2024年J2第36節横浜FC- ファジアーノ岡山「ビビッてんだろ?」
「今日は昇格を見に来たんだけどな」と言っているサポーターがいた。前節の仙台戦の惨敗を見ていたら、そんなこと簡単に思えないだろう。プレーオフ圏内を争うチームはどこも必死で、負けたら即地獄のような空気で戦っている。長崎がプレーオフ以上の出場はほぼ確定している中で、残りの3枠を4チームで争っているのだから。
それを振り切れるだけの力が横浜にはなかった。首位に立って残り3試合4試合の場面で苦労する。必死なチームの勢いに屈したと言えばこちらを下げない物言いだが、自分たちのチームがファイトしていなかった。
パフォーマンスの低下は明白
仙台戦で選手を罵倒したサポーターは今どう思っているのだろうか。「言った通りだろ」とでも思っているのだろう。選手たちはそれに反発をしたが、見返すべく臨んだ岡山戦でも4失点での大量失点の敗戦では、あの時の警告は正しかったという事になる。
岡山に4失点で敗れたのだが、内容も低調なままだった。特に目立つのはユーリと福森のパフォーマンスだろう。
ユーリの場合は、彼で刈り取れるシーンが減った。1失点目は、ディフェンスラインに吸収され相手ボールになった瞬間にブロックを敷けなかった。3失点目は彼が上がった裏のスペースを使われてしまって失点。J1に上がったら3年目を迎えることになる井上、ユーリのコンビの守備強度の問題を露呈。ユーリを前に出すのがチームとしての約束ごとなのであれば、井上が底でいいのかという問題に達する。本来高い位置でボールを井上が捌くのが仕事であるが、この試合では逆。攻め気にはやるユーリをチームとしてコントロールできていないようにも映る。本来だと、奪われたら危機察知してファウルを厭わぬ守備を見せるユーリの闘争心溢れるプレーはその欠片も見られなかった。
福森に関しては、開幕の山口戦で見られたような左サイドのアタックに手を焼き突破を許すケースが多々ある。このあたりは、清水戦や仙台戦でも同様にはっきりと狙いをもってこのサイドにボールを集められている。中野や井上、ユーリが対応するが同じシステムで戦う岡山の場合はそこでギャップを作られてしまう。ラインが低い位置で我慢してボールを奪っても前線まで距離がある状況。それを奪われて失点したのが岡山の先制点。
ボールを奪われても緩慢な動きをしている。切り替えという言葉があるが、判断の切り替え、意識の切り替え、プレーの切り替えのどれもが岡山に劣っていた。髙橋が倒されたプレーはファウル気味だったが、そのジャッジがされていない以上足を止めてはいけなかった。意識が「ファウルでは」と頭にクエスチョンマークを付けたままでプレーも切り替えられなかった。
前半アディショナルタイムに追加点を許して前半だけで2失点は仙台戦からの改善がなされていないままだった。今チームはこういう状況なのである。絶望感に打ちひしがれていても仕方ない。苦しくても目をそむけてはいけない。
遅い目覚め
後半立ち上がりに2020年横浜に所属していた一美にミドルシュートを決められる。ユーリのパスミスを奪われて、一美に渡り山根、井上がプレスに行くが剝がされてミドルシュートをフリーで許してしまう。
GK市川のセーブも届かずゴールネットを揺らされてしまう。市川の課題はミドルシュートへの対応かもしれない。アウェイ群馬戦、アウェイ仙台戦、ホームの愛媛戦とミドルシュートにやや隙を感じる。
後半10分にはコーナーキックから岡山・田上に決められて4失点。岡山サポーターすら肩透かしを食らったであろう緩い守備。ホームに漂う絶望感。
ただ、岡山も4得点して雑なプレスになったところを横浜は見逃さなかった。山根が低い位置からドリブルを開始。カプリーニに当てて最前線に飛び出すと山根がフリーでゴールを決める。その直後にも中野のクロスに相手守備陣の裏で待っていたカプリーニが左足でゴールに叩き込み2点を返した。
ゴールが生まれてから全体的前からボールを追うようになりラインも上がり岡山に好きにボールを運ばせなかった。途中出場の岡山・ルカオも大きな体躯でボールを収めようとするが、そこに関してはボールをしっかりと跳ね返したり、スピードの差で前を向くことを許さなかったりとそれ以上の失点は許さなかった。
しかし、それ以上横浜も勢いを出すことができず2-4で試合終了。長崎も勝利した為今節での昇格はお預けに。うなだれる選手達。残り試合2試合で勝ち点差5あるのに勝ち負けはあるが、堅守を誇ったチームが2試合で7失点は悲観的な感想が出てきて当たり前だろう。逆に2得点奪えるのなら最初からそのクオリティは出せなかったのか。なぜ出なかったのか。
2度あることは3度ある
2022年のJ2でも横浜は終盤苦しくなり連敗を喫した。岡山が負けたことで昇格を試合前に決めた金沢戦でも敗戦。優勝を手にすることはできなかった。
さらにさかのぼること2016年のJ2。四方田監督が当時指揮していた札幌は順調に勝ち点を伸ばしていた。奇しくも8月に横浜に敗れたものの、19試合で1敗と強さを見せていたが、10月に入って途端に苦しむことになった。5試合で1勝2分2敗とブレーキ。最終的に優勝を飾ったが、終盤9連勝を飾った清水相手に勝ち点差1まで迫られ、最終節引き分けて何とか勝ち点差1で優勝。敗れていたら得失点差で首位陥落していた。
つまり四方田監督のチームは、10月になると不調になるのが定番といえば定番。それがメンバー固定化による見えない部分での疲労なのか、後半になって相手チームの対策が進んだことの影響なのかわからないのももどかしい。それを許せるか許せないかはさておき、こうしたチームを楽しむことは大切かもしれない。
20試合負けなしで走ると、自分たちは自然と強いと錯覚する。それを後ろから殴られた時に、正常な感覚に如何に早く戻せるか。ここ2戦相手に怯えてサッカーをしているように映る。構えているでもなく、受け止めているでもなく、相手にやられている。それは素直に言えばビビってる。
栃木との相性を調べたり、栃木サポーターの言葉にピリピリするのもビビってるから。そんな妄言は無視すればよい。「最後に笑おう」は目の前にある悪い部分の修正を先延ばしにして、終わり良ければすべて良しの意味で使ってはいけない。最後に笑いたいなら、目の前に向き合うしかない。
勝利したいが、大敗で連敗を喫しておりそれを声高に叫ぶには空気を読めていないから口をつぐんでしまう状況。勝ちたいな、でも不安だな。2位だけど優勝をいうのは恥ずかしいな。失点したら嫌だな。連敗したら嫌だな。万が一昇格できなかったら恥ずかしいな。首位に立つと目指すものがなくなるから怖いのか。上に誰か立っている時だけ吠えるのか。違うだろう。
10月29日、飛び込んできた武田英二郎現役引退の報。彼がそんなへっぴり腰でフワフワした気持ちを焼き払えという燃料を投下してくれたのだ。シーズン序盤に森を、中盤に岩武を怪我で失い、そして最終盤に武田が引退表明。彼らのためにも、ビビッてなんかいられない。誰に何言われても、どう思われてもいい。3度あることは4度あると信じて。昇格をする。