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かわいそうだね?/綿矢りさ【読書メモ】

またしても、自分用の個人的な読書メモ。

【読んだ背景】
2編入った文庫本だった。
手に取ったのは、帰省中に森美樹さんの本を読み切って手持ち無沙汰になり、実家の近くの本屋で背表紙を見かけて、タイトルがいいなと思ったから。そのまま「亜美ちゃんは美人」のあらすじを読んで、ますます良いなと思って購入を決意。
これを買って本屋を出たら、ストールを失くしたというしょうもない思い出付き。後でレジで聞いたら出てきたけど(ありがとう…)。

【あらすじ】
「かわいそうだね?」
主人公の彼氏が、家に元カノを泊める(短期ではなくまさかの長期。というか元カノが就職できるまでという無期限)のでそれを許して欲しいと言われる、というなかなかヘビーなスタート。
元カノは年齢の割に(主人公より年上の30歳)幼く、だらしなく、「ごめんねえ~」という態度で、でも出ていかない。悪い人じゃないんだけど図々しい女。服もチープ。実家には頼れず、たしかに彼氏が言う通り「彼しか頼れるところがない」のかも?
主人公はいわゆる「強い女」。でも何かがあったら彼氏に守ってほしいと思っている女の子な一面もある。彼氏のことが信用できないわけじゃない。でもその正義感を元カノにまで向けちゃうのはどうなのよ?と不満を抱きつつ、彼の前では無理して、冷静ぶっている。

「亜美ちゃんは美人」
主人公のさかきちゃんの「親友」・亜美ちゃんは美人。悪い子じゃないけどいつも目立ってちやほやされるゆえに鈍感で、実はさかきちゃんのタイプの男の人と何の苦労もせずサクッと付き合ったり、新歓で隣のさかきちゃんを無視したり雑に扱ったりする男子たちの悪意に気づかず楽しそうにお酒飲んでたり、学生時代はそれなりにさかきちゃんのコンプレックスを刺激してきた張本人。
そんな亜美が社会人になってから連れてきた婚約者がとんでもないダメ男で…

【感想】
「かわいそうだね?」
*何がつらいって「元カノを家に泊めていいかな?」「元カノが困っていて放っておけないんだけどどうしたらいいかな?」ではなく、ほぼほぼ元カノを止めることは決定事項で、「元カノを家に泊めるから許してほしい。許してくれないなら別れる」っていう切り出し方。最悪。なんで決定やねん。ていうか元カノごときを引き合いに出して、「俺だって別れたくはないよ」とか言いながら、別れるという選択肢が“ある”ということが腹立つよね。まず、ふつうは“ない”から。
*主人公が途中、切羽詰まっている元カノを見て「この人はかわいそうな人なんだから許してあげなくちゃ」と慈愛に目覚めるところが面白かった。それで我慢の限界が来てしまうんだけど。
*リアリティが凄い。彼氏のケータイを見るシーンとか、この人(作者)、過去に彼氏のケータイを盗み見たことがあるのかというほど描写がリアルで、手に持った二つ折りケータイの感触やはやる心臓の音が伝わってくるほどだった。姉の描写もリアル。恋愛の相談をしあっているとか、単発で出てくるのではなく、家族のエピソードでは必ず出てきたりとか、自分の名前は好きじゃない、まあ姉よりはましだけど、とかさりげないモノローグに出てきたりとか。“ごくふつうの、姉がいる人の姉との距離感”がリアル。主人公を中心とした相関図がちゃんと地続きな感じが凄い。
*もし自分が百貨店に勤めるおしゃれな垢抜けた女だったら、彼氏がチープな服着た芋臭い女と浮気したら腹立つだろうな~・・・
*最後の関西弁でキレるシーンが、私はあんまりだった。関西出身なのにね。読んでていたたまれない・・・と書いていて気付いたけど、それだけの共感性羞恥があったってことはそれだけ引き込まれたってことかも?とにかく、ずっと我慢してきた主人公がやっとキレたシーンなのに、すっきりしなかった。だってね、“しゃーない”んやもんね。

「亜美ちゃんは美人」
*新歓で美人の横の友達を雑に扱う男の描写がリアルで、でも怖いもの見たさでもっと読みたい!って思ってしまった(しかしここで出てくる男の人たちが面白くないのが本当に腹立つ。いじるならちゃんとおいしくいじれ!って感じ。芸人さんでもないし無理な話やけど)
*主人公の彼氏と亜美がつながっていた、みたいな展開じゃなくてよかった。けど・・・、途中、主人公の彼氏が「お前が初めてではない」みたいに言うシーンがあったよね。あれは・・・?あのシーン異色だった。深読みしすぎ?
*正直、亜美が頭悪くなかったらどうなってたのかな、というのは気になっていて、個人的にはそっちの展開が見たかったな~とは思った。美人の子が自分になびかない、優しくもないダメ男にベタぼれして、周りの反対を押し切って結婚というラストは、謎の清涼感はあったけど、ふつうの美人はちゃあんと自分を愛してくれるハイスペックな男を選ぶと思う。亜美が頭の緩い美人だという設定は理解している。でも極論すぎて、途中までリアルだったのに急にフィクションになっちゃった感じがした(たとえばよく「性格の悪い美人と性格の良いブスならどっちを選ぶ?」みたいな問いで、「ほらね、やっぱり人間は顔じゃないでしょ」みたいに言う人がいるけど、そういう現象が起きてる気がした。そんな都合よく極端に何かが欠落した美人はそういないはず。私が会ったことないだけ?)。まあフィクションなんだけどね。

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