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SNSでのバズり方を聞きたくなる被告人(迷惑防止条例違反) 傍聴小景#39

法学部でない人にとって(私もです)、法律や条例の条文と言われても、難しくて大変そうと思いがちかと思いますが、意外と大人になって読んでみるとそうでもなかったりします。単に私が法律かぶれしてきただけかもしれませんが。

迷惑防止条例全文 (警視庁HPより)
さすがに、これを全部読んでくれとは言いませんが、東京都が制定している迷惑防止条例の全条文です。意外と読もうと思えば読めるし、細かいところまでケアしようとしているなと感じることができるのではないでしょうか。
あの数万字の記事を皆さん読んでるんだから、これくらい余裕っしょ。

はじめに

罪名 :公衆に著しく迷惑をかける
    暴力的不良行為等の防止に関する条例違反
被告人:30代の男性
傍聴席:12名

迷惑行為の対象が多いため、起訴内容を聞くまでどんな裁判になるのかわからないのが、この罪名のいい(?)ところ。実際は、痴漢や盗撮などの行為が多くて、「またか...」と思うこともありますが、たまにこんな行為も対象なんだと驚かされ、勉強にもなります。

事件の概要 -あれ?じゃあ歌舞伎町は…-

被告人はJR蒲田駅周辺において、不特定多数の人物に対して「いちゃキャバなどいかがでしょうか」「僕にチャンスもらえないでしょうか」「ノーブラとかどうっすか?」などと異性との飲酒を伴うサービスの客引きをした

これ、さきほどの迷惑防止条例の第7条、不当な客引行為等の禁止の(5)ロなんですかね。一応引用しましょうか。

(不当な客引行為等の禁止)
第7条 何人も、公共の場所において、不特定の者に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
(5) 次のいずれかに該当する役務に従事するように勧誘すること。
イ 人の性的好奇心に応じて人に接する役務(性的好奇心をそそるために人の通常衣服で隠されている下着又は身体に接触し、又は接触させる卑わいな役務を含む。以下同じ。)
ロ 専ら異性に対する接待をして酒類を伴う飲食をさせる役務(イに該当するものを除く。)

警視庁HP 改正迷惑防止条例全文よりhttps://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/about_mpd/keiyaku_horei_kohyo/horei_jorei/meiwaku_jorei.html

これダメなんですね。過去に女性を性風俗店等へスカウトすることの違法性は書いたことありますけど、キャッチもアウトとは思いませんでした。

ということは、本来的には歌舞伎町ってほぼアウトなんですね。僕も数度、歌舞伎町でぼったくられてますけど、あいつら今からでもマジ検挙されねぇかな。

ちなみに被告人の見た目だけでいうと、裁判用に大人しいスーツを着ているというのもあるけども、いたって普通の30代男性。適度にオシャレに気を配っているのはわかるけど、特段チャラさなどは見えず、裁判にも落ち着いて対応しています。
まぁ、裁判中に「うぇいうぇい」やってる被告人ってのも見たことはないですが。

検察官が証拠として提出した資料や供述など

・被告人は中学卒業後、職を転々として約7年前から客引き行為を行っていた
・週5日ほどの勤務で、週10万円ほどの利益を得ていた
同行為で3度の罰金前科がある

・警官が悪質の客引きの視察を行っている中で発覚した
・ボイスレコーダーで録っている中で、40mに渡り(恐らく私服の)警官につきまとった

警官ってこういうこともするんですね。
悪質性を見極めるまで、40mも我慢するときの気持ちは釣りで糸を垂らしているような心境なのでしょうか。肝心なときは「かかった!」と思うのでしょうか。検挙するには、ここまで言っちゃダメみたいなガイドラインみたいなのがあるのかもしれませんね。

そしてふと思ったのですが、私は大阪に移り住んで10年以上が経っていますが、こういう異性が待機するお店への客引きの記憶があんまりない。細かいのはちょこちょこあるけど、少なくとも今回のように40mもついてくるってのはないなぁ。
東京のときは確かについてくるイメージがあってそれが普通なのかなぁなんて昔を思い出したり、今の歌舞伎町はどんな様子なのだろうと思いを馳せてみたり。

