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裁判の判決ばっか集めちゃいました(3月版) 傍聴小景 #63
刑事裁判の進行には大きく分けて以下の3種類あります。
新件→一回目の裁判。事件内容などが分かる
審理→前の回で終わらなかった裁判の続きの実施
判決→その名の通り、判決を宣告する回
つまりは、裁判の途中の様子は全然わからないけど、「判決」の部分だけ傍聴するのことができるのです。多くの裁判が判決だけなら5分~10分程度で終了します。
そこだけ見ても…とお思いかもしれませんが、どうしてその判決を下すにいたったかの理由を説明するに際し、事件の内容はおおまかに説明するので(裁判官によっては割愛しますが)、短期間で事件内容に多く触れるという意味では結構勉強になるのです。
という訳で、「なんで?」という疑問は残るものもありますが、判決のみ裁判特集です。
No.24 逃れられない男
罪名 :公務執行妨害
被告人:30代の男性
公務執行妨害の裁判って結構好きなんですよね。
もちろん公務を妨害することは悪しきことなんですけど、ちょっと小突いただけでアウトなことも多く、その態様が様々でどんなものか気になるのです。
判決
主文 懲役1年、執行猶予4年
被告人は奥さんの束縛が厳しく、距離を置きたいと考えていました。事件の日、奥さんが運転で出掛けていたところ、交通事故を起こしてしまいます。
その取調べ中「今だっ!」とばかりに警察官に大外刈りを決める柔道経験者の被告人。公務を妨害したら、奥さんと物理的に距離を置けると思った上での犯行だそうです。そんな訳わからん理由で巻き込まれる警察官さん...。
ちなみに、裁判においては情状証人として奥さんが出廷し、「事件によって離婚をするなどせず、今後も生活を監督する」と証言したとのこと。それが嫌だから事件を起こしたというのに、なんたる皮肉な結末。
被告人が再犯に及ばないことを願うばかりです。
No.25 審査をする男
罪名 :強制わいせつ、強制性交等、強要、脅迫
被告人:40代の男性
まぁ判決だけでも驚くべき内容でした。傍聴するまで事件のことは知らなかったのですが、後々調べてみたら結構大きく報道されていて、裁判も1年以上やってたみたいです。
その犯行として疑われている内容ですが、以下の通り
①
A(21歳女性)に対し、あらかじめ被告人の携帯していたAの裸の動画を送り「Aは囚われの身だよ、先生(被告人)が親に送ったら社会的にどうなるか」などと脅し、性交や口腔性交などを行った。
②
マッチングアプリで知り合ったB(19歳女性)とカカオトークでビデオ通話中に、裸にしたり、放尿をさせた。「申し訳ないけど全て保存している。一度流出したらなかなか消えないよ」「従順して服従するか、反抗して大変なことになるか」などと脅迫し、手で乳房や陰部を触る。
③
C(24歳女性)とカカオトークでビデオ通話中に、自慰行為を行わせて「録画データあるんで好きにさせてもらう」「誕生日にネットデビュー。会社に実名でバレたら困るよね」などと脅迫した。
よく裁判をまるでドラマのようだとか言ったりしますけど、こんなのドラマでも見ないですよ。
これらの疑いに対して弁護側は、
・性交等は行っていない。仮にしたとしても同意の上である
・被告人は恥辱プレイの一環と思っており、趣旨を説明している
・3名の女性はもともと金銭を求めており、畏怖しているわけではない
などとして無罪主張だったようです。女性らに動画を送らせたことは弁護側も争わないようですが、これらは対価を支払うための「審査」という名目だったようです。さっきは自分を「先生」と呼んだり、この行為を「審査」と呼んだり、何に影響されたんだか...。
判決
主文 懲役10年、未決勾留日数320日算入
具体的な争点や証拠はわからないので、なんともですが
・証言などから動画の拡散を恐れていたのは明らか(畏怖していないという主張に対し)
・女性陣が「お金を払ってくれるのですか?」と聞いたが「払うのはそっちじゃないか」と返している(脅迫にあたらないという主張に対し)
・Aは友人に相談する際に「レイプされた」とは言っていないのは、Aが「レイプとは暴力を伴うもの」と認識していたためのもので不自然ではない
などなど。
その他、過去には同じく性犯罪で懲役13年の判決が下るなど性犯罪の前科が3犯あるにも関わらず、出所後1年の犯行に規範意識の欠如は相当に甚だしいという結論でした。
どこまで詳細な内容が報じられたか知りませんが、こういう事件があると被害女性にも一定の非難の目が向くことがあります。軽率であったことは否めませんが、それで犯罪被害にあっていいはずは当然ないですからね。
こういうのって報じられることで、被害女性が改めて事件を思い出すという二次的な被害が生まれる可能性ありますけど、一方で抑止的な効果もあるのかなとは思います。
こういう性犯罪に限らずですが、裁判のこと扱うといろんな視点での指摘があって、いつも考えさせられます。
No.26 温泉を飲む男
罪名 :大麻取締法違反、覚醒剤取締法違反
被告人:50代の男性
かなり珍しいのですが、判決の前日かな?この裁判のことがとあるニュースになっていまして。その内容に驚いた僕は何がなんでもといかねばと法廷に向かったのでした。やはり報道もあってか、普通の違法薬物の裁判よりも傍聴席には人がいて、数名記者の方もいました。
さてその気になる内容なのですが、問われている内容は4件。
①ホテルの部屋にて覚醒剤を使用した
②その部屋にて覚醒剤、大麻を所持していた
③ホテルの駐車場にて覚醒剤を所持していた
①~③は連続した話
④上記とは別の機会にて、覚醒剤を使用していた
というもの。幾分、数は多いですが、内容としてはそう珍しいものではありません。では、なぜ報道されていたかと言いますと…。
判決
主文 懲役1年6月、未決勾留110日算入、執行猶予5年
起訴①〜③の件は無罪
ということで、④の事件だけ有罪認定をして、①〜③の事件に関しては無罪が言い渡されました。
どうして無罪が出たかというと、その事件については違法捜査が行われていたと。そして、それを証拠として裁判所が採用しなかったとのこと。
裁判所は検察官、弁護士から提出され、採用を決めた証拠でしか判断しないので、弁護士から違法収集の指摘が入り、それを検証した結果、採用せずとなったようで、有罪と決められるものがないため無罪となりました。
具体的にどこに不備があったかわかりませんが、焦ってルールから外れてことを進めることなどがあれば、真実はどうであれば、このような判断になるのです。
一般視点で考えると「とは言えやっているのは事実なんじゃないの!?」と、なかなか理解しにくい部分ではありますが、やはりそのあたりの線引をちゃんとしないと自白の強要など強引な捜査になりかねないのでしょうね。
ちなみに今回の被告人の場合、それ以外でもやってたので、完全無罪とはいきませんでした。その件では、以下のいずれかに覚醒剤成分が含まれているのではないかと主張したようです。
①点鼻薬を使っていた
②鎮痛剤を飲んでいた
③温泉を飲んだ
④デリヘルに媚薬と言われて勝手に何か塗ってきた
さすがにこれは通りませんでした。
今回の判決、懲役1年6月、執行猶予5年となっており、通例に比べて執行猶予が長いです。
執行猶予が長いということは、長い期間様子見ないと危ないなぁということ。こんな変な言い訳したり、違法薬物の再犯可能性ありって判断されたのだと思います。
No.27 200億の男
罪名 :現住建造物等放火、現住建造物等放火未遂
被告人:20代の男性
裁判員裁判の判決を傍聴してきました。
従来の裁判と違って、あらかじめ争点整理が関係者間で行われており、期日が短く設定され裁判員の負担が少ないよう設計されているこの形態。とはいえ、1日で行う時間がガッツリだったり、情報量が多くなるので私はなかなか追えておらず、判決だけサクッと見ることが多いのです。
判決
主文 懲役12年、未決勾留日数90日算入
事件は放火未遂1件と、既遂1件は倉庫に火を放ち約3万平方メートルを消失させたというもの。
幸いにも働いていた100名強に死傷者はおらず、その他勤務中に先輩に叱責や暴力を受けた事実を認定したものの、ほとんどがそのトラブルとは関係ない人物であり、焼損面積から想定される被害総額はなんと200億とのこと。これによって職業を失った方もいるとのことで、非常に長い刑期となりました。
こんな被害額になったら、今後の賠償ってどういう話になるんだろう...。
そんな訳で、今月の判決特集でした。
今回の記事の内容は動画にもしていますので、こちらも併せてご覧ください。
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