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2025年J1第2節横浜FC-ファジアーノ岡山「笑いたいやつらには笑わせておけば良い」

あの嫌な笑い声は今でも覚えている。横浜では、JFL時代からサポーターが選ぶ年間MVP投票を行ってきた。2024年横浜のMVPは、アシスト王に輝いた福森ではなく、クリーンシートを何試合も達成した市川やボニフェイスら守備陣でもなく、チーム内得点王だったカプリーニや小川でもなかった。

2024年のMVPは櫻川ソロモン。ホーム最終戦となった栃木SCとの試合後に、アナウンスされ表彰式があるのだが、そのアナウンスがされた時ドッと沸いたのは、驚きだけではなくそこに馬鹿にしたような汚い笑いがあった。
37試合984分5得点。それが櫻川の2024年の成績。得点数だけを見ても、岡山時代から1得点増えただけで、キャリアハイの7得点だった千葉時代を上回ることはできずにいた。スタメンでの出場はわずか4試合。理想のMVPは、上記に出したような出場時間も長く、目に見える傑出した活躍をしている選手が定番だが、そのどちらにも当てはまっていないと捉えられたのだろう。

クラブやメディアがそう決めるならいいが、彼をMVPにしたのはサポーターである。あの嘲笑は情けないし、選手を複雑な気分にさせる。その栃木SC戦で警告を受けて最終節出場停止となった彼のシチュエーションが、惨めさを高めてしまった。サポーターは選手の価値を高める事も貶める事が出来る存在である事を忘れてはならないだろう。特に自分の応援しているクラブの選手を


I'll get you back

後半12分、あの叫びは、鬱積したものを吹き飛ばした。

風上でGK市川のボールは伸び、山根のクロスはお世辞にも良いものではなかったが高く上がりすぎた結果ボールの落下点に入るのが難しくなった。ワンバウンドして高く跳ねたボールに先に反応したのは櫻川だった。反転して前を向いてヘディングでボールをゴールに流し込む。岡山GKはブローダーセン。フリーで放たれたシュートを身体に当てて跳ね返したまではよかったが、櫻川はそのこぼれ球にも先に反応。
体勢を崩しながらブローダーセンが飛び込む前にゴールにボールを流し込んだ。彼にとってJ1初めてのゴールであり、横浜にとっても2025年の初ゴールとなった。一撃で決められない甘さは残るものの、すぐに反応して押し込んだシュートは昨年からの進歩だ。

2025年1トップの主戦候補は負傷から戻ってきた森で進んでいただったはずが、負傷で再離脱。J2でも出場時間を伸ばせなかった選手が、J1で大丈夫なのか不安視される中での一撃。不安を払拭するゴールにもなった。FWが自分のプレゼンスを上げるには、ゴールしかない。昨年も劇的なゴールを挙げてきた櫻川だったが、ゴール以外の部分での貢献度が低く評価されてこなかった。彼は「特に何もしていない」と語ったが、実際はコンディション調整で食事や睡眠環境を見直して減量。FC東京戦でチームトップの走行距離を記録していたのも、そうした取り組みのおかげだろう。

サポーターにMVPを一笑に付される存在から、チームの柱へ。笑いたい奴らには笑わせておけばいいさ。

風にふかれて

この日三ッ沢は強い風が吹いていた。岡山はルカオ、横浜は櫻川と大柄な1トップで、システムも3-4-2-1とミラーゲームの様相を呈していた。双方、守備時はしっかりと5バックになり、相手の攻撃を跳ね返し続けて大きな決定機は生まれなかった。前半岡山が風上でルカオめがけて出てくるロングボールへの対処でラインは下げさせられるが、そこは身体を張って対処。こぼれ球を奪えば、横浜は櫻川にボールを集めてカウンター気味の攻撃を繰り出すが、それは岡山守備陣に跳ね返されてしまう。

感覚的には、岡山は前線の選手の距離感が悪く各々が孤立気味だったし、横浜の方がサイドを広く使う意図は見えたが、厚みのある攻撃には程遠かった。

堅守同士の

横浜が後半先制してから、岡山は流れをつかもうとし、横浜はそれを阻止するために交代を見せる。昨年リーグ最少失点の横浜と、クリーンシートが最も多い岡山という守備に強みのあるチーム同士の戦いは、その後も決め手に欠けるまま時間だけが経過。
試合終盤、ペナルティエリアでフリーになった一美が放ったシュートに失点を覚悟するも、クロスバーに弾かれて同点は免れた。

正直J1カテゴリで行われたJ2のような試合になってしまった。ただ、昇格組同士どちらもここで勝たないといけないという気持ちはあったはず。横浜は開幕戦で良い内容を見せつつ0-1で惜敗しており、ここで負けることは降格ランプが想起されるような気持になっていたはず。

横浜は福森を下げ伊藤槙人を入れて守備強度を高める余裕も見せた。今シーズンからルールが変わり、ベンチ入りは9名まで可能。前節ビハインドの状況では攻撃的な交代があったが、この試合では打って変わって明確に守備に重きを置いた起用ができた。岡山は、岩渕や末吉、そして佐藤はU20代表の活動で不在と攻撃のキーマンを欠いており、攻撃のギアを一段上げることはできないまま試合終了。

正直内容は低調だが、それでも横浜は前回のJ1での戦いと違って早めに勝ち点3を手に入れることが出来た。高めに目標設定してコケてきた反省から、今年は最初から残留が目標と宣言した。それがよいかどうかはわからないが、過去1度も自力残留したことのないクラブはそれが至上命題である。

誇りを胸に、拳を天に

今年横浜は正直地味な補強が多かった。2023年のJ1では、B契約の選手を多く獲得し彼らの成長を見込んでチームを作ったが、今年は真逆ともいえる堅実で経験ある選手を加入させる補強を見せた。新保こそJ2で異彩を放つ存在だったが、J2降格した札幌、鳥栖、磐田から選手を獲得。鈴木準弥も2024シーズン後半はポジションを失っていた。一言で言えば価値が下がってそうな選手を、必要なポジションに適切に補強したともいえる。

彼らももっと出来ると思って、やっかみを耳にしながらJ1にしがみついた。前評判通りの動きを見せる駒井はともかく、山﨑はこの試合で岡山をシャットアウト。影のMVP級の働きがあった。自分たちの価値を高めていくには結果で見せるしかない。

横浜は昇格する度に最下位でJ2に降格している。「どうせ降格するのに、なぜあんなクラブに移籍するんだ。」「結果は見えているのに」「客もいなくて応援するファンも少ない」「どうせならもっと良いクラブに。」「年俸も高くない。」選手たちが言われている声くらい、サポーターの耳にも入っている。

横浜はそうした声を全て翻していく。笑いたいやつらには笑わせておけば良い。私はこの決して大きくないクラブに、縁あって加入した選手たちを誇りに思う。苦しい時もある、悲しい時もある。それでも、それを乗り越えて目標を果たす。

さぁ次節は横浜ダービー。声を出せ、拳を突き上げろ。


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