証人尋問 -むしろ心配になる証人尋問-

証人はお父さん。メガネをかけスーツを着た、いたって普通の真面目そうなお父さんという感じ。

弁「証人はどんな仕事をしていますか」
証「運送業で、朝から働いています」

弁「今まで、被告人は罰金刑などに
  処せられていますが、監督はできていましたか」
証「できていませんでした」

弁「それはなぜですか」
証「女房に任せっきりで、息子の話を聞けなかった

あっ、これは女性怒りそう。
奥さんのせいにするっていうの!?きっと奥さんもSOSを求めていたけど、仕事が忙しいからって話聞かなかったんじゃないの!?って。
まぁまぁ、これは自制の意味で言ってるんで、どうか目くじらを立てないでください。と、勝手に女性の怒りを代弁して、勝手に擁護するという誰も得しない妄想を展開。

弁「保釈後はどうですか?」
証「色んな事を話しています。もう二度と
  こういうことはしないと言っています」

弁「生活態度はどうですか?」
証「私とよく話すようになりました。
  二度とやらないということを信じます」

弁「どんなことを話していますか」
証「法的にやってはいけないことは、
  やってはいけないと話しています

大丈夫かな?それくらいは今までの罰金前科のときも言えたと思うけど。
まぁこんな公開の裁判にかけられているくらい大ごとになっているということを認識してもらうってことで今回はよしとしましょう。

もう開始5分くらいで証人尋問は終了。
あんまりネチネチ聞かれ続けるのもかわいそうだけど、淡白に終わり過ぎるのもその人のタメになってなさそうでなんだかなと思ってしまいます。

被告人質問 -SNSを駆使する被告人-

続いて被告人質問。お父さんは結構、緊張している感じはあったけど、被告人は客引きをしているせいか、結構ハキハキと喋ります。

弁「今回、どうして行ってしまったのですか?」
被「自分の生活と、開業資金を貯めるのが目的です」

弁「開業資金?」
被「自分の店を持つのが夢なので」

弁「今、あなたはガールズバーを経営していますが、
  それは一つ夢が叶ったということですか?」
被「まぁそうですね」

これは僕の中で、職業差別というか、色眼鏡で見てしまっているんだろうなぁと思うんですが、
客引きは反省したので辞めます、その結果ガールズバーを経営することになりましたということにモヤモヤを感じてしまいます。法に触れない経営ならどうぞという話なのですが、うまく言葉にしにくいところを的確に突かれた気分です。

弁「定職についたことがないと思いますが、
  どうやって経営しているんですか?」
被「ボーイをやっていた期間も長いので、
  そこのノウハウを活かしています」

弁「どういうところに苦労していますか」
被「女の子集めが大変なのと、
  ネットを使ってお店を知ってもらうのが大変です」

弁「具体的に頑張ったエピソードなどありますか」
被「女の子同士のコミュニケーションが
  円滑に進むように努力しています」

なんか質問っていうより、面接みたいと思ったり。
仕事頑張ってますを主張したいのはわかりますが、裁判所でガールズバーの運営の苦労話を聞かされるとは思わなかった。まぁ確かに女の子同士のコミュとか大変そうだよな。むしろ、どう改善したのか具体的に俺も聞きたいわ。
ちなみに、苦労している女の子集めとお店の周知ってのの延長に、職業安定法違反や今回の客引きが含まれているのわかってるのかな。
一歩間違えたら法に触れそうなギリギリなラインで頑張っていることで努力アピールしているのもなかなかに面白いです。

弁「経営が厳しくなったら、今後どうします?」
被「女の子を守らなきゃいけないので頑張ります」

弁「でも、経営できないほどになったら」
被「人脈があるので夜の仕事をやめます」

弁「人脈って、夜の仕事での話じゃなくて?」
被「いえ、昼の仕事の付き合いもあるので」

弁「将来、どうなりたいとかあるんですか?」
被「島暮らしが好きなので、
  離島でのんびり暮らしたいなと思っています」

島暮らしだぁ!?
経営はよ!守るべき女の子はよ!昼の仕事はよ!
すげぇいろいろとすっ飛ばして将来の夢を語り出したな。島暮らし舐めんなよ。俺もまぁ、「島=意外と裁判所ある」くらいの認識しかないけどさ。
いろいろと頑張りたいのはわかるけど、ちゃんと正してあげるであったり、お仕事の手本を見せてあげる人がいないと厳しいかもしれないですね。

続いては検察官。

検「今、お店の集客はどうやってんですか?」
被「SNSなどをやって順調です」

検「客引きを使ってないの?」
被「今、入っているビルは客引きを一切使ってないんで」

検「今後、経営厳しくなったらどうするの?」
被「でも、SNSって今めっちゃ盛んなんで、
  それ頑張ってるんで

もはやSNSって当たり前過ぎて、よっぽどバズる何かがないと厳しいと思うんだけどなぁ。
でも、もし彼の店がそのバズる何かを掴んでいるとするならば、僕にもその方法教えてもらえないかなぁ(小声)。まずバズりたいなら、裁判なんてニッチな分野を辞めろと正論言われて泣きそう。

検「この客引きってなんで処罰されると思う?」
被「路上でいきなり知らない人に声をかけられ、
  何をされるんだろうという恐い思いだったり、
  邪魔で迷惑な気持ちにさせることもあると思うんで」

検「罰金刑ってのは
  それで懲りるって思って課してるのわかります?
被「はい」

検「今後、そういうこと繰り返さないと誓えますね」
被「僕も守る女の子がいるんで。
  その子らにも迷惑かけちゃうんで」

検「女の子を守るために
  人が集まらなかったら客引き使うんじゃない?

被「いや、ホントSNSって人来るんですよ

だぁ~、もうSNSの影響力のお話はいいって!そんで後でこっそり俺に教えてね(小声)。
ちなみに綺麗ごと言ってるんじゃなく、僕ってほとんどそういう店に行かないんでわからないんですけど、行く人っていちいちSNSをチェックとかして行くものなんですか?なんか酔っぱらって、その流れで適当に入るものだと思ってた。
まぁ、お店が気に入ったらその後にチェックしたりするのかな?よくわからんけど。

検察官は職業的な犯行で悪質性が高いとして懲役六ヶ月を求刑
弁護人は自分の夢を叶え、困難に立ち向かっている若者であり、今は規則正しい生活を送っているので何卒考慮をという弁論。
そういや、こういう店を経営していて、ちゃんと親と話とかできる時間に家にいるのかすげぇ気になってきた。

判決は即日結審と言って、そのままの流れで宣告されました。裁判の証拠など事前に三者間で整理されているときなどに使われることがあります。
裁判官もあらかじめ判決文を用意しているので、頑張って質問に答えた証人や被告人はなんだったんだという気もしますが。

判決主文は懲役六ヶ月、執行猶予三年というもの。

最後に裁判官は、
風営法のトラブルとかもありうるので、少なくとも三年は普通の人より注意するようにしてくださいねと伝えていました。

こちらの想像も入っちゃいますが、本人としては客引きとして頑張ってたところから自分の店を持つことになって、SNSでそれなりに反応を得て、将来は島暮らしに向けて紆余曲折ありながら頑張っていると思っているかもしれません。
でも、罰金刑から、執行猶予付き判決と、法律的にも着実に悪しき方に足を進めてしまっています。どうか、そのことを彼にちゃんと正しく認識させられる人がいてくれたらなと思います。

ちなみに「蒲田 ガールズバー」で検索したら店いっぱいありました。SNSもそれなりに見つけました。
こういうときに、わざわざTwitterとかインスタをチェックしちゃうので、筆が止まるんですよね...

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