし2度目の世界一周をするなら「パートナーと子どもと巡りたい」と回答したかよちゃんは、一回目の世界一周を経て、どんな旅をしていきたいのだろう。そこには、仲間の存在があった。

かよちゃん:
拓美くんやくいしんさん、小川大輝くんなどMIKKEやMIKKEの周りの人たちと世界で合流と解散を繰り返したいなあと思います。転々とする旅と、暮らす旅を組み合わせたいです。

転々とする旅と、暮らす旅。いろいろな場所を移動しながらも、1ヶ月ネパールで過ごしたり、ニュージーランドで鶏の卵を毎朝拾って食べたりと、生活を試着したかよちゃんの旅への想いの変化が、その回答から見えた。

そんなかよちゃんは、食卓を軸に、自分にも地球にも「善い暮らし」を探求する生活共同体(コミュニティ)「TSUMUGI」も運営している。“食と生活の試着室”を神奈川県・葉山につくるクラウドファンディングは、138%と大成功をおさめた。

かよちゃんの興味のある、ウェルビーイングやサスティナブルを追求するという話は、かよちゃんの旅での経験が活かされている。

「きっと、東京で暮らしてもいいんだと思いたいんだろうな」。そう、かよちゃんは話す。

かよちゃん:
都市にいたら、当たり前のようにコンビニで食べ物が買えるけれど、旅を経て「本当にこれでいいのかな」と思ったんです。どんなに稼いでいても、どんなに仕事をしていても、誰かに作ってもらったご飯を食べていることに気づいてすらいない。かといって、私は生まれ育った東京という街のことを嫌いになれないんです。だからこそ、東京にいながらにして意識が変わる方法を探しています

日本に住む約1割の人が東京で暮らしている。そして、もっともお金を使っているのもこの街だ。だからこそ「東京に住んでいる人のお金の使い方が変わらないといけないし、暮らしのあり方が変わったらいいなと思う」とかよちゃんは話す。

そのように行動にうつせたのは、旅によって彼女の“当たり前”を崩され、大切なものを再確認できたからだろう。

かよちゃんのように関東圏出身である筆者は、東京都内の小学校を転々として過ごした。

家庭の事情で4つの地域で小学校生活を過ごした経験から、それぞれ住んでいる人の特徴や文化がちょっとずつ違うことを肌で感じていたぶん、かよちゃんの言う“旅”はできていたと思う。けれど、“消費し続ける街”という認識はなかった。

だからこそ、かよちゃんや、支えてくれる人たちの視点を借りながら“旅”ができている今を、ありがたく感じている。

「“旅”には、決まりがなければ終わりもない」。高校生の頃の私にそう話したら、どんな反応が返ってくるだろう。頑固だった私は「いやいや、お金持ちがすることだよ」と怒るかもしれない。

だけれど今回、かよちゃんの講義を通して、すでに私はさまざまな“旅”をしてきたこと、これからも、日本にいながらでも“旅”はできることを気づかせてもらえた。

もし、かよちゃんが2回目の世界一周をするときには、私もどこかで合流させてもらいたいな。

テキスト:
高城つかさ

イラスト:
あさぬー

編集:
くいしん


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