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2024年J2第37節横浜FC-栃木SC「あと1つ」
試合終了の笛が鳴った途端にスタジアムは水を打ったように静寂が広がり、聞こえてきたのはブーイングの声だった。勝利すれば自力で自動昇格を手にすることが出来たホームゲーム最終戦で0-0のスコアレスドローに終わってしまった。第34節鹿児島戦で勝利し残り4試合で勝ち点2以上を得れば自動昇格という圧倒的に有利な立場は消え去っていった。
あと1点
ここ2試合で計7失点した守備陣もこの日はそれまでと異なり比較的ソリッドになった。相手がJ3降格が決まっている栃木であってもFW矢野は前線で激しくプレッシャーにきて、降格したチームとは思えない集中力を見せるが、序盤こそそのプレスに引っ掛かることもあったが徐々に跳ね返すことが出来た。栃木は全体的にブロックの位置が低く、ここ2戦の仙台や岡山と違って前からプレスをしかけて誘導して奪えるところからというより、前線のプレス回避で長いボールを蹴ってくれたらセカンドボールを奪おうといったスタイルで、横浜は自分たちでボールを持って試合を進められる相手ではあった。
サイドチェンジも待ち構えている相手なので基本的に通りやすい状況でもあった。
この日の横浜はFW髙橋を出場停止で欠き代役として櫻川、負傷明けの室井と前節途中出場の小倉が先発に名を連ねた。櫻川はクロスのターゲットとしては有効な部分はあるが、基本的にボールを収めるまでの落下点への予測とその身体の使い方が苦手で前線で味方を上手く使うところまでいかない。また、パスを出す時の間に工夫がないので、サイドに流れても有効なパスが出てこない。そして致命的なのは決定力がない。夏場の愛媛戦や秋田戦で見せたような土壇場での決定力は真夏の夜の夢だけのお楽しみだったようだ。
とは言え、チャンスは圧倒的に横浜が作り出した。降格が決まったチームとプレーオフ圏内を争うチームとの差は厳然としており、前半は横浜が試合を支配していた。
しかし、どうしても1点が割れないまま時間だけが経過していった。横浜はウィングバックの中野と2枚のシャドーのカプリーニと室井を代えて前線の運動量を保持したまま攻め続けた。ジョアンパウロのミドルシュートは、栃木GK丹野に弾かれた。櫻川のシュートもポストを掠めた。
残りの15分でさらに圧をかけたいところだったが、横浜が栃木ボールを奪っても前線に飛び出していく選手がいない。サイドの選手は低い位置で前線と距離があるのでプレッシャーを受けては作り直すしかなく、ダラダラとした時間だけが三ツ沢を包む。山根がボールを持っても、パウロはタッチライン沿いを走って裏抜けしないので、パスコースが限定された時に戻したり、スピードダウンするのを見ているともどかしい気持ちになった。
櫻川も疲労して前線からプレッシャーが徐々にかからなくなっているのに、心中するようだ。「規律」と「意外性」の葛藤は指揮官を常に悩ます問題だが、ジョアンパウロを前にして小川を入れるようなプランはなかったか。この試合でイエローカードをもらっていた櫻川は次節出場停止だから、2枚目も考えたら下げる手もあったはず。この考え方のままだと髙橋が90分走り続ける事になるのか。
四方田監督の攻撃の構築は上手くない。一時期修正力と持て囃されたが、それは勝ってる時だから雄弁に語れることで、こうしたギリギリの戦いでそれを出せないのは勝負師として苦しい。ボールを支配していたのだから、中村拓海を起用して後ろからボールを入れたり、右サイドを動かす事も出来たが、ここも動けずじまいのまま。
残り3分で井上が投入されたが、試合を動かすことは出来ずアディショナルタイム6分が過ぎてタイムアップ。その6分に可能性を感じることもなく0-0で勝ち点1を得ただけだった。
あと1試合
最終節の相手は山口。22年にアウェイで対戦した時は、佐藤謙介はわざわざアウェイゴール裏まで来て、「昇格してください」と長く所属した横浜に寄り添ってくれた。この試合は山口に昇格の可能性はないが、チーム史上最高の勝ち点の可能性があることと、関の最終試合という点は気になる。どのチームもそうだが、ホームゲーム最終戦は動員もあるし、一年の最後勝って終わろうという機運が高まりやすい。
同様に横浜もこの山口戦がレギュラーシーズン最後の試合になるはずだ。降格が決まっている栃木に無得点で引き分け。4日には残留が決まっている熊本がプレーオフ圏内を争う仙台を破った。最終盤でも順位と結果はリンクするとは限らないからこそ最後の試合にしたい。
あと勝ち点1
横浜が足踏みをしている間に勝ち星を重ねた長崎が勝ち点3差まで迫る。横浜が敗戦を喫し長崎が勝利なら、2試合で7失点した事で得失点差を吐き出した横浜は得失点差の関係で逆転され長崎が自動昇格となる。
山口戦で勝ち点1以上を積み上げられるか。むしろこうした状況で勝ち点1を積み上げられないチームは冷たい言い方だがそこまでのチームだったという事だと私は思っている。勝ち点75で自動昇格出来ないシーズンはハイレベルであるが、積み上げたものとは別に、ここ一番での勝敗に勝てないチームはたとえJ1に行っても勝てないだろう。
23年、夏場に神戸とマリノスを下して残留争いで息を吹き返したが、9月に新潟そして柏に敗れたチームが残留出来るはずもない。それと同様にここぞで「勝ち点1」すら拾えないチームは例えプレーオフで勝ち抜けることも怪しいし、勝ち抜いても相当に何かを変えないと23年を繰り返す。
たかが勝ち点1、されど勝ち点1。チームの連勝記録、負けなし記録、楽しかった。が、今はそれを懐かしめる状態ではない。開幕戦の相手山口が最終節の相手。開幕で拾った勝ち点1。最終節ではそれかそれ以上の勝ち点を奪えるか試されている。
栃木との試合で拾った勝ち点1をゴールに結びつけられるかどうかは自分たち次第。もし栃木に負けていたら、山口戦は引き分けでは自動昇格できなかった。4試合もあったアドバンテージはもう後ろ倒し出来ない。残されたチャンスはあと1つ。最後に勝って笑おうぜ。