E54:心の中の山田スミ子が吠える時、あの店員さんを思い出す
……ない。
お目当てのレトルトカレーがなかった。
少し気が進まなかったけど、近くにいる暗い感じの店員さんに声をかけた。
源「すみません。バスセンターのカレーってありますか?」
店「え? バセットカレーですか?」
(…おいおい、どんな聞き取り方やねん)
源「いえ。バス、センターの、カレー、です」
店「はあ、聞いたことがありませんね」
(いや、あんたの経験は知らんがな!)
源「あ、そうですか」
僕は、この時点で、この人に質問するのをやめた。
メモを取る感じでもない。詳しく聞く感じでもない。まるで他人事のようだった。
店「…ないみたいですねえ」
一応10秒ぐらい探す「ふり」をして、そのおばちゃん店員は、僕にそう答えた。
僕は、努めて穏やかに「ありがとうございます」
と話を終えたが
心の中には「山田スミ子」が出現した。
(あんさん、もうちょっと真剣に探す気持ちは、あらしまへんのかあああああー!)
『あっちこっち丁稚』なら、ここらで赤フンを呼んでいるタイミングである。
45歳以上の関西人しかわからないネタで、ごめんなさい。
取り扱いないなら、仕方ない。
知らないなら、知らないでいい。
でも、なんだか
とても哀しい気分になった。
商売人の祖父母を見て育ったからか、「カッコいい店員さん」を見ると、どうも前のめりになってしまう自分がいる。
ただし、ここで言う「カッコいい」とは、当然容姿のことではない。「仕事がカッコいい人」である。
僕の人生の中で、強烈な印象残した店員さん。今でも思い出に残っている。
僕は小学6年生。
店員さんは推定20歳前後のお兄さん。
当時ウォークマンの CMで流れていた曲が気に入って、いいなと思っていた僕。ところが、40年近く前の事。それを特定する方法が小学生にはわからない。
邦楽なら方法はあるけれど、洋楽だからどうしようもない。ビートルズのようなメジャーな曲でもない。ただコマーシャルで流れているだけ。
誰の曲かもさっぱりわからない。
正直、途方に暮れていたら、本当にたまたま入ったレコード屋さんで「まさにその曲」が流れていた。
僕はダッシュでレジに行って
「い、今かかっているこの曲のカセットください‼️」
レコードだと家でしか聞けない。
とっさに考えて、カセットテープをお願いした。
すると、お兄さんはにっこり笑って、全く迷うことなく、ある棚のところに行き、僕にカセットテープを渡してくれた。時間にしてたぶん15秒くらいだったと思う。
まるでマジシャンのように、お兄さんの手の中からカセットテープが出てきた。
うわ、か、かっけええー!
お兄さんも曲を知っていたのかもしれないけど、聞かれてから僕に手渡すまでの、その動きに1つの無駄もなく、迷いもなく、小学生にはそれがすごく眩しく見えた…。
だから、Hubert Kahのこの曲を聴くと
同時に今でも、あのお兄さんを思い出す。
僕も、もう少し、自分の仕事を頑張ろう。
人の振り見て、なんとやら。
決意を新たにした週末だった。