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大学生が商品開発から販売まで行った話【北海道の「食」プロジェクト】

北海学園大学経営学部の岡本啓吾です!
佐藤大輔研究室21期生で北海道の「食」プロジェクト(通称食プロ)のリーダーとして活動していました。

食プロとは?

北海道の「食」プロジェクトは、地域や企業など学外との連携をベースに多様な課題をアカデミックな知見で解決することに取り組み、その中で「実践力」のある人材の育成を図っている、佐藤大輔研究室プロジェクトの1つです。

北海道米のルーツである「赤毛米」が2023年に寒地稲作が成功してから150年の節目を迎えるにあたり、北広島市役所様から「赤毛米」を使用した商品の開発・販売できないかというお話をいただいたことがきっかけでこのプロジェクトが発足しました。

明治初期、北海道の寒地では不可能とされてた米づくりは、1873年(明治6年)に中山久蔵翁が現在の島松沢(北広島市島松)で、「赤毛種」とよばれる寒さに強い稲を改良しながら、水温を一定に保つため昼夜を問わず管理し、多くの苦労を重ね、稲作に成功しました。その後、中山久蔵翁は稲作を始める開拓者に種もみを無償で配布し、全道各地に米づくりが広がりました。また、赤毛種は、明治時代に広がり、1928年(昭和3年)には神饌田(しんせんでん)に選ばれ献上されました。現在の北海道を代表する米となった「ゆめぴりか」「ななつぼし」は「赤毛種」(道立農業試験場 登録番号一)の子孫です。
当商工会は、この歴史的偉業を讃え、現在では流通しない、その当時の米を復活栽培し、北広島の観光資源として会員事業所の経営の安定に寄与する目的で、商品開発等、様々な取組を行っています。

平成24年より取り組んでいる当会の取組が評価され、農林水産省主催の8回ディスカバー農山漁村の宝(むらの宝)アワードにて特別賞を受賞しました。

また、北海道米のルーツ「赤毛米」は、当商工会を含む地域での取組み・活動が認められ、北海道遺産に選定されました。(令和410/4回選定)

1873年に寒地稲作が成功してから2023年で150年の節目を迎えました。

https://www.kitahironavi.or.jp/products/ 北広島商工会 赤毛米について

北広島市の課題としては、市の魅力が外部に伝わってないことがあったようです。だからこそ北広島市の特産品である赤毛米を活用して市の魅力を発信して欲しいとお話をいただけた経緯があります。

「赤毛米」を使用した商品を開発・販売することで、多くの人に「赤毛米」そして「北広島市」について知ってもらい北広島市の魅力を発信することを目的としています。

【実際にどんな活動をしているの?】

まず初めに自分たちが「赤毛米」を通して北広島市の魅力を発信するためには、自分たち自身が赤毛米を知り、赤毛米を好きになる必要がありました。
まず最初に北広島市の豊かな自然、歴史等についての情報の収集や発信、展示を行っている北広島市エコミュージアム旧島松駅逓所に赤毛米・北広島市の情報を調査しに行きました。

実際の赤毛米の稲穂

中山久蔵翁が寒地稲作を成功させるまでの背景や、赤毛米の特徴を学ぶことができ、中でも一番記憶に残っているのが、誰しもが1度は耳にしたことのある言葉「Boys, be ambitious(ボーイズビーアンビシャス)」にまつわる話です。これは、W.S.クラーク博士が帰国に際し、札幌近郊の島松(現在、北広島市島松)で見送りの学生たちに述べた言葉として、全国的に知られている「青年よ大志を抱け!」という名言です。これには様々な研究がなされており、後に続く言葉にはいくつか説がありますが、後に続く言葉として有名なのは以下のものです。

当時の様子を記した絵画(乗馬しているのがクラーク博士)

“Boys, be ambitious! Be ambitious not for money or for selfish aggrandizement, not for that evanescent thing which men call fame. Be ambitious for the attainment of all that a man ought to be.”

「青年よ大志を抱け!金のためまたは利己的栄達の為にでもなく、ましてや人よんで名誉と称する空しきもののためにでもない。知識に対して、正義に対して、かつ国民の向上のために大志を抱け。人としてまさにかくあらねばならぬ全ての事を達成せんとするために大志を抱け。」

出典 https://www.lib.hokudai.ac.jp/collections/clark/boys-be-ambitious/

絵画でも記されているように、このような言葉をクラーク博士が残したとされています。このときクラーク博士が指を指した先にいたのが、赤毛米の寒地稲作を成功させた中山久蔵翁だと言われています。
つまり「Boys, be ambitious!」という名言を残した際に、クラーク博士は学生たちに対して、中山久蔵翁のように大志を抱けと発言したと推測されています。

この偉大な先人が作り上げた遺産である赤毛米を、私たちが赤毛米商品の開発・販売を行うことで後世に引き継いでいく重要性を感じました。

商品開発の道なり

まず私たちは赤毛米商品を開発するにあたって、赤毛米の魅力分析を行いました。ここでいう魅力分析とは、魅力を価値レベル意味レベルの2つのレベルに分けることで魅力を明らかにします。

価値レベル

客観的に評価しているその商品の魅力のこと。
顧客は商品のどの部分(側面・ポイント・特徴)に焦点を当てているか。
他でもないそれを買うべき理由。事実でもある。

意味レベル

主観的に見出しているその商品の魅力のこと。
顧客はそれを何として見ているのか。
あえてそれを買いたい理由。好きなところでもある。


実際に自分たちは、赤毛米の魅力分析を通じて以下の魅力に気付きました。

価値レベルの魅力

  • 74件しかない北海道遺産に登録されている点

  • 全国的に有名な北海道米ゆめぴりかの祖先である点

  • 2023年で赤毛米の寒地稲作成功から150年の歴史

  • 全国で北広島市内の農家二軒でしか栽培されていない希少性

意味レベルの魅力

  • 希少性が故に未知の味を体験することができる点

  • 赤毛米を食べることによる特別感、非日常感

  • 北海道米の食味官能評価(味)の実験は様々行われているが、希少が故に調査媒体が少なく、未知なる数値が検出される可能性がある点

  • 北海道では二期作は不可能とされているが、赤毛米を栽培している農家で、稲刈りを終え刈った株から新しい穂が出穂したため、二毛作が可能になるかもしれない未知さ

  • 畳(草)のような香り


これらの魅力分析を行い、商品に落とし込みます。赤毛米商品としてせんべいの開発をおこないました。

(赤毛米商品としてせんべいを開発するに至った経緯としては、この食プロ発足より前に、佐藤大輔研究室ではオープンキャンパスにてせんべいを製造していました。北広島市役所様から赤毛米認知度向上のために赤毛米せんべいの開発を依頼された背景があります。)

【初めての赤毛米商品「赤毛米せんべい」】

赤毛米せんべい

上記の写真のような赤毛米せんべいを開発しました。
赤毛米の名の通り、1種類は赤色で赤毛米本来の味を感じられるよう塩味に設計をしました。
もう1種類は北海道のスープカレーにちなんでカレー味に設計しました。
食感は固め(南部せんべいのようなイメージ)に仕上げました。
赤毛米の含有率は総重量の10~20%という結果でした。

赤毛米せんべいの分析と気づき

赤毛米せんべいを弊学のオープンキャンパスに訪れた高校生とその保護者に配布し、アンケート調査を実施し分析を行いました。

被験者数は204、質問項目として以下6点です。

  • 赤毛米せんべいと食プロの活動目的が繋がっているかどうか

  • 赤毛米せんべいの適正価格

  • 赤毛米せんべいの評価

  • 赤毛米に関する興味、関心

  • 赤毛米せんべいに関する感想や商品改善のアイデア

  • 被験者の属性調査

これらの質問から分析を行い、分析結果より以下のことが分かりました。
                        (調査内容一部省略)

  • 赤毛米せんべいと食プロの活動目的のつながりに関する母平均の検定を行った結果、多くの項目について、中間評価よりも強くつながりを感じられているわけではない

  • 赤毛米せんべいの商品に関する評価は高いとは言えない。

  • 赤毛米せんべいに関する総合評価と評価項目の単相関数係数から、赤毛米の歴史・ブランド、開発経緯、味、香り、食感、商品本体のデザイン、パッケージデザインが総合評価に影響する要因であることが分かった。

  • また偏相関関数から赤毛米せんべいにおいては味・香り・食感・パッケージデザインが特に重要な影響を及ぼすことが判明した。

  • 三次元CS空間に基づく赤毛米せんべいに関するCS分析の結果、商品の味・香り・食感・パッケージデザインを改善する必要があることが分かった。

  • 赤毛米せんべいと地域振興に関する母平均の検定を行った結果、赤毛米せんべいを通じて、赤毛米や北広島市に対する興味・関心、北広島市に対する評価の高まりが強いとは言えない

以下被験者からの感想を一部抜粋

  • 高齢の方も食べやすいようにもう少し柔らかくしてほしい

  • 固く口の中が痛かった

  • 見た目が食欲をそそらない

  • 開発経緯や目的が伝わってこなかった


ここまで難しい調査・分析結果を書き連ねましたが…
要するに顧客に何のために赤毛米せんべいを作っているか伝わっていないし、味や香り、食感など改善するところが山ほどあるという事です。

さらに北広島市役所にて、市役所の方々や市議会委員、有識者の皆さんの前で我々の活動発表や赤毛米の商品開発の事例発表を行いました。

そこでは有識者の方々から、赤毛米の配合率を上げる必要性や小麦を含まないグルテンフリーの商品を開発して欲しいなどの要望をいただきました。

そこで自分は大切なことを忘れていたことに気付きました。

やるべきことではなく、自分たちのやりたいことを優先しすぎていたのです。
このプロジェクトが発足したきっかけは、初めにも述べましたが赤毛米や北広島市の認知度向上・魅力周知のためです。
赤毛米や北広島市の魅力を周知するために赤毛米商品を開発しています。

しかしながらせんべいを作ることが目的となってしまい、北広島の方々や応援してくださる方の声に耳を傾けることなく、自分たちの作りたい商品を開発している"ただのお菓子屋さん"になっていたのです。

北広島市役所での商品お披露目会

また自分たちは赤毛米の魅力分析や商品開発を行っていましたが、心から赤毛米のことを好きになれていないことに気付きました。
赤毛米が自分たちの活動のツールでしかなかったのです。

1から食プロの存在意義の確認と赤毛米に対して向き合いました。


【新商品「赤毛米チップス」】

儚いお米、赤毛米

自分たちがこのプロジェクトを通して赤毛米の魅力を周知するためには、
まず自分たちが赤毛米の魅力に気付き、それを共感してもらうことが必要でした。

そこで私たちは赤毛米を実際に栽培しているタカシマファーム様を訪れたり、北広島商工会様から情報をいただいたり、実際に赤毛米と現在流通しているお米を食べ比べたりと様々な形で赤毛米について、自分で感じ取ることを大切にしました。
ただ米粒を眺め続けたこともあります。

米粒の比較
タカシマファーム様

結果自分たちは赤毛米の様々な好きなところに気付きました。
この頃気付いた時にはすでに赤毛米のにはまっていました。
赤毛米が夢に出てきたこともあります。


赤毛米は過去に1度絶滅しましたが、北広島市の様々な方々の努力により復活したというバックグラウンドがあります。
お米の収穫は機械で行われることが一般的だとされる中、赤毛米は穂が長く絡まってしまうため、手作業で収穫が行われます。
そのため栽培したがる農家さんは少ないと農家の方はおっしゃいます。
このようにまたいつ絶滅してもおかしくない点に愛情が湧いてきたのです。

また歴史的にも現実的にもとても希少で価値のあるお米です。

これらの魅力から赤毛米は「儚いお米」であると定義し、赤毛米商品コンセプトを「儚さ」に設定しました。


新商品の開発

オープンキャンパスの際に実施したアンケート調査とその分析結果から、
赤毛米の味・香り・食感・パッケージデザインが商品の評価に強くかかわることが判明したため、この4項目を重点的に改善することにしました。
また商品コンセプトである「儚さ」を体現した商品を目指しました。

味に関しては、より赤毛米本来のお米っぽさを感じられるように薄い塩味に仕上げました。
またほのかにお米の香りがするように製造会社様と打ち合わせを行いました。
前商品である赤毛米せんべいは固かったですが、様々な方々に受け入れてもらうためと、食感として「儚さ」を感じ取ってもらうため、脆く崩れ落ちるような儚い食感に仕上げました。

また商品のパッケージデザインですが、プロデザイナー様に依頼をし、
商品コンセプトである「儚さ」を体現したパッケージを制作していただきました。
この際に自分たちの赤毛米に対する想いをプロデザイナー様に共感させることを意識しました。


そして完成した商品がこちらです。

赤毛米チップス

新商品は「赤毛米チップス」です。
また北広島市役所で行った赤毛米の商品開発の事例発表で頂いた
「赤毛米の配合率を上げる」
「小麦などを使用せず、グルテンフリーの商品に」
という関係者の方々の意見を反映させ、

赤毛米100%(米粉のみ)

にこだわり実現させました。


商品名は「儚(ひとのゆめ)」
商品コンセプトである儚さから漢字を取り、「儚」という漢字を構成している「人偏」と「夢」で分け「ひとのゆめ」と名付けました。
この商品名には、中山久蔵翁をはじめとした、赤毛米や北広島市に関わっている全ての人の夢や想いも背負っているという意味合いも含ませています。


「儚(ひとのゆめ)」の販売

2024年10月12.13.14の日程で、北広島市にあるエスコンフィールド北海道にて北海道日本ハムファイターズのCS(クライマックスシリーズ)が行われました。
その際、球場内で赤毛米チップス「儚(ひとのゆめ)」の販売を行いました。

結論から記すと、全167個即完売することができました。

「儚(ひとのゆめ)」を持つB・B

3日間販売を行い、1日目に購入してくださったお客様が2日目に再度購入しに来てくださったりと、納得のいく商品を開発出来ました。

またこのプロジェクトの目的である赤毛米と北広島市の認知度向上、魅力の周知をできたと思います。

反省点としては効果の測定を行えなかったことや、販路の開拓を進めることが出来なかったことが挙げられます。


【食プロのもう1つの軸「出店」】

食プロでは、赤毛米の認知度向上を目的として、祭りやイベントに赤毛米を使用した団子を出店販売しています。

実際に自分の手で販売することで、マーケティングを学べたり、実際に北広島市民の方々の想いを汲み取ることができるなどのメリットも存在します。

さらに不特定多数の方々が祭りやイベントに訪れるので、効果的に沢山の人々に赤毛米や北広島市の魅力や存在を周知することが可能です。

北広島雪まつりでの出店(2024/02/03)
赤毛米団子を使用したおしるこ
札幌PARCO in 無印良品で行われたPOP UPでの出店(2024/06/02)
赤毛米団子にきなことみたらしをかけての販売
厚別区民まつりにて赤毛米団子の販売(2024/07/27)
JR北広島駅にて赤毛米チップスの試験販売(2024/09/01)

このように実際に自分たちの手で商品を販売することで、顧客目線でマーケティングを学ぶことが出来ました。
また直接市民の方々と話し、自分たちの赤毛米愛を伝え、共感していただいたり、赤毛米商品を食べて頂くことで赤毛米の魅力を周知しました。


まとめ

プロジェクトの初期段階では、赤毛米の認知度向上という本来の目的が薄れ、赤毛米を使用した米菓を開発することそのものが目的化してしまい、その結果商品開発が思い通りいかないような苦しい思いを経験しました。

リーダーとして何のためにこのプロジェクトを行っているのか、誰のどんな課題解決のためにこのプロジェクトが存在しているのかなど、活動の目的を見失わないよう、プロジェクトを進めることを意識しました。同時にその難しさや達成感も学ぶことが出来ました。

また出店などを通じて、現場で顧客目線での購買行動や、自分たちの商品を購入してもらえるにはどうすればいいのかを考え工夫を重ねるなど、顧客の声をもとに改善を重ねるプロセスは、大きな経験になったと思います。

食プロは北広島市や市関係者様、菓子製造会社様、その他さまざまな企業様、社会人とやり取りをさせていただく事が多く、その中でただ学生生活を過ごしているでだけでは身に付けることのできない社会人力を磨くことが出来たのではと思います。

反省点も数えきれないほどあります。とくに活動を通じてこれからの人生必要だと思うことは、その場ですぐに行動に移すことです。
簡単なことのように聞こえますが(自分も簡単のように聞こえます)自分は中々行動に移せないことがありました。
このようなプロジェクト活動を行っているとめんどくさいと思ってしまう事はありますが、それでもその場で行動をすることで必ずいい結果へ結びつくと思います。

あとは先生への報連相がたびたび欠けてしまったことも反省してます。

様々な失敗もしたからこそ、学びの多かったプロジェクトでした。


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