E115:喪主とチキンタッタ
「タッタ」か「タツタ」か
それが問題だ…
うりもさん家も、先日そんな議論があったらしい…
源 だいたい、なんで「タッタ」なん?
父「タッタ」は「タッタ」やないか
源 いや、「タツタ」やろ?
父 タッタ揚げのタッタやないか
源 父ちゃん、それも「タツタ揚げ」やろ?
父 まぁ美味しければ何でもええんちゃうか?
この会話が、実家の食卓でなら、ほのぼのしてて良い話なのかもしれない。
でも私は、はっきり覚えている。
この会話をした場所は、
30年近く前の「祖父のお通夜会場」である。
つまり、この会場において、父は「喪主」である。
当然、四方は黒と白の鯨幕で覆われ
目の前には祖父の棺が安置され、遺影が飾ってある。
そんな場所で「喪主(子)とその息子(孫)」が
お通夜が始まる直前、事もあろうに「チキンタツタ」について議論を交わしている…。
考えれば、考えるほど、コッケーな光景である。
チキンだけに…
本当はもっとしめやかに
故人の冥福を祈るような感じでなければならないと思うけれど、
ま、「あの」爺さんだからなぁ…
孫の私でさえ、そんな感じ。
だって、こんな爺さんだったから…。↓
そこからちょっと時を戻して、通夜前日のこと…
私は030から始まる
父の当時の携帯電話に電話をしていた…。
「030」から始まる「10桁」の電話番号…。
若い人は知らないと思うが
このような携帯電話番号を持つ人は
携帯の「超・初期ユーザー」なのである。
世の中、
まだほとんどの人が携帯を持ってない時に、
父はもう携帯電話を購入していた。
今と違って、話している途中にゴォオオオーッと、
「この世の終わりみたいな爆音」が鳴って、いつ途切れるかわからない。あの頃の携帯電話はまだそういうリスクがあった。
そんな不安定な携帯電話に
私は電話をしていたのである…。
電話は奇跡的につながったのだが……
源「あの、父ちゃん、聞こえとる? 爺さん亡くなったらしいわ。それでね、お寺のことやけど……」
父「源太、わかった。ほいで、ちょと待ってくれへん?」
源「あ、聞こえにくいか? 電波の通るところに行ってや…」
父「あ、ちゃうねん。お前の声は、よう聞こえとるで。ちょっと待っててや(父の声が小さくなって)あのすみませんお姉さん、ちょっと注文よろしいですか?)
源「…え?注文? 父ちゃんどこにいるの?」
父「このチキンタッタのセット1つ、ドリンクはコーラでくれますぅ?」
源「…チキン…タッタ? どこで電話してんの?笑」
父「え? 源太、何?」
源「あの、…爺さん…亡くなったで」
父「うん。わかったで。だから、マクドでチキンタッタ注文したんや……俺、これ好きなんやわ。ちょっとバンズが他と違うやろ…」
源「…父ちゃん、いや、だから、爺さん亡くなったで」
父「源太、お前もよう覚えときや。俺はこれから喪主や。喪主はな、いろんなお客さんの応対せなあかんから、なかなか食べる暇ないんやで、だから今のうちにしっかりと……」
源「うん。わかった。でもな、父ちゃん」
父「なんや?」
源「チキン…『タツタ』やで!」
祖父が亡くなったという、本来であればとても厳粛な電話であるはずなのに、私たち親子はほとんど「チキンタツタの話」をしていた。
父は、マクドナルドのようなファストフードは
あまり好んで食べない。
にもかかわらず、
このチキンタツタだけは、大のお気に入りなのである。
もし仮に、私が亡くなった時、棺の私そっちのけで
甥っ子たちが「チキンタツタ」の話をしていたら、私は個人的に大ウケすると思う。
ま、そんなことは絶対にしない子たちだけれど…
父方の祖父の時の私は、万事こんな感じ。
母方の祖父の時の私も、割と平然としており、
我ながら、意外にも、淡々とクールに人を見送るのだなぁと思っていたら、
母方の祖母の時の私は、それはもう、鼻水垂らしてずっとしゃくりあげていたので、大切なのはやはり、生前の関係性、及び、与えてもらった愛の深さであることがよくわかった…。
話がそれたが、もう一度元に戻すと、
正式には
「チキンタツタ」が正解である。
【66日ライラン 30日目】