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新設された「不出頭罪」の適用。不出頭の理由に思わず「今後増えそう...」と思ったり 傍聴小景 #120(覚醒剤取締法違反、刑事訴訟法違反)

悪いことをしたら、それ相応の罰を受けることに1ミリも異論はないのですが、刑を受ける前の身柄拘束って結構堪えるんだろうなと思っています。

1~2日で釈放される人もいれば、2~3ヶ月の人、もしくは判決までずっとという方もいらっしゃいます。中には無実の方もいらっしゃいます。
普段と異なる環境に身を置いているという状況はもちろんですが、社会との接点が断たれることのストレス、不安というのはとてもとても普通に生活しているだけでは想像が難しいです。家族へはどう伝わってるの?仕事はどうなるの?家は?などなど。

じゃあ僕は、日本の身柄拘束の規定は厳しすぎる!と言いたいかというと、別にそうではありません。事態にもよります。

甘いと思うこともあります。正確には「ありました」。

保釈されている被告人が裁判に不当に出頭しない場合の対応に、対応が甘いなぁなどと考えていました。もちろん、保釈取消の措置はありますが。

つい先日、裁判から逃げまくっていた男の動画を作りましたので、よろしければご覧ください。

そんな中、2023年刑事訴訟法の一部が改正、成立しました。

保釈又は勾留の執行停止をされた被告人が、召喚を受け正当な理由がなく公判期日に出頭しないときは、二年以下の拘禁刑に処する。

刑事訴訟法 第二百七十八条の二

「不出頭罪」などとして、最初に適用されたケースではニュースになり、一部の界隈では関心を持たれました。今後、増えていくのかもしれませんね。

そして、大阪でも類似の裁判が行われましたので、今回はそれをご案内いたします。しかし、それは裁判への出頭とはまた違う不出頭の話でした。


はじめに ~今後増えるか「刑事訴訟法違反」~

罪名 :覚醒剤取締法違反、刑事訴訟法違反
被告人:40代の女性
傍聴席:平均6人(傍聴した2回)

私も初めて開廷表で見た罪名「刑事訴訟法違反」の文字に、みんなの関心はどうかなと思ったのですが、傍聴人のほとんどが被告人の関係者と見られる方々で、一般の傍聴人はわずか。まぁ、そんなものです。
これから関心が高まればいいのです。

被告人は物静かな感じの40代の女性。第1回公判は見れていないので、年齢は推測です。
あとでデータを調べてわかったのですが、この裁判、第1回のときは罪名が「覚醒剤取締法違反」のみでした。そして、その後の追加の起訴によって、刑事訴訟法違反が足されたことになりました。なので、1回目は見逃してしまっていたわけなのですね。

不出頭罪が刑事訴訟法違反になることは分かっていたので、最初は覚醒剤のみで裁判になったけど、そこから不出頭したことによって、刑事訴訟法違反も追加で審理されることになったんだろうなと想像していたのですが…


事件の概要(起訴状の要約)

被告人は
①日本国内の場所不詳において、覚醒剤を身体に摂取した
②被告人は、①の嫌疑がかけられ、取調べ等のため留置施設に身柄勾留されていた。その後4日間の勾留の執行停止決定がなされたものの、その期限から6日間留置施設に出頭しなかった

勾留されている被告人の、期限を守らない不出頭の事例でした。先ほどの刑事訴訟法278条の2とはまた異なるものとなります。

期間を指定されて勾留の執行停止をされた被告人が、正当な理由がなく、当該期間の終期として指定された日時に、出頭すべき場所として指定された場所に出頭しないときは、二年以下の拘禁刑に処する。

刑事訴訟法 第九十五条の二

この事例は、あまり裁判で話題になることはないのですが、今までどれほどあったのでしょうか。
ちなみに、類似の法改正として

・保釈または勾留の執行停止により定められた制限住居に許可なく一定期間帰らない場合(同法95条の3)
保釈または勾留の執行停止が取り消されて、出頭を命じられたが正当な理由なく出頭しなかった場合(同法98条の2など)
懲役刑など身柄拘留の言渡しを受けたが、正当な理由なく出頭しなかった場合(同法484条の2)

などもあるようです。今後、この刑事訴訟法違反に注目することで、いろいろと身柄拘束に悩む現場の方々の実態が掴めるのかもしれません。


採用された証拠類 ~自分だったらどう逃走を止める?~

検察官証拠(刑事訴訟法違反のみ)
被告人は警察署にて勾留されていたが、母の葬儀に参列するため4日間の勾留の執行停止が認められる。
弁護人も付き添っていたものの、式場内で親族でトラブルになり、別の親族の交際相手の車に乗って逃走。元内縁の夫から15万円を受け取るなどし、ラブホテルやホテルなどを転々とした。

(最終的な発見の経緯は不明だが)見つかった際にいたマンションの契約者は、「被告人を説得しようと思った」、元内縁の夫は「葬儀費用として15万円を渡した」と供述。

被告人は、親族と喧嘩になったことで嫌になりその場を離れ、戻る気力を失ったなどと供述している。

まず、普段傍聴しているものでは、勾留の執行停止というワードが出てこないのでそれが新鮮でした。必要性、緊急性が認められる場合に停止が認められることがあるようです。主な例としては、

・病気やケガの治療を受ける
・入学や卒業のための試験を受ける
・家族の冠婚葬祭に出席する

などがあるようです。確かにどれも人生において欠かせないものではあります。ただ、冠婚葬祭に関しては、勾留中の事情を知っている人もいる中で、それが元でトラブルになりやすいのかもなと思ったり。

それにしても、実情ははっきりしませんが、車に乗せて葬儀場を走り去る親族の交際相手ってのと、あくまで葬儀代として金を渡した元内縁の夫、あくまで説得するためとして一時的にでもマンションを提示した人物など、なんともな登場人物が揃っています。

自分が3人それぞれの立場と考えても、なかなか理解できないところではあります。でも、仮に自分だったらどう対応しているのかなぁ。

ニュースなどを見て「逃走するのは悪い!」と感じる感覚自体は間違っているとは思いませんが、被告人でなくその周囲が自分だったらどうするかという点にまで、想像が至るようになるのが、裁判の深い見方なのかなと思います。

覚醒剤の事件部分については、後の論告や判決などでわかるのですが、同種の前科が多数ある方ということでした。今回の使用についても、前刑の仮釈放中での犯行とのこと。

今回は、いろいろと身柄拘束について、例を出しながら話していますが、いろいろ制限のある仮釈放中の禁止事項違反には何か罰則ないのかなと、次なる興味が広がってしまうのが、法律未学習者ライターの沼なのであります。


被告人質問 ~「今度は真面目になってね」母の最期の言葉を胸に~

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