歳時記を旅する 11〔追儺〕前 *鬼役にほどよき痛さ追儺豆
土生 重次
(昭和六十三年作、『素足』)
京都・壬生寺の節分会では、壬生狂言の『節分』を上演する。
「節分の日、後家は豆を用意し、柊に鰯の頭を刺して門口につけ、やってきた厄払いに厄を払うまじないをさせる。
厄払いが去ると、今度は蓑笠をつけた旅姿の鬼がやって来る。
後家はこれに驚いて逃げ出す。そこで鬼は策略を練り、門口の鰯を食べ、魔法の「打出の小槌」で着物を出して変装して後家を呼び出す。
鬼は後家にたくさんの着物を与え、共に酒宴を始めるが、酔いつぶれる。
後家はつい欲が出て、鬼の小槌を奪い、着物まで剥ぎ、その正体を見て叫び声をあげる。
鬼はその声に目を覚まし、何もかも取られたことに気付き、怒って後家につかみかかろうとするが、後家は鬼の嫌いな豆をまいて鬼を追い払う。」(『壬生狂言』壬生寺 編)
句の鬼は、逃げ回りながらも、面に当たる豆の音に、厄が払われていることを実感しているのではなかろうか。
(俳句雑誌『風友』令和三年二月号 「風の軌跡―重次俳句の系譜―」)
写真/井上隆雄 壬生寺編『壬生狂言』淡交社
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