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鑑賞*水筒の音軽くなり岩鏡
吉田 富枝
山歩きがしたくなった。
高山植物の花の季節に出発の日を合わせて、何日も前から当日の天気を調べる。当日は早く起きて肌で気温を感じてまずは空を見て天気を案じる。
お弁当を支度して、雨具も用意して、植物図鑑も忘れない。双眼鏡もあると好ましい。忘れ物がないか今一度確認して山に出発である。
登山口から歩き始めて森閑とした森の中を歩き続ける。登山道を覆う木々や足元の草花に目を留めては仲間とその名前を確認し合う。
この季節、この花が咲いているなら山頂付近にはあの花が見られるかもしれない。期待は高まるし足取りも軽くなる。やがて視界が開けて青い空と湧き上がる雲に迎えられる。空気は幾分冷たい。
荒涼とした岩場にも厳しい冬を耐え抜いて強い風を避けるように咲く花がある。岩鏡もそんな花のひとつ。可憐ながらも逞しく生きるその姿に、上り坂の疲れなど言ってはいられない。大きな岩に腰をかけて暫しの休憩。水筒の音が軽くなっているのは、水が少なくなっているからか、氷が溶けてきているからか。
さもなければ、出会えた岩鏡に高揚した気持ちがそう感じさせているからか。
(岡田 耕)
(俳句雑誌『風友』平成二十三年三月号)