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2024年J2第19節徳島ヴォルティス-横浜FC「喜びの歌」

「SUMO SUMO SUMO SUMO 横浜SUMO♪」というのは試合後、横浜のゴール裏に挨拶に来た福森の去り際に際してのチャントだった。「○○に家を買おう」的な言葉の意味は、そこに骨をうずめて欲しい=ずっといて欲しいの意であるが、福森自身は桐光学園卒で藤沢出身。引っ越していなければ藤沢に戻ってくる実家はあるはず。(彼の出身中学は、その昔ソシオが集まってフットサルをしていたミズノフットサルプラザ藤沢のすぐそばだなんて縁があったのかもしれない。違)そんな野暮な話はさておき、0-1で横浜は僅差のゲームを逃げ切った。


第九

徳島サポーターが歌う第九のチャント。なぜ第九なのかと言えば、鳴門が日本で第九の初演の地(正確には全曲演奏の初演の地)であることに着想を得ているのだろう。その昔、鳴門には板東俘虜収容所がありここにドイツ軍の捕虜が収容されていたことに端を発する。その収容所で1918年にドイツ人俘虜が演奏会をしたのが始まりで、毎年演奏会が鳴門市で行われている。日本では年末の風物詩となりつつある第九も、ここ鳴門ではこの初夏に歌い継がれている一種の地元の歌なのかもしれない。(ちなみに、鳴門市の西部にはドイツ村公園がありこれは板東俘虜収容所跡を整備したもので、また史料館としてドイツ館も建設されている。)

火中の栗を拾う

さて徳島である。増田功作監督である。徳島はシーズン序盤に吉田達磨監督解任、西谷契約解除、島川現役引退と激動のシーズンを送っている。詳細は他に譲るとして、激震が走った徳島で火中ならぬ渦中の栗を拾うように暫定的に監督になり、またチームを立て直して正式な監督に就任。最下位から脱出することに成功し、順位も上げている。
彼と横浜の関係は、最近では2019年に下平監督(当時)とJ1昇格を果たした際のヘッドコーチであったり、松尾佑介を見出したスカウトでもあったが、彼は横浜FCの初代11番だった。「スピード違反と宇宙開発」を繰り返すのが彼だった。難しいボールは決めるのに、簡単なボールはよく外す。そんなどことなく憎めない選手だった。あの時も創設直後の横浜を救った。2020年限りで彼は横浜を離れたが、選手としてJ2昇格、コーチとしてJ1昇格を成し遂げた大恩人である。今年も選手と指導者と立場は異なるが火中の栗を拾う人生なのかもしれない。

壁の穴

その彼が率いたチームに横浜は苦戦を強いられる。徳島の攻撃は、最終ラインがしっかりと跳ね返していた。ボニフェイス、岩武は徳島のブラウン賢信ノア、チアゴアウベスをシャットアウトし、攻撃らしい攻撃を許さなかった。徳島のゲームの組み立ては児玉のタクトが命運を握るが、彼からのボールを遮断する事は徳島に良い形を作らせなかった。

同様に横浜も攻撃の手を見いだせないでいた。山根と中野はサイドで手詰まりの様相を見せていた。そこに至るまでのボール運びでカプリーニと井上には激しいマークがつきリズムを寸断されていた。

前半43分自らボールを運んで前線にパスをした福森が倒されてフリーキックを獲得。7年前の大宮-札幌の劇的な同点ゴールとなったFKを思い出していた。セットしたボールの位置とゴールまでの距離も似ている。これまでコーナーキックや長距離のフリーキックでのアシストはあったが、このシチュエーションは直接ゴールを狙えるシチュエーションだった。左利きには絶好のボールのポジション。

福森が蹴ったボールは徳島ゴールに突き刺さった。壁があったはずだが、写真を見直すと壁が割れており、その間を通す形となっていた。7年前のゴールの時は壁を越えたが、今回はその隙間を射抜いた。彼自身は謙遜していたが、結果的にその壁の穴を通すことが出来る技術がなければゴールに向かって飛ばすこともままならない。横浜は徳島を攻めあぐねながらもフリーキックで先制点を獲得し1-0。

逆に、前半終了間際にGK市川のクロスのファンブルから攻め立てて横浜は徳島に危ないシーンを作られたが、ブラウンノアのシュートも弾き、エウシーニョのシュートも山根が足を出し、弾いたボールをGK市川がかき出してゴールを割らせなかった。横浜守備陣に生まれた綻びだったが、何とか前半戦は事なきを得た。

押し込まれつつ

後半3分でカプリーニが退くアクシデント。徳島からの執拗なファウルが深刻な怪我につながっていなければ良いのだが。核を失った前線はゲームメイクする事ができなくなった。カプリーニの代わりに入った小川は運動量豊富なタイプ、室井は裏に抜けたいアタッカーでゲームを作る選手がいなくなり、横浜の攻撃は散発的になってしまった。

徳島にボールを支配されて形が作れない。徳島は橋本、髙田、渡と続々と強気の選手交代で横浜ゴールに迫る。横浜は中村、村田を入れるが徳島の攻撃を押し下げられない。4バックのような形にした徳島に特に右サイドからクロスを許す。前半GK市川のミスを見た徳島は、クロスをファーサイドに集めてこぼれ球を狙い続けた。こぼれ球のシュートが外れる度に安堵するスタンド。

横浜は本来は前線の髙橋を下げたいところだが、彼を下げると前線の運動量が下がってしまう。櫻川ではサイドに誘導するのがやっとで、ギリギリまで引っ張るしかない。3回目の交代で残りの交代枠は2。井上のマークの受け渡しも遅れ始めたのを見て、残り5分で和田と櫻川をフィールドに送り出したのだった。

アディショナルタイムは5分。増田監督の執念を感じる時間だった。集中砲火を浴びたと言っても過言ではない。橋本のシュート、途中出場の杉森のシュートと波状攻撃を受けたが、それを凌ぎきっての勝利。

最高の年末に

1点の重みと守備をこじ開けられるかどうかの差が今の順位になっていると両チームのサポーターは感じたはず。私たちが長崎に敗れた時に感じたのと同じ。その僅かな差が、順位の差、勝ち点の差になっている。

リーグ戦の前半戦最後の試合に勝利し後半戦にも勢いがつく4連勝。上のチームとの差を意識するよりも、目の前の戦いにフォーカスしたい。1試合あたりの失点数で言えば、ハマナチオと呼ばれた2006年よりも現状低い。(2006年42試合32失点0.76、2024年19試合11失点0.57)我慢しながら細い攻撃をゴールに結びつけて、凌いで逃げ切りを図るお手本のような試合となった。これを今後も見ることになるだろう。新加入のリマが3位にいるクラブに注ぐガソリンとなってくれたら良いのだが。

そして目指すは年末の大団円。その時は、横浜でも高らかに歌おう我らの歓喜の歌を。ビューティフルネームを。

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