「深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)完結篇⑫&読みたいことを、書けばいい。」(第238話)
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2019年9月20日 朝
スナックふかよみ
パイが大喜びしたお菓子は源氏パイ?
「パイ」という名前も源氏パイに関係していた?
実は決定的な証拠が最後に出てくるんだ。
あのお菓子が「源氏パイ」であるという証拠が、最後のシーンで…
は?
そんなのあった?
それでは順を追って見ていこう。
パイと二人の日本人オカモトとチバによる問答を…
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廊下から戻ってきた二人をよそに、パイが源氏パイのことばかり喋っているので、チバはイラっとしてこう言った。
「そんな話には騙されないぞ」
パイが「何のこと?」と尋ねると、チバはドヤ顔でこう言い放つ。
「バナナは水に浮かないのです!」
ここは映画版でも使われた場面ですね。
そしてチバはこう言った。
海に浮かぶ大量のバナナの上にオランウータンが乗って移動していたなんて話は嘘だと。
バナナは重過ぎるのでオランウータンごと海底に沈むと主張したんだ。
するとパイは「試してみるといい。向こうに洗面所があるから」と言った。
そしてシーツの中からバナナを取り出し、チバに渡す…
実験の結果、バナナは水に浮いたわ…
パイは嘘を言っていなかった。
なぜなら、イエスも水に浮いたまま歩いて移動したから…
その通り。
この「バナナは水に浮くか問答」のシーンは『ヨハネによる福音書』の第5章が元ネタだった。
「ロサンゼルスから来たチバが水を溜める洗面所のシンク」とは…
「天国から降りて来た主の御使いが水を溜める小さな池」のことで…
「洗面所のある病室のベッドに横たわるパイ」とは…
「小さな池のそばで床に臥せっていた病人」のこと…
そして「バナナ」とは「モーセ」のこと…
バナナは学名を Musa(ムーサー)という。
そしてイスラム世界では、モーセをムーサー(موسى Mūsā)と呼ぶ。
『ヨハネによる福音書』第5章でイエスはこう言った。
「モーセ五書(トーラー)とは、私についてあかしをするもの。モーセは私のことを書いたのである」
ならばイエスはモーセ同様に海を割って海底を歩くはず…
だけどイエスは海を割らず、水に浮いて海を渡った…
それをヤン・マーテルは「バナナは水に浮くか問答」として表現したというわけね。
この例え話は物語の肝なので、映画版でもキッチリ再現された。
オカモトとチバの面白トークがこれだけなのは残念だけど。
次は確か「見たことのないものは存在しないということなのか問答」でしたね。
チバが洗面所で騒いでいる間、オカモトは「肉食植物で出来た肉食島」のことを考えていた。
そしてオカモトはパイにこう告げる。
「これは君にとって心外に聞こえるかもしれない。我々も君を嘘つき呼ばわりするつもりはないんだ。ただ、君の話はとてもじゃないが信じられない。カニバリズムの木?魚を食べて真水を生成する藻類?木の上にいる好水性の齧歯類?そんなものはすべてこの世に存在しない」
すべてイエス・キリストのことよね。
そしてこんな会話が交わされた。
パイ「信じられないのは、あなたがそれを見ていないから」
オカモト「その通り。我々は自分の目で見たものしか信じない」
パイ「コロンブスもそうでしたね」
「Columbus」はイタリア語で「Colombo(コロンボ)」…
「純潔の白いハト」という意味でした。
つまり三位一体のひとつ「聖霊」のこと…
『ヨハネによるイエスの洗礼』
グイド・レーニ
さらにオカモトとパイは議論を交わす。
パイは「この地球上には、人の想像を超えた植物が存在する」と主張。
オカモトは「どんな植物でも自然界の法則を破るものはない」と主張した。
すると突然、チバがこの話題に割って入ってくる…
チバの叔父さんの話ですね。
大分県の日田に住む「サンボマスター」のおじさん。
それじゃあ、これになっちゃう(笑)
『世界はそれを愛と呼ぶんだぜ』
サンボマスターじゃなくて「ボンサイ・マスター」だよ。
日田に住む盆栽名人のおじさん。
あっ、そうでした…
パイは「ボンサイって灌木のことだっけ?」とチバに言った。
これはモーセが見た「燃える柴」のことを指している。
それに対しチバは「違う」と答え、説明を始める。
駄洒落やダブルミーニングなど、言葉遊びを駆使して…
「ボンサイとは2本の木からなるもの。60cmにも満たない木で、1本足で立っている。手で自由に持ち運べるくらいのサイズで、しかもとても長持ちするんだ。日田のおじさんは300年越えのボンサイを持っている」
これは「十字架」のことだったわ。
その通り。
「日田」とは、四角の中に「十字架」を書く工程に他ならない。
そして聖子ちゃんの故郷「久留米」のすぐそば(笑)
パイはそんな木があるわけないと言い、チバはあると言う。
そしてパイは「僕は自分の目で見たものしか信じない」と言う。
さっきと立場が入れ替わって同じセリフを言ってる。完全にコントね…
その後もパイへのインタビューが続き、二人の日本人との間で「信じられない」「見てないからだ」の押し問答が続く。
それならばとパイは別のストーリーを語り始めた。
「動物の出て来ない話」を。
人間が人間の肉を食べて血を飲むという、恐ろしいカニバリズムの話…
しかし実は、ただの「聖書に書かれている話」でした…
『これはわたしの体、わたしの血』
そしてオカモトは、あることに気付く。
パイが話した2つの話は一致する。同じ話を言い換えただけのものだと。
シマウマは水夫、オランウータンは母親、ハイエナはフランス人コック、そして最も凶暴なトラはパイ…
本当は、シマウマは兄、トラは父、ですけど。
オカモトとチバは動揺した。
そんな二人を見てパイは、こう訊ねる。
「どちらのストーリーが気に入りました?動物が出てくる方?動物が出てこない方?」
二人は答えた。
「イエス。動物と一緒の物語の方がいい」
パイは、キリストの物語を動物に置き換えて話していた…
人間の話として語ると突飛なことの連続で、最後は残酷なホラーになってしまうイエスの物語を…
だからパイはこう言った。
「サンク・ユー。それが神と共にあるということなのです」
パイは、二人の神妙な顔つきにウケ過ぎて、ニヤケそうになるのを必死で堪える。
意味が解っていないオカモトとチバは、パイの目に浮かぶ涙を深い悲しみのせいだと勘違いしてしまう。
そして、これ以上のインタビューをあきらめ、パイに礼を言い、別れの挨拶を交わして退室しようとした。
ここでパイが二人を引き留める。
インタビュー中にもらったあのお菓子を、二人に返すと言い出すんだ。
二人にそれぞれ三つずつ渡すと…
オカモトとチバはお菓子を受けとり、これでメキシコでの話は終了。
エピローグが始まる。
よく考えると、不思議な終わり方ですね。
なぜこのタイミングでお菓子を返すの?
しかも二人に三つずつ?
パイは最後の最後にヒントを与えたのじゃ。
己の正体のヒントを。
は?
最後にパイは、オカモトとチバに、お菓子を三つずつ手渡した…
これが何を意味するか、よく考えて欲しい…
三位一体ってことじゃないの?
それなら二人それぞれに渡さなくてもいいよね。
だけどパイは、わざわざ二人に渡したんだ。三つずつ…
二人に三つずつ…
どうしてだろう? なぜヤン・マーテルは物語の最後にこんなことを…
簡単だ。六個必要だったんだよ。
あのお菓子が、三立製菓の「源氏パイ」だから。
えっ?
源氏パイの製造会社である三立製菓のホームページを見てほしい…
会社情報の「社名の由来」を…
なにこれ!
「三立」とは「三位一体」を表している…
しかも「二つ」の「三位一体」を…
なんと…
そ、そんな馬鹿な… ありえない…
他にどんな理由が考えられる?
だけどヤン・マーテルはフランス系カナダ人でしょ?
どうして「源氏パイ」を知ってたの?
モンドセレクションで5回連続金メダルを取ったから?
モンドセレクション・トロフィーをもらって殿堂入りしたから?
おそらく…
田辺聖子だろう…
は? なぜ田辺聖子?
『ライフ・オブ・パイ』の全ての謎の答えは…
田辺聖子の『ジョゼと虎と魚たち』の中にあると言ったよね…
だから「源氏パイ」の謎も当然ここに…
ジョゼ虎に源氏パイなんて出て来た?
いえ、出て来ません。
出てくるよ。
出て来ませんってば。みんなで読んだじゃないですか。
パイみたいにお菓子を食べるシーンなんてありませんでしたよ。
食べる時にボロボロと形が崩れてしまうお菓子の話なんて…
別の形で描かれているんだ。「源氏パイ」が。
別の形?
そう。壮大なスケールで。
壮大なスケール?
何言ってるんだか全然わかんない。
うふふ。まだ気付いてないのかしら。
何に?
『ジョゼと虎と魚たち』で語られる話はすべて嘘だ。
あの旅行も全部嘘。
ジョゼは車で九州になんて行っていない。
ええっ?
そんな馬鹿な…
それじゃあジョゼは、いったいどこに行ったのですか?
田辺聖子は、さまざまな嘘を並べて『ジョゼと虎と魚たち』という物語を書いた…
そしてヤン・マーテルは、そんな田辺聖子を踏襲して『ライフ・オブ・パイ』を書いた…
パイの太平洋漂流話が嘘だったように、ジョゼの自動車旅行も嘘…
そしてその秘密は、劇中で描かれる「源氏パイ」に隠されていた…
つまり…
『ライフ・オブ・パイ』の秘密を知りたければ…
『ジョゼと虎と魚たち』に隠されたトリックを、解き明かさなければならない…
そういうことです。
ついに核心に迫る時が来たか…
長かった… 本当に長かった…
それではもう一度『ジョゼと虎と魚たち』の1ページ目を開いてください…
田辺聖子が仕掛けたトリックを、順を追って解説しましょう…
1ページ目から?
そう、1ページ目から。
冒頭のセリフから嘘が始まっている。
ええっ?
つづく
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