見出し画像

2024年J2第29節モンテディオ山形-横浜FC「おくのほそ道」

「閑さや岩にしみ入る蝉の声」と松尾芭蕉が詠ったのは、この山形の立石寺いわゆる山寺だった。試合終了とともにスタジアムには涼しい風が吹いた。横浜が山形に残酷な結果を突き付けた。ハーフタイムに打ち上げられた花火はあだ花になった。山形のサポーターのため息が、静寂なスタジアムを包んでいたように聞こえた。

競馬いうところの夏の上り馬のごとく、夏を過ぎてから急上昇を続ける山形の連勝を3で止め、自動昇格枠と優勝を争うチームの強さを見せた。


いささか ゼイン

試合の入りは横浜に分があった。立て続けにシュートを放ち、流れも悪くない。そう思ったの油断ではないだろうが、一瞬のミスを突かれてしまう。小川と中野が曖昧なポジションでどちらがプレッシャーに行くのかプレスがかからないタイミングで中野の裏のスペースに走りこんでいた山形イサカ・ゼインにボールが渡る。2022年横浜をJ1昇格に導いた俊足の右サイドのスペシャリストは、福森の守備を手玉に取りフェイントで彼の体勢を崩し、左足を振りぬいたシュートはいささか開いていたスペースを抜けてゴールポストに当たり、前半9分山形が先制に成功した。

山形は今夏鹿島に所属していた土居が完全移籍で加入。彼が入ってからチームは3勝1分。プレーオフ圏内を目指すチームの起爆剤になっていた彼を意識しすぎたとは思えないが、横浜はやや中心にブロックを敷いていた穴を狙われてしまった。

ここから山形の時間が続くかといえばそうでもなかった。スタッツを見ても、シュート数でも横浜は山形を上回っており、多くの時間でボールを支配していたのは横浜だった。ただし、横浜はボールを持たされるのは過去の傾向からも得意ではない。1点取って自陣に亀のようにふさぎ込む山形、ボールを持てるが打開策がない横浜。

山形は対横浜対策に5バックを準備し待ち構えたが、前線はディサロも高橋もいない。怪我なのか戦略なのかは山形の指揮官のみぞ知るとして、その中で山形・藤本の1トップを選び、5バックで先制点を挙げて逃げ切りを図る戦いは前半効果的に横浜を封じ込めた。

持ちつ、持たれつ

山形はボール保持率がJ2で最も高いクラブである。その山形にボールを持たされる横浜。ボールを持たされると、支配する。この違いはどこだろうと考えていた。なぜなら、持たされているにも関わらず横浜が後半は開始からほとんどの時間で攻め続けているからだ。

一つは縦パスと横パスの数だろう。横パスや後ろ向きのパスを繰り返して、相手を動かそうとする意図はあるが、それを繰り返しても相手はそれ以上前に出てこない。この試合ではガブリエウが縦パスを何度も入れていた。井上やユーリより先にも通すことで、相手のブロック1列をかいくぐれる。これは山形の守備が時間とともに強度が下がってきていることを意味している。

もう一つは、侵入しているエリアである。深いところまで侵入してゴールを狙えている。後半11分、山根がボールを持ち、ポケットに侵入したユーリにパスが渡ると深い位置まで相手選手を引っ張ってクロスを上げる。反応したのは髙橋。ヘディングで簡単に押し込み同点に。

同点にされて山形は藤本を後藤に交代させたが、効果は薄かった。むしろ同点にした横浜はシャドーの2枚の選手を交代させて前線からより押し込んだ。

再現性のある攻撃を見せる

後半16分に横浜、山形どちらのチームも選手を2人交代させている。これが試合を決めたといっても過言ではない。正直なところ、土居を下してくれて横浜としては楽になった。山形の前線は3人ともフレッシュだが、その3人に良いボールがほとんど入らない。手を付けるべきだったのは後ろ。5バックで後ろ重心で殴られているのでは前線にボールが入っても攻撃に厚みがない。

横浜の村田投入の狙いはイサカを押し込むこと。イサカは攻撃には滅法強いが、守備は万全ではない部分がある。山形でも3トップの一角を担い、横浜でもDFでの起用は殆どなかった。村田に高い位置を取らせて、山形に反撃の狼煙をあげさせなかった。

後半35分、1点目をとった時と同じ山根がサイドでボールを握り、ポケットに飛び込んだユーリが今度はクロスではなくボールをマイナスに戻すとシュートを放ったのは井上。一度は防がれるが、このこぼれ球に左足を振りぬいたのは福森。地を這うシュートはゴールに吸い込まれ横浜が逆転。

Jリーグ公式のスタッツ上ではシュート数は横浜20に対し、山形5。特に後半は横浜が一方的に攻撃していた中で欲しかった逆転ゴールがやっと生まれた。普段シュートを中々打たない井上も積極的に放ち、ゴールを奪う意識はチーム全体からヒシヒシと感じていた。

次会うときはJ1で

山形の反撃を凌いで横浜は15戦負けなし。ここ5試合で4勝1分となった。台風の影響で徳島清水戦が延期されたことで、暫定首位に躍り出た。
また、3位の長崎が栃木と引き分けた為に残り9試合で勝ち点差は10に広がった。端的に言えば残り9試合で長崎の全勝を前提として、6勝3敗でも昇格が可能な状態になった。

それでもまだ確証はない。何も決まっていない。それでも、きっと来年山形とは同じステージにいない気がする。温泉もあって、米も果物も美味しい、観光も楽しいこの山形に来年来ることはないのだろうか。

私たちはこの旅路の先を急ぐ。一番最初にたどり着きたいからだ。おくのほそ道の終着・大垣で読まれた芭蕉の最後の句が

「蛤の ふたみにわかれ 行く秋ぞ」

意味は「深まりゆく秋、蛤の実と殻を割くように、また再び別れの時がやってきた。」つまり、お別れの意味を示している。第38節終わった時に、J2に悲しいお別れを告げなければならない。
来年出会うなら、J1で。残り9試合で勝ち点を最大27積み上げられるのはどこのチームも同じ。これからまだどんな道のりが待っているのか誰もわからないから、この道が正しい方向だと信じて進む。



いいなと思ったら応援しよう